(杉山勝彦・武蔵情報開発代表)

 10月22日、共同通信から「国産ジェット旅客機の開発、事実上凍結へ」という記事が配信され、メディアが相次いで報道するなど大きな話題になっている。しかし、冷静に考えれば驚くことではない。三菱航空機と三菱重工業による日本初の大型民間ジェット機(MSJ、三菱スペースジェット)の開発は、すでに2020年の春先から事実上の凍結状態にあるからだ。完全撤退なら話は別だが。

 MSJは15年に初飛行に成功したが、開発は苦難の連続だった。17年から19年までの3年間における設計変更と改良は900カ所を超えた。

 それでも、米国ワシントン州モーゼスレイク(飛行試験拠点)で試験機4機を投入した試験飛行は3900時間に達し、設計変更を織り込んだ最終試験機(旧称10号機)も20年3月に初飛行に成功するなど、TC(型式証明)取得へ向けた開発活動は最終フェーズに入っていた。それだけに新型コロナウイルスによる打撃は大きい。米国での試験飛行は、ワシントン州当局からの活動中止命令により、1機も飛べない状況にあるからだ。

旅客需要回復に時間

 今、需要先のエアライン業界は最悪の状況にある。運航停止、とくに、収益源の国際線の停止はエアラインの致命傷になり、3月以降倒産または休業に追い込まれたエアラインは、各国を代表するフラッグ・キャリアも含め19社にも及ぶ。残るエアラインも青息吐息だ。20年1〜9月における米航空大手3社(アメリカン、デルタ、ユナイテッド)の総収入は前年同期比62%減、最終損益は235億ドル(約2兆4680億円)の巨額赤字を計上した。

 市場が早期に回復する見通しも立たない。IATA(国際航空運送協会)の予想によると、20年の世界全体の旅客輸送量は昨年比66%減少、21年もコロナ禍前の74%水準にとどまる見通しだ。23年から回復し始めるものの、本格的な回復は24年を予想している。

 コロナ禍により身動きが取れなくなった三菱重工業は、既存の試験機を保管する一方、開発中の試験機と量産準備機の製造を中止する。当面は膨大な試験データの解析に集中するとみられ、すでに半減させた開発費、従業員数についても、一段の削減も考えられる。 もっとも、まったく明るい展望がないわけではない。コロナ禍を契機に高まる小型機志向、ライバルのエンブラエル社の不安定な経営状況などがMSJの復活を後押しするだろう。この世界的危機を耐え忍べば好機が訪れる可能性がある。もともと航空機業界は20年単位で考える業界であることを忘れてはなるまい。

 むしろ、最大の懸念材料はMSJではなく、三菱重工業の収益源になっているボーイング向け機体部品の大幅な減産だ。ボーイングは、20年から21年にかけて主力の大型機「777」、中型機「787」の月産機数を急激に減らす見通しだ。三菱重工業のみならず日本のサプライヤーにとり、極めて厳しい状況に陥ることを覚悟する必要があろう。