「無観客も当然想定しながらいくつかのシミュレーションをしている」。東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長は2月3日、東京都内で開かれた日本オリンピック委員会の会合でこう述べ、東京大会について、競技会場に観客を入れない形で開催することが選択肢にあることを明らかにした。

 7月に延期された東京大会は本当に開催できるか。不透明感が増している。米ジョンズ・ホプキンズ大によると、新型コロナウイルスの感染者数は1月に世界全体で1億人を突破した。変異ウイルスも各地で確認されている。さらに、国内でも昨年末から感染者数が再び増加傾向だ。

 政府や都、組織委は「中止や延期といった話は出ていない」(小池百合子都知事)として、今夏の開催は譲らない構えだ。しかし1月に共同通信社が実施した世論調査では、今夏の開催の見直しを求める声が約8割にも上った。政府は会場に入れる観客の上限を今春までに決める方針だが、無観客開催も検討せざるを得ない状況だ。

 仮に、無観客で開催された場合にどの程度の経済的な損失が出るのか。関西大学の宮本勝浩名誉教授は、損失が約2兆4133億円に上ると試算する。

 宮本氏は、東京都オリンピック・パラリンピック準備局が公表する試算を基に各種損失を計上した。まず、大会参加者や観戦者による消費支出の約9割が失われ、約3813億円の損失となる。次に、会場で応援できなくなることでグッズなどの売り上げも半減し、約2808億円が失われる。国際映像制作・伝送費(約278億円減)や企業マーケティング活動費(約299億円減)にも影響が出る。

 さらに大会後の「レガシー(遺産)」効果も、文化や教育、最先端技術などさまざまな面で、期待していた効果が望めず、約1兆527億円が消失する。1年延期による損失約6408億円もあり、すべて足すと2兆4133億円に上る計算だ(図)。

 宮本氏は既に、中止の場合の損失を約4兆5151億円、簡素化して開催の場合は約1兆3898億円と試算している。宮本氏は「中止、無観客、簡素化のいずれの場合も経済への打撃は大きい」と指摘した上で、「中止の損失4・5兆円は全国の百貨店売上高(2020年約4兆2200億円)に匹敵する大きな額だ。無観客でも開催されれば、損失はある程度の額にとどまるといえる」と話している。

消える外国人特需

 第一生命経済研究所の永浜利広首席エコノミストは、東京オリンピックが中止になった場合の影響額として、完全な形での開催との比較で、国内総生産(GDP)ベースの損失が1・7兆円、経済波及効果ベースで3・2兆円と試算する。また無観客開催での損失額は、GDPベースで1・3兆円、経済波及効果ベースで2・4兆円になると見込んでいる。

 永浜氏は「過去の夏季大会開催国は、世界中に映像が流れるPR効果などにより、開催後にインバウンド(外国人客)が増えている。これがなくなる損失を加味すると、中長期的な損失額はさらに拡大することになるだろう」と語る。

(編集部)