介護離職者は年間10万人も出ているという。もし介護離職をしたら、どんな生活が待っているのか。その実情を探った。

「介護離職に至ってしまったら、手遅れなんです」



高齢期の親をもつ40代〜50代のための生活支援情報を発信するオヤノコトネットの代表取締役・大沢尚宏さんはこう語る。厚生労働省の調査によれば、介護離職者は年間10万人 。また、会社は把握していないが、介護をしながら仕事をしている「隠れ介護者」は1300万人といわれる。ただ、後者は推計値にすぎず、実数は把握しきれていない。



「現在の平均寿命は男女ともに80歳を超えていますが、戦後直後1950年は男性で58歳。昔は子世代が40、50歳になる頃には親がすでに亡くなっていることも多く、介護という言葉すらありませんでした 。その後、長寿化が進んで皮肉にも要介護の親の面倒を見る子どもの比率が増えてしまった。さらに、かつては日本は大家族で、5人兄弟などが普通でしたが、今はきょうだいの数も少なくなっているため介護の担い手がいなくなってしまったんです。また、昔と違って、男性同様に社会に出て働く女性も増えたことから、自分の親の介護を奥さんにお願いすることも難しくなってますよね。だから、自分が辞めて介護をせざるを得なくなるパターンが増えているのでしょう」(大沢さん、以下同)



介護離職10万人のうち、男性は2割程度。女性の割合が多いものの、高齢化はさらに進み、厳しい状況が加速するのは火を見るより明らかだ。もし介護離職をしたら、どんな生活が待っているのか。



「もちろんデイサービスなどはありますが、親子二人で暮らす場合は、基本的に一日中介護でつきっきりという日も多くなります。なかでも一番心理的な負担が大きいと聞くのは、下の世話。トイレ介助はどうしても必要です。離職したならば、顔を合わせる人はヘルパーさんやご近所付き合い程度になり、社会性は確かに少なくなりますね」


介護離職後、正社員として再就職できる確率は約50%


さらに大沢さんが示してくれたのは、介護を終えた後に関する驚くべき数字だ。介護離職後、離職前と同様に正社員として再就職できるのは、約50% 。4人に1人は無職状態に陥る。年収も激減。男性は平均556.6万円→341.9万円になるというデータもある (出典:三菱UFJリサーチ&コンサルティング「仕事と介護の両立に関する労働者アンケート調査」/明治安田生命福祉生活社「『仕事と介護の両立と介護離職』に関する調査」)。



とはいえ、現在政府は「介護離職ゼロ」を掲げ、介護休業や介護休暇、勤務地に関する配慮について支援制度の充実を図っているところ。働きながら、あるいは会社を休業しながら介護を行う環境は整ってきてはいないのだろうか?



「中小企業は余裕がないでしょうが、大企業は対策を講じているところも多いですよ。ただ、勤務しながら介護している人はいるものの、精神的に続かないケースも多い。介護休業や介護休暇は制度として存在してますが、職場によりますが、『今日は介護で午前中で帰ります』って繰り返してたら、つらくなりますよね。理解がある会社でも、周囲の雰囲気は厳しくなるのはよくあるケース。そういう話は私もよく耳にします。人間、本音と建前はありますから」


介護期間の見通しの悪さが仕事との両立を難しくさせる


また、介護期間の見通しのつきづらさも問題を深くさせている。介護の平均年数は平均4年11カ月というデータ もあるが、10年に至るケースもざら。介護を始めた年齢が50歳で、10年かかるとしたら、60歳…。以前と同じような仕事は任されなくなってしまうだろう。



「だから、私がよく言うのは、『介護と仕事の両立ってそんな甘いもんじゃない』ってこと。つまり、親が元気な時からケアをするのが一番。介護が必要になってから制度を使って介護するからいいや、なんていうのは危険なんです」
では、介護離職に至らないために、何から始めたらいいのだろうか?



「個人や状況によって大分違いますが、もっとも大切なのは、親と“本音で話をすること”です。『田舎を離れたくない』、逆に『同居してもいい』っていう親御さんでも本音は別であることも多い。だから、一人暮らしになったり、両親のどちらかが要介護状態になった時、本当はどうしてほしいのか、どうしたいのか、本音で議論する必要がある。これに尽きるでしょう」



本音を聞き出すテクニックとしては、「単刀直入に介護の話はせず、健康状態など別の話題から本音を聞き出す」「質問を工夫して、親が答えやすい雰囲気を作る」などがあるそう。親のプライドも加味して、話し方には十分に注意を払った方がいい。そうでないと、頑なになってしまう。



要介護状態でなくても入れる自立型の老人ホームもある。親と本音で語り合う機会を多く作り、地域の包括支援センターや『オヤノコトネット』のような場所で情報収集をすれば、親子ともに納得して、介護離職という最悪の事態は避けられるはず。



「介護離職は2020年前後に、社会課題として看過できないほどの問題として顕在化するでしょう」と大沢さん。大変な時代が目の前に迫っている。まずは親と密なコミュニケーションをとることが、自分の生活を守るためのはじめの一歩となりそうだ。