7月に関東ゴルフ連盟主催のアマチュア競技で選手が帰らぬ人となったり、8月に入っても兵庫県明石市の副市長がプレー中に倒れ、搬送先の病院で亡くなったりと、猛暑のゴルフ場で亡くなる人は後を絶ちません。そんな中、山梨県の上野原CCでは、AEDの設置台数を通常の10倍近くまで増やす大胆な対策を取っています。
同伴プレーヤーが倒れた時は躊躇なくAEDを使うべき
猛暑の日々が続いています。去る7月10日、東京ゴルフ倶楽部(埼玉県)で行われた関東ゴルフ連盟主催の「関東月例競技」では、プレー中のA選手が最終ホールで倒れ、帰らぬ人となりました。

倒れた人が呼びかけに応じない場合の救命措置として、真っ先に行われるのが人工呼吸と胸骨圧迫、AEDの蘇生措置。東京ゴルフ倶楽部にも、キャディーマスター室とコース内に2カ所ある茶店に1台ずつ、計3台のAEDが備えられていました。
7月10日の事故の際に、A選手が倒れたのは9番ホールのグリーン。マスター室のAEDが持ち出され、5分後には現場に届いています。私も現地に行き、9番からマスター室まで歩いてみましたが、わずか290歩の距離でした。
しかし懸命の処置もむなしく、A選手は帰らぬ人となっています。実際のところ、猛暑の中でプレー中に倒れた場合、心臓疾患だけでなく脳梗塞などで亡くなるケースもあります。その場合もAEDを使うべきなのでしょうか。
現場近くのJR笠幡駅前・誠弘会池袋病院(埼玉県川越市)の林信一医師が、こうした時の対策について話してくれました。
「倒れている原因が実際には何かという特定までに、すぐには至らないかと思うんですね。そういった意味では、やっぱり心臓に関して(倒れた)きっかけになっている可能性というのも選択肢の中に入ってくるので、それはもう躊躇なく使っていただいてよろしいかと思います」と、AEDの使用については一刻も早く使用することを勧めます。
さらにこうも付け加えます。
「倒れた原因が、残念ながら心臓のほうということではなかった場合でも『心臓が原因で止まっているということではない』というところの除外も含めての確認にはなるので、そこは(AEDを)躊躇なくつけていただいて、機械の判断ではあったとしても、使っていただいてチェックしておくというのが一つだと思います」
つまりは危険な状態に陥っている原因が心臓ではない、と除外できる点でもAEDを使用する意味はあるというご意見でした。さらに「あくまで予測なんですけど」と前置きしたうえで、林先生が警鐘を鳴らすのはプレー中の脱水症状。
「脳梗塞を起こされていたという場合、大元は脱水なんだと思うんですね。脱水になっている段階で少し休息を取られたかもしれませんけれども、水分に関しては不十分だったところがあるんじゃないかと。脳梗塞というのは、血液中の水分がなくなると、いわゆる皆さんがよく言う『血がドロドロになる』ということになるので、その分、血栓、血の塊ができやすくなります。つまる原因となるものが血管の中でできやすくなるということになるので、そういったところが一つ可能性としてあるんじゃないかなと思います」
ゴルフ場の突然死は後を絶ちません。8月18日の午後にも、兵庫県明石市の横田秀示副市長(60)が市役所の同僚5人と朝来市内のゴルフ場でプレー中に倒れ、病院に運ばれましたが約6時間後に死亡しました。
平成30(2018)年に一般財団法人日本救急医療財団が発出し、厚生労働省のHPにも掲載されている「AEDの適正配置に関するガイドライン」の中に、こんな一文があります。
「ゴルフは他のスポーツに比べ競技者の年齢が高く、ゴルフコース1施設あたりの心停止発生率は、0.1/1年と高い。また、ゴルフ場は郊外にあることが多く、救急車到着までに時間を要すると考えられることからも5分以内の電気ショックが可能となるようにコース内に複数のAEDを設置することが望ましい」

こうした中、実に25台もの乗用カートにAEDを搭載しているゴルフ場があります。山梨県上野原市の上野原カントリークラブです。同コースで稼働している乗用カート50台の半分にあたる25台、講習を受けたキャディーさんが乗るカートに搭載され、「もしもの時」に備えているわけです。
「約1200人のメンバーの平均年齢は60歳を超える」(関係者)上野原CCで倒れたゴルファーが、山梨県では初めてドクターヘリを利用し、しかも一命を取りとめたこともあり、危機意識の高いゴルフ場として知られています。
導入を推進したセコム山梨の社長はAEDを携行してプレー
この裏で奮闘しているのが、セコム山梨株式会社の田中慶一社長。国産メーカー・日本光電のAEDをSANWAのゴルフ場カートAED専用収納バッグに詰めることで「5分以内に電気ショックが可能」というAED設置ガイドラインに沿った導入計画を山梨県内のゴルフ場に働きかけてきました。

セコムでは、1回あたり講師2名をゴルフ場に派遣し、30名までに対応するAEDトレーナーと人体模型などを用意した講習を2回ずつ開催しています。
(1)プレー中の心停止を想定し(2)キャディーさんと他のプレーヤーが協力して救命対応を実施(3)119番通報と同時にクラブハウスに連絡し救急車手配していることを共有(4)AEDマークのあるゴルフカートへAEDを取りに行くというポイントを押さえつつ、人体模型などの機材を使ったAED講習を行っています。
そうした動きのキッカケとなったのが、この上野原CCだったというのです。しかも驚かされるのは、田中社長がどのゴルフ場にプレーに行くときにも、必ずAEDを携行することです。
「自分も趣味でゴルフをやっていますが、ゴルフ場ではAEDはだいたいクラブハウスに置いてあるだけ。クラブハウスから遠く離れたコース上で心停止が発生した場合、駆けつけるのに最低5分はかかってしまうでしょう。1分1秒でも早くAEDを使ったほうが救命率が高くなるので、常に身近に置いておきたい」と、持参したAEDを乗用カートに積んでプレーをしているということです。田中社長とプレーすることになった同伴プレーヤーたちも、心強いに違いありません。
高齢化が進む中、プレー中の突然死が続発している日本。この時期は猛暑という危険因子が加わっており、ゴルフ場側もAEDの設置に力を入れるべき時が来ているようです。
取材・文/小川朗日本ゴルフジャーナリスト協会会長。東京スポーツ新聞社「世界一速いゴルフ速報」の海外特派員として男女メジャーなど通算300試合以上を取材。同社で運動部長、文化部長、広告局長を歴任後独立。東京運動記者クラブ会友。新聞、雑誌、ネットメディアに幅広く寄稿。(一社)終活カウンセラー協会の終活認定講師、終活ジャーナリストとしての顔も持つ。日本自殺予防学会会員。(株)清流舎代表取締役。
小川 朗(日本ゴルフジャーナリスト協会会長)