初心者がスイングを習得する上で、まず“グリップ”から覚えるものと思っていませんか? 人気インドアゴルフレンジKz亀戸店・筒康博ヘッドコーチは「グリップは間違った解釈やプロセスを踏んでいる人が沢山いますが、少し取り組み方を変えてみては?」と言います。
ビギナーの“グリップ”はスタートライン
大人になってからゴルフを始めた人ほど「まず“グリップ”の握り方から」覚えるものと考えている人が大半ではないでしょうか?
一方、小さいころにゴルフを始めたエリートゴルファーの多くは、最初のグリップの形やどんなアドレスをしていたか、といったことは覚えていないのではないでしょうか?

ビギナーにとっての “グリップ”は、クラブを振るための「スタートライン」と捉えて下さい。「正しい握り方」を最短で覚える事は理想ですが、スイングや弾道を繊細に調整するセッティングツールが“グリップ”の役目です。
しかし、ビギナーに最初からシビアに教える事はストレスになります。また、グリップの種類や役割を理解してもらうことは難しい作業になります。 “グリップ”は「腕前を表す」くらいに捉えてスタートし、徐々に改善・上達してもらえればいいと思います。
グリップ→アドレスの順ではスイングが上達しない!?
日本のレッスンで一般的な、「まずはグリップから」というレッスン。
世界のインストラクションをみてみると、“アドレス”のポスチャー(姿勢)からレッスンしているものが多いです。

まず直立して、骨盤から「おじぎ」するように上半身を前傾し、軽くヒザにゆとりを持たせます。直立した時のヒジの向きを変えずに腕を前に出し、クラブを握ります。
つまり、姿勢や腕の向きが決まってからグリップを覚える方法です。この方法だと体の位置に合った両手のポジションも決まりやすく、後から「両手はどこにあればいいの?」など“グリップ”が決まってから悩む事がなくなります。
もう一つは、レッスンの現場の声として「姿勢が向上するとグリップも良くなる」ことがあります。体の動きを良くするには、まずアドレスから準備をしなくてはいけません。アドレスを良くするうえで、腕や手の位置も変わることもあります。その結果、グリップの握り方も向上していくのです。
上級者ほどクラブを握っただけで姿勢の良いアドレスが出来るようになりますが、“グリップ”を良くしただけでアドレスの姿勢が良くなったケースは非常に少ないと思います。
グリップの向きでフェースを管理する
“グリップ”には色々な握り方がありますが、まずは種類と役割を説明します。
右打ちのゴルファーが自分からグリップを見た場合、左手の「ナックル(こぶし)」がいくつ見えるか、右手は人差し指と親指で作られる「V(またはY)字」の向きで分類します。

まず左手ですが、ナックルが1〜2つなら「ニュートラル」、3つ以上なら「フック(ストロング)」、1つ以内なら「スライス(ウィーク)」と呼ぶ場合が一般的です。
スイング中、クラブフェース向きは左手グリップの向きに影響を大きく受けるからです。ゴルファー自身から見て、左手のナックルの数が多く見えるほど、インパクトでフェースを閉じやすくなり、力強いインパクトがしやすいため「フック(ストロング)」と呼ばれます。
逆に少ないと、インパクトでフェースの向きが開きやすいため「スライス(ウィーク)」と呼ばれています。
右手はというと、「V(またはY)字」の向きがゴルファー自身の右側を向くほど「フック」、逆に左側を向くと「スライス」になります。
ちなみにですが、フェース向きを閉じて使いやすいので「フック」、開いて使いやすいので「スライス」と呼んでいるだけです。握り方そのものでボールが曲がる訳ではありません。
グリップに正解はない
ここで「ある疑問」が生じませんか?
そもそもグリップの向きに「正解があるのか?」です。結論からいうと、「ゴルファー自身の目的に合っていればOK」です。
ビギナーの多くは、特にドライバーで右方向に飛びやすい傾向があります。とりあえず両手とも「フック(ストロング)」でスタートした方が早い段階でスライスやプッシュアウトなどの右方向のミスを防ぎやすくなります。
一方で、ボールがつかまるようになれば左方向のミスも増えていきます。グリップの向きを「ニュートラル」から「スライス」方向へ調整する事で、フックや引っかけのミスを軽減する事ができます。
腕前やスイング、球筋の変化に伴いグリップの向き「フェース向きを管理する調整つまみ」も変わる可能性があります。
左右の強弱をコントロールする
スイングにおいて両手は非常に器用で繊細な反面、器用すぎて悪者にもなりうる事があります。右利きの人が右打ちでゴルフをする場合、器用で使い慣れた右手を使いすぎる事があります。
ゴルフスイングは野球と同様、10本指で握るグリップ「ベースボールグリップ(またはテンフィンガー)」で始まったそうです。このグリップのメリットは、10本すべてがグリップしているため、両手のパワーをクラブに伝えやすい事です。プロアマ問わず、女性やジュニアゴルファーには成功例が非常に多くあります。

その昔、ハリー・バードンというゴルファーがいました。彼は右手の使い過ぎを防止する狙いで、右手の小指だけを外し左手に引っ掛けたところ、ショットが安定したため一気にゴルファーの間に浸透しました。
この「オーバーラッピング(バードン)」グリップは左右の手の力のバランスが近くなるメリットがあり、今でも主流のグリップになっています。
タイガー・ウッズ選手が登場してからは、右手の小指と左手の人差し指を絡めた「インターロッキング」グリップも主流になっています。このグリップの最大のメリットは、左右の手が一体化しやすい事です。
古くはメジャー18勝のレジェンド、ジャック・ニクラス選手もこのグリップでした。彼は「手の小さい人にもオススメ」と言っています。
グリップもスイングの一部
たかが“グリップ”なのに、マニアックな話ばかりでウンザリしたかも多いかも知れません。
8万人のゴルファーにアドバイスした経験から言わせて頂けるなら、ゴルフを始めたばかりの初心者で非常にキレイなグリップをしていることは少なく、上級者になるほど「自分の傾向をうまく理解している」グリップになっていると感じます。
しかし一度グリップに慣れると、改善の必要を感じていても大きな違和感を伴う厄介なものです。
されど“グリップ”。握る強さ「グリッププレッシャー」も含めて、グリップの改善もスイングのうちと考えてみてはいかがでしょうか?
【解説】筒 康博(つつ・やすひろ)
伝説のプロコーチ・後藤修に師事。世界中の新旧スイング方法を学び、プロアマ問わず8万人以上にアドバイスを経験。スイング解析やクラブ計測にも精通。ゴルフメディアに多数露出するほか、「インドアゴルフレンジKz亀戸」ヘッドコーチ、WEBマガジン「FITTING」編集長を務める。
猿場トール