10月末にテーラーメイド銀座で開催されたトークセッションにはスパイダーパターの開発者でもあるビル・プライス氏、PGAツアー選手から日本のトップ選手のコーチまで務める目澤秀憲氏、パターコーチとして10人以上のプロを指導する橋本真和氏が参加。パターの世界において最前線にいる3人が語ったパターの難しさと、ツアープロの悩みとは?
現役トッププロの多くが悩む「エイムのズレ」とは?
今年、日本で売れているパターのモデル別ベスト10のうち8モデルがテーラーメイドのトラス系パターだという。その火付け役となったのは2020年に「日本女子プロゴルフ選手権」で優勝した永峰咲希でした。
翌年には稲見萌寧がトラスパターで女子ツアーを席巻して東京オリンピックでは銀メダル、女子ツアーでは賞金女王に輝いて、トラス系パターは大人気パターとなりました。

そんな永峰のコーチをつとめている目澤秀憲氏はトラスパターについて、
「間違いなく左右方向の打球のブレに強い。ただし、今年のオフに合宿していたとき永峰選手の悩みとしてはエイム(狙い)が合わないことがありました。クロスハンドに変えたり、スパイダーパターを試してみたりしたのですが、最後はツアー担当者に相談してトラスパターにドットをつけたら、すごく安定しました」
多くの女子プロのパッティングコーチをつとめる橋本真和氏も、ツアープロの悩みはエイムだと語っていました。
「ツアーの現場に行くと、やっぱりエイムのズレが1番の問題になっています。エイムというのは狙ったラインに対してフェースを正しくセットすることです。その次の問題としてスイートスポットを外すミス。ミスの傾向としてはフェースが開いてトゥ側に当たるミスが多い。そういう意味でスパイダーやトラスには、ミスヒットしても打球がズレないメリットがありました」
米国本社でテーラーメイドのパター部門を担当するビル・プライス氏は、PGAツアーのトップ選手でもパターには悩みがあると語りました。
「今、ローリー・マキロイはブレードパターを使っているコリン・モリカワに『なぜ、スパイダーパターを使わないのか』と声をかけているそうです。元々、マキロイもブレードパターが好きな選手でしたが、左に外すミスに悩んでいました。それがスパイダーを使うようになって格段に減りました」
「ブレードパターの重心深度は約10ミリですが、スパイダーパターの重心深度は35ミリです。それだけ慣性モーメントが大きくなってミスに寛容になりました。具体的に言えば10メートルの距離で、ブレードパターの場合は芯を1センチ外したら、2.5カップ分(約25センチ)方向性がズレると言われています。しかし、スパイダーにすれば横のズレが約1カップ分に抑えられます。1カップ以内であればギリギリカップインする可能性も残されています」
アマチュアは「大型マレット」にすることでミスを減らせる
ちなみにアマチュアゴルファーのミスパットにはツアープロと異なる傾向があるそうです。目澤氏は次のように語っていました。
「パターのヘッドを真っすぐに引いて打とうとするアマチュアがすごく多いです。でもパターにはライ角があるので、完全なストレート軌道では打てません。それを無理矢理、ストレート軌道で打とうとするのでバックスイングではアウトサイドにヘッドを上げて、ダウンスイングでもアウトサイドにヘッドを出そうとしてしまう」
「そんな人は大型マレットパターと相性がいい。大型マレットだと極端にアウトサイドに上げようとする動きを抑制できたうえで、ヘッドをストレートに動かしている感覚を出せるので、打ちやすいと感じるはずです」

パッティングのデータ分析の専門家でもある橋本氏は具体的な数字を教えてくれました。
「アマチュアゴルファーだと3度アウトから入ってきて、1度フェースが開いているミスが一番多いです」
そしてプライス氏は軌道のエラーにも、打点のミスにもスパイダーやトラスパターの恩恵は大きいと語ってくれました。
「トラスのネックはテニスラケットの進化と似ています。昔のテニスラケットはネックが1本でしたが、それを2本にしたことが大きなイノベーションにつながりました」
「トラスネックも同じで、あのネックにしたことで打点がズレたときでも物理的にフェースが開いたり閉じたりする幅を抑えられる。それにスパイダーの形状をプラスさせたことで軌道がアウトサイドになったり、急激なインサイド軌道になりにくくなりました」
永峰咲希からはじまったトラスパターのブームはすでに2年以上が経過しています。もはや一時的なブームではなく、パターの定番になりつつあるとも言えるでしょう。
野中真一