ミスショットが続くと、イライラし、落ち込み、自己嫌悪に陥ることさえあります。そんなとき、気持ちやプレーを立て直す方法はあるのでしょうか。自律神経研究の第一人者、順天堂大学医学部の小林弘幸教授に聞きました。
「恥ずかしい」という気持ちが血管が収縮させ力みを誘発する
ゴルフは難しいもの。とんでもないミスショットをしたり、ドライバーもアイアンもアプローチもまったく当たらなくなってしまったり……。人前で思うようなプレーができず、恥ずかしくてラウンド中に落ち込んでしまうこともあります。

ミスショットが原因で自己嫌悪に陥ったとき、気持ちやプレーを立て直す方法はあるのでしょうか。順天堂大学医学部の小林弘幸教授にお聞きしました。
小林先生は自律神経研究の第一人者であり、さまざまな競技アスリートのコンディショニングやパフォーマンス向上指導に関わるスポーツドクターでもあります。プロゴルファーも多数指導した経験とデータを生かし、この冬『ゴルフが上達する 自律神経72の整え方』(発行/法研)を上梓しました。
「私自身、これまでにいろいろなミスショットをやらかしました。ある時ドライバーショットを思い切り打ったところ自分の打ったボールを見失ってしまいました。キャディーさんも同伴プレーヤーの皆さんも一緒になって220〜230ヤード先のフェアウェイへ目を凝らしていると、1メートル先にポトッ。真上から落ちてきたんです。あれには意表をつかれました」
それも初心者の頃ではなく、つい数年前の出来事ですよと小林先生は振り返ります。
「アマチュアの場合は、ミスショットをすると“恥ずかしい”“スイングが悪い”とネガティブな思考にとらわれ、それがストレスになって交感神経が優位になってしまう人が多いですね。血管が収縮して力むからスイング軌道がずれ、リズムが狂い、ミスをどんどん助長します。とはいえ、ミスを100%防ぐことはできません。ショックを引きずれば深みにはまりますし、そうでなくても次のミスが出るのです。打ってしまったミスショットをいつまでも悔やむのではなく、リセットして先へ進むことが大事です」
うまくボールに当たらないときは落ち込みます。「今日はダメだ。次のゴルフを頑張ればいいや」と諦めの気持ちにもなりがちですが、それを繰り返していては、いつまでたっても進歩がないということでしょう。
ミスしたあとの“1杯の水”が落ち込みやイライラを解消

では、何をしたらネガティブな思考をリセットして自分のプレーを取り戻すことができるのでしょうか。
「基本的な考え方からお話ししますと、たくさん恥をかくこと、プライドを捨てることが大切です。ミスはどうしても出ます。初心者だったらありとあらゆるミスをするかもしれませんが、それが今の“自分の力”、言い換えると“ゴルフの器”なのです。“今日はミスが多かったなあ”“たくさん打ったなあ”というような日は、スコアカードを見てミスを振り返り、自分の苦手なショットと向き合う。時間はかかりますが、土台となる“器”を大きくしていくといいでしょう」
その上で、ラウンド中に気分をリセットして自律神経を整えるために小林先生は次の方法を紹介してくれました。
「ミスをして落ち込んだりイライラしたりしていると感じたときは、水を飲むのがおすすめです。水を飲むと胃腸が刺激されて副交感神経が活発になり、ストレスや緊張をほぐす効果があるからです。 “なんだ、そんな簡単なことか”と思われるかもしれませんが、いつでも簡単にできることだからこそ、忘れず実行していただきたいと思っています。私は冬のラウンドでもペットボトルの水を持ち歩き、こまめに水を飲んでいますよ。たくさんミスをしてきたおかげで“器”も少し大きくなったのか、まるで空からポトッと落ちてきたかのようなミスは、あれ以来しなくなりました」
水を飲むことで自律神経の乱れを整え、気分をリセット。これなら次のラウンドからすぐ実践することができます。
小林先生の近著にはこうしたミスからの切り替え方のヒントが詰まっています。冬の間は小林先生の本を読み、自律神経を整えながら“器”を大きくする意識をもって練習するといいかもしれません。
小林弘幸(こばやし・ひろゆき)
順天堂大学医学部教授。日本スポーツ協会公認スポーツドクター。自律神経のバランスを意識的にコントロールすることで、心身のパワーを最大限発揮できることを提案。トップアスリートやアーティストのコンディショニングやパフォーマンス向上指導に携わっている。国内における自律神経研究の第一人者であり、書籍も多数刊行。2022年12月『ゴルフが上達する 自律神経72の整え方』(法研発行)を上梓した。
野上雅子