「このアイアン、顔が抜群にいいですね」。ゴルフ場でよく聞く会話だが、ビギナーにはちょっと分かりづらい表現です。そこで「顔がいいアイアン」とはどのようなものなのか、竹本直哉プロに教えてもらいました。
一般的には見た目と出球が一致するのが「いい顔」
プロや上級者がよく口にする「このクラブ、いい顔しているね」というコメント。とくにアイアンに関しては、「顔」を非常に気にする人が多くいます。
ではアイアンの「顔」とは何なのか、機能面とはどんな関係があるのかを、かつてプロゴルファーとしてツアーに参戦し、現在は東京・品川区の「ゴルフクラフト ユーワールド」でスイングとクラブ両面からアマチュアを指導している竹本直哉プロに聞いてみました。

「アイアンに限りませんが、クラブの顔というのは、構えたときに『こんな球が出そう』という弾道のイメージを想起させるものです。人間の動きは視覚的なイメージに大きく左右されますので、その意味では構えたときにどう感じるかというのは結構重要な機能。ただし、この『イメージ』というのが本当に人それぞれなので、非常に厄介な部分でもあります」(竹本プロ)
構えた印象から弾道を想像するには、ある程度の知識と経験が必要です。
たとえば「ソール幅が広い=低重心=球が上がりそう」とか、「ブレードの長さが短い=重心距離が短そう=自分で球をつかまえられそう」、「ヘッドが大きい=慣性モーメントが大きそう=ミスヒットに強そう」……といった具合です。
「あくまで一般論ですが、フェースが長くてヘッドが大きく、トップブレードが厚いものはミスヒットに強くやさしそうな印象を受ける反面、動きが鈍くて弾道のコントロールがしにくそうな印象を受けがち」
「反対にヘッドが小さくトップブレードが薄いものはシャープに操作しやすそうな反面、ミスヒットに弱く難しそうという印象を受けがちですね。ほかにも、グースネックが強いものほどつかまりがよさそうとか、ネックが短いものほど低重心で球が上がりやすそう、といった傾向はあると思います」(竹本プロ)
このように構えたときに見える部分以外にも、バックフェースのキャビティー(彫り込み)が深いものやソール幅が広いものほどミスヒットに強く球が上がりやすそうというように、バックフェース側から受ける印象もありますし、埋め込みや後付けのウエートがどこに配されているかによって「上がりそう」「つかまりそう」というような印象を受ける場合もあります。
こういった部分は、ある程度クラブの知識を得ることと、自分自身の経験が増えていってはじめて実感できるようになることと言えるでしょう。
自分にとっての「いい顔」が分かれば最高
クラブの顔から受ける印象に関しては、機能と連動している部分が大きいので、ある程度万人に共通の方向性があるといえますが、実際にその印象がスイングに影響するかは、さらに複雑です。
というのも、同じクラブでも「つかまりがよさそう」とポジティブにとらえるか「左に引っかけそう」とネガティブにとらえるかはプレーヤーの経験や持ち球によってさまざまだからです。

ただし全体的には、上級者ほど見た目と出球が一致するものを好む傾向が強いと竹本プロは言います。
ビギナーにとっては「引っかけたと思ったのに意外に曲がらずに助かった」となる点が、上級者にとっては「このくらいフックするはずなのに意外に曲がらなかったぞ」という違和感になりえるのです。
その違和感は次にもう一度フックを打つ際に「もうちょっと強くフックをかけないとイメージどおり曲がらないのでは?」というような迷いにつながってしまうことがあり得るのです。
一方で、プロレベルになってくるとさらに細かなこだわりがあるケースもあるといいます。
「たとえばドローボールヒッターの手嶋多一プロは、フェースが機敏に動くほうがいいので実際のフェース長は短くないとダメ。でも彼自身は、球がつかまりすぎないようにわずかにトゥ側で打つイメージを持っているので、スコアラインがややヒール側に寄っていてフェースが“長く見える”アイアンが好みなんです。同じ打点で打っても、トゥに当たっている感じが出る顔ということですね」(竹本プロ)
ここまで繊細なケースはレアとはいえ、上級者ほど「顔」のこういった細部にまでこだわっているということ。こういった違いに気づけるようになることも、上達していくうえで必要なのかもしれません。
いずれにしても「いい顔のアイアン」とは、自分のイメージした機能を発揮してくれそうな顔をしたアイアンだということです。そんなアイアンに出会えたら最高ですね。
鈴木康介