「LS(ロースピン)」を謳うドライバーは従来、パワーヒッターに恩恵のあるハードなモデルというイメージのものでしたが、昨今はそうでもないようです。タイトリスト、PING、PRGRそれぞれの最新モデルを打ち比べてみました。

多くても少なくてもダメな「スピン量」に注目!

 効率的にボールを飛ばすために重要と考えられているのが「スピン量」です。ボール初速や打ち出し角など、ほかの要素との組み合わせで数字は上下しますが、おおよそ2400rpmから2500rpmのスピン量が最適といわれています。

スピンが減るように調整された「LSモデル」。アスリート用というイメージもあるなか、昨今は随分と「やさしく」なっているとか 写真:田辺直喜
スピンが減るように調整された「LSモデル」。アスリート用というイメージもあるなか、昨今は随分と「やさしく」なっているとか 写真:田辺直喜

 ヘッドスピードが平均よりも速かったり、インパクトでロフトが寝るタイプのスイングをしたりしている人などはスピン量が増える傾向にあり、飛距離をロスしやすくなります。そんなスピン過多に悩む人向けに設計されているのが、ドライバーのいわゆる「LS(ロースピン)モデル」です。

 ノーマルモデルは、慣性モーメントを高めるためヘッド後方にウェイトを装着しているモデルが多く、結果、インパクトでお尻が下がるようにロフトを寝かせて当たるものが多く見られます。これは高さを出しやすい一方で、人によってはボールが上がりすぎたり、スピンが増えすぎたりと、飛距離をロスする原因にもなりうる要素です。

 一方、LSモデルはヘッドのフェース寄りに重量を持ってくることで、ロフトを立てたままインパクトできるようになっており、ノーマルモデルに比べてスピン量を抑えやすくなっています。

写真は「TSR4」。ソールのフェース寄りの部分にウェイトが装着され、重心が浅くなるよう設計されている 写真:田辺直喜
写真は「TSR4」。ソールのフェース寄りの部分にウェイトが装着され、重心が浅くなるよう設計されている 写真:田辺直喜

 最新ドライバーを見ると、ひとつのシリーズの中に汎用性の高い「ノーマルモデル」、つかまりを高めた「ドローモデル」、そして「LSモデル」の3タイプをラインアップするものが増えています。もし今、ノーマルモデルを使っていて、「ヘッドスピードの割に飛ばない」と感じているなら、LSモデルを選択肢に入れてみてもいいかもしれません。

メーカー向けのPRコンサルタントを行う甲斐氏。シングルハンデの腕前と確かな知識を持つ 写真:田辺直喜
メーカー向けのPRコンサルタントを行う甲斐氏。シングルハンデの腕前と確かな知識を持つ 写真:田辺直喜

 とはいえ、従来のロースピンを謳ったモデルはハードなアスリート向けのものが多く、それを知ってか敬遠するゴルファーも少なくありません。

 そこで今回は、最新ギアの情報に精通するIRONSHELL代表の甲斐哲平氏に、タイトリスト「TSR4」、PING「G430 LST」、PRGR「RS F」という3つの人気モデルを試打してもらい、最新LSモデルの傾向について調査しました。

左のミスを防いで適正スピンで飛ばせる「RS F」

 最初に試打したのはPRGRの「RS F」です。2022年にクラブ契約をした谷原秀人プロなど、男子プロに愛用者の多いこのモデルは、どんな性能に調整されているのでしょう。

「RS F」は、左を気にせず叩ける一方で、ほどよく高さが出るなど、やさしさも備わっていた 写真:田辺直喜
「RS F」は、左を気にせず叩ける一方で、ほどよく高さが出るなど、やさしさも備わっていた 写真:田辺直喜

「過去の『RS F』は低スピンでハードなモノもありましたが、最新モデルはそこまでハードなわけでなく、適正な範囲でスピンが少なくなる印象です。叩いても左のミスが出ない安心感がありつつ、適度にボールがつかまるやさしさも備わっていました。ボール初速の出しやすさ、そして適正スピンの最適な弾道ですごく飛距離を伸ばしやすいモデルではないでしょうか」(甲斐氏)

 甲斐氏は、同じシリーズの「RS」や「RS D」と合わせて、次のようにも話します。

弾道は軽いフェード。打ち出し角12.6度、スピン量も2563rpmとしっかり入っているのでキャリーが伸びた 写真:田辺直喜
弾道は軽いフェード。打ち出し角12.6度、スピン量も2563rpmとしっかり入っているのでキャリーが伸びた 写真:田辺直喜

「最新のRSシリーズは構えた時の顔が非常に似た作りになっていて、弾道や振り心地だけを変えている印象ですね。反発性能が高くて、ボール初速が出しやすい点は共通していますので、ミスの傾向や好みに合わせて選べば平均飛距離がグンと伸びると思いますよ」(甲斐氏)

「TSR4」は小ぶりヘッドでハードなアスリート仕様

 過去のLSモデルとは違ったやさしさを備えていた「RS F」に対し、アスリートの使用を想定してハードに設計されたのがタイトリストの「TSR4」だと、甲斐氏は話します。

ヘッドスピードが40m/s台後半の甲斐氏でも「TSR4」はハードに感じるよう 写真:田辺直喜
ヘッドスピードが40m/s台後半の甲斐氏でも「TSR4」はハードに感じるよう 写真:田辺直喜

「メーカーが“究極のロースピンドライバー”と説明している通り、今回テストした中では圧倒的に低スピンな弾道が出てくれます。そのぶんハードさもあって、ボールをつかまえる技術や高さを出せるだけのパワーが必要になるでしょう。使い手を選ぶモデルではありますが、振りこなせる人にとっては圧倒的に飛距離を伸ばせる可能性があります。低スピン性能を生かすために重く、しっかりしたシャフトを装着するのがおすすめです」(甲斐氏)

 ハードさが際立つ「TSR4」ながら、ミスへの強さもあるといいます。

少し芯を外しても初速が落ちにくく、スライスでも伸びる弾道になるのが「TSR4」の特徴 写真:田辺直喜
少し芯を外しても初速が落ちにくく、スライスでも伸びる弾道になるのが「TSR4」の特徴 写真:田辺直喜

「同じシリーズの『TSR2』や『TSR3』もそうでしたが、ミスヒットへの強さは『TSR4』もかなり高いレベルにあります。少しくらい芯を外してもボール初速が落ちません。反発力が高くオフセンターヒットに強いフェースを搭載しつつ、対象ゴルファーをくっきり分けて設計されているのがタイトリストのTSRシリーズなのでしょう」(甲斐氏)

ノーマルモデルに近いつかまりがある「G430 LST」

 最後はPINGの「G430 LST」をテストしました。2022年に史上初となる「アマチュアでツアー2勝」をマークした蝉川泰果プロが使用したことでも話題となったこのモデル、ほかのLSモデルとはどんな違いがあるのでしょう。

過去モデルに比べて、かなりやさしさが高まっている「G430 LST」 写真:田辺直喜
過去モデルに比べて、かなりやさしさが高まっている「G430 LST」 写真:田辺直喜

「改めて、LSモデルであってもやさしさを求めるゴルファーが増えているのだろうと感じました。その証拠に『G430 LST』は明らかに前作よりもつかまりやボールの上がりやすさが増していて、より多くのゴルファーが使える許容性が備わっていました。ノーマルモデルの『G430 MAX』よりも少しスピンは減りますが、つかまりやミスへの強さは近いレベルにありますので、ふたつのヘッドを持っておいて、体調やコースによって使い分けるということもできそうです」(甲斐氏)

 さらにPINGのG430シリーズについては、純正シャフトの仕上がりもハイレベルと絶賛します。

弾道のブレがかなり小さく、ほぼストレートな弾道になりやすいのも「G430 LST」の特徴 写真:田辺直喜
弾道のブレがかなり小さく、ほぼストレートな弾道になりやすいのも「G430 LST」の特徴 写真:田辺直喜

「『G430 LST』には最もハードな『PING TOUR 2.0 BLACK(65S)』を装着してテストしました。カスタムシャフトに近いしっかり感があって、ボールを強く叩いていけるので『G430 LST』の性能がすごく引き出されていました。G430シリーズは純正シャフトが3種類あり、それぞれに重量や硬さの違うものが用意されているという選択肢の多さも大きな魅力ですね」(甲斐氏)

 人気のLSモデル3機種をテストした甲斐氏は、スピンを減らせることの意外なメリットについても言及します。

「飛距離を伸ばすためにLSモデルを選ぶ人が多いものの、実はスピンが少なくなることでボールの曲がりも小さくなるというメリットがあります。同じスライスでも、スピンが少なく弾道も低ければ曲がりが小さく済み、OBの確率を下げることができるのです。ミスヒットでも初速が落ちないなど、最新のLSモデルには一定以上のやさしさも備わっていますので、ボールの曲がりに悩んでいるなら、レベルに関係なくLSモデルを試してみる価値はあると思いますよ」(甲斐氏)

 ゴルフクラブの花形であるドライバーは、各メーカーが最も力を入れて開発を行っています。そのため、スピンは減るけどやさしいといった、過去にはあり得なかった欲張りな性能を持ったモデルもどんどん生み出されています。自分に合った最適なドライバーを見つけるには、偏見を捨てて、フラットな気持ちでさまざまなモデルをテストしてみるのがおすすめですよ。

田辺直喜