多くのツアープロのコーチとして活躍している石井忍氏が、“ここはスゴイ”と思った選手やプレーを独自の視点で分析します。今回注目したのは、日本女子プロゴルフ協会の年間表彰式「JLPGAアワード」で「メディア賞『ベストショット』部門」を受賞した山下美夢有のパッティングです。

パッティングを成功させる3つの要素とは?

 昨シーズンのツアーで公式戦2大会を含む5勝を挙げた山下美夢有選手は、「JLPGA Mercedes-Benz Player of the Year(年間最優秀選手賞)」をはじめ、「賞金ランキング第1位」「平均ストローク第1位」「JLPGA栄誉賞」「メディア賞『ベストショット』部門」の5冠を達成しました。5つの賞の中で今回注目したのは、「メディア賞」です。

JLPGAツアーチャンピオンシップリコーカップでプレーオフでのウイニングパットを決めた山下美夢有 写真:Getty Images
JLPGAツアーチャンピオンシップリコーカップでプレーオフでのウイニングパットを決めた山下美夢有 写真:Getty Images

 受賞した「ベストショット」は、最終戦「JLPGAツアーチャンピオンシップリコーカップ」プレーオフ(18番ホール使用)の最後の1打。優勝を決めたバーディーパットでした。ピン奥8メートルからの下りのフックラインを沈めたシーンは、山下選手とプレーオフを戦っていた勝みなみ選手も拍手を送るほどでした。

 当時の優勝インタビューで山下選手は「(正規の)最終ホールとほぼ同じライン。ちょっと深めに読みました」とコメントしています。

 劇的な1打が生まれた理由の一つには、直前にプレーした正規の18番で同じようなラインから打っていたことがあるようです。そこで、改めて該当シーンを見返してみました。すると、山下選手がストローク前に興味深い仕草をしていることに気付きました。

 正規の18番は、ピン奥約10メートル。グリーンから数センチ外れたエッジから。プレーオフのバーディーパットよりも少し長い距離が残っていました。

この1打を打つ前、アドレス位置に立った山下選手は、パターを持たずに軽く素振りをしながらラインをチェックしていたんです。彼女はなぜ、パターを握らずに素振りをしたのでしょうか。

 私は、パッティングを成功させるには3つの要素が必要だと考えています。

 1つはボールが転がるスピードや曲がるイメージを明確にすること。2つ目はイメージしたラインに打ち出せるように構えること。3つ目はイメージ通りのボールスピード、方向に打ち出すこと。

 3要素のうち、1つ目の「イメージを明確にする」は、パターを持たなくてもできますよね。いや、むしろパターを持たないほうがイメージを出しやすいかもしれません。

 パターを握って素振りをしながらラインを読むと、どうしても「打つこと」や「体をどう動かすか」にも意識がいってしまい、ピュアな状態でイメージを膨らますことができなくなってしまうからです。

クラブを持たない素振りはグリーン周りでも有効

 クラブを持たない素振りは、グリーン周りなどでも有効です。番手選択やどんな球筋で攻めるかを決める際も、クラブを持たずに素振りをしながら考えたほうが、イメージが明確になるでしょう。

 今回紹介した最終戦だけでなく、「Hitachi 3Tours Championship」でも、山下選手はクラブを持たない素振りをしていました。

 明確なイメージを持てなければ、ラインに対して構えることも、ラインに乗せて打つこともできません。「ボールが転がるイメージが湧かない」という人は、山下選手の素振りを真似てみてはいかがでしょうか。

山下 美夢有(やました・みゆう)

2001年生まれ、大阪府出身。2019年のプロテストに合格。21年の「KKT杯バンテリンレディスオープン」でツアー初勝利。22年シーズンは、「ワールドレディスチャンピオンシップサロンパスカップ」で公式戦初勝利を挙げたほか、最終戦「JLPGAツアーチャンピオンシップリコーカップ」も制して公式戦2勝。5勝を挙げて年間女王を獲得した。加賀電子所属

【解説】石井 忍(いしい・しのぶ)

1974年生まれ、千葉県出身。日本大学ゴルフ部を経て98年プロ転向。その後、コーチとして手腕を発揮し、多くの男女ツアープロを指導。「エースゴルフクラブ」を主宰し、アマチュアにもレッスンを行う。

小澤裕介