林の中やOBライン付近で自分の球を探していると、知らないボールが出るわ出るわ。その中に状態の良いものがあれば、拾ってポケットに入れてしまったという経験をお持ちのゴルファーも少なからずいるかもしれません。自分に所有権のないものを自分のものにしてしまう行為は窃盗では? という品行方正な人もいれば、いくつか持ち帰るくらい大丈夫だろう、という人もいるでしょう。法律に照らすと実際のところどう判断されるのでしょうか。弁護士に見解を聞きました。

ロストボールを拾ってバッグやポケットに入れた時点で窃盗罪が成立

 ラフやOB杭付近でボールを探していて、諦めかけた頃に「やれやれ、あった!」と近づいてみると、ボールに見知らぬブランド名が書いてあった……。このような経験はほとんどのゴルファーがお持ちでしょう。

林に分け入ると必ず1つや2つ見つかるロストボール 写真:AC
林に分け入ると必ず1つや2つ見つかるロストボール 写真:AC

 誰かのロストボールを見つけたり拾ったりしたとき、みなさんはそのボールをどうしていますか?

1.隣のホールから飛んできた球かもしれないから、そのままにして立ち去る2.明らかなロストボールだから、拾ってキャディーさんに渡すか、セルフならカートに溜めてプレー後カートと一緒にゴルフ場へ返す3.まだ使えそうなきれいな球はもったいないから、持ち帰るためにポケットやバッグに入れる4.OB区域に分け入り数多く拾ったから、持ち帰ってネットで売る5.自分の球がなかった腹いせに、手持ちのクラブでOBや山に向かって打つ

 先に言ってしまうと、ゴルファーがとるべき行動は1か2です。3、4、5は犯罪行為にあたる可能性があります。法律上、ロストボールは“それを拾ったあなたのもの”ではないからです。

 その根拠とゴルファーの多くが曖昧なまま過ごしているロストボールの対処について、弁護士の有村聡介氏(千葉県・船橋総合法律事務所)に法的見解を聞きました。

「昭和62年4月10日の最高裁判決(いわゆる“ロストボール事件”)で、ゴルフ場内のロストボール(紛失球)につき『ゴルフ場側が早晩その回収、再利用を予定しているとき』は、ゴルフ場の所有になると判示されています。ロストボールの回収や再利用をまったくしない、すなわち、ロストボールを放置し続けるようなゴルフ場はほとんどないでしょうから、コースの内外や記名の有無にかかわらず、ロストボールの所有権はゴルフ場にあると考えて良いでしょう」

 ロストボールは“ゴルフ場のもの”ですから、拾ったらキャディーさんに渡すか、ホールアウト後カートに残したり所定のボール入れに入れたりして、ゴルフ場に戻すのがいいでしょう。自分のものにしたり、売ったりすれば、法律面からいうと犯罪行為になります。

「ロストボールを拾って、バッグやポケットなどに入れた時点で窃盗罪【刑法235条】が成立します。次に、拾ったロストボールを売る行為についてですが、ロストボールの買主が、そのボールが“盗品”であることを知らなかった場合は、売主においては買主に対する詐欺罪【刑法246条1項】が成立する可能性があります。ちなみに、買主が“盗品”であると知りながら購入した場合、買主は盗品等有償譲受け罪【刑法256条2項】に問われる一方、売主は買主を騙していないので、詐欺罪には問われません」

 先に挙げた例では、3(持ち帰るためにポケットやバッグに入れる)、4(持ち帰るためにポケットやバッグに入れる)のケースで窃盗罪が成立します。新しい球や自分が使っているのと同じブランドの球を拾い、思わず使ってしまった経験がある人もいると思いますが、4については昨今目立つネット販売にも関係します。

数百個持ち去って起訴されるかどうか

数百個の持ち去りとなると、それこそ夜間に忍び込んで池をさらうくらいしないと不可能でしょうが…(写真はイメージです) 写真:AC
数百個の持ち去りとなると、それこそ夜間に忍び込んで池をさらうくらいしないと不可能でしょうが…(写真はイメージです) 写真:AC

 ゴルフ場から委託を受けている業者がロストボールを回収・販売しているならいいのですが、“盗品”である場合は、売った側が詐欺罪、買った側も盗品等有償譲受け罪に問われることがあるというのです。プレーヤーではない人が、ゴルフ場業務外の時間に無断でコースへ侵入して敷地内のボールを大量に持ち去るような事件も起きかねません。

「ゴルフ場の敷地に無断で立ち入った場合は、その時点で建造物侵入罪【刑法130条】が成立し、前述のとおり、敷地内のロストボールを拾ってバッグ等に収めた時点で窃盗罪が成立します。バッグやポケット等に入れる(隠す)前に発覚した場合は、窃盗未遂罪に留まると考えられます。当然ながら、数が少なければ検挙されなかったり、検挙されたとしても不起訴となる可能性が高いでしょうし、多ければ多いほど刑は重くなるでしょう」

「具体的には、(1)そもそも検挙されない(刑事事件にならない)、(2)不起訴(起訴猶予)で終わる、(3)起訴されて、罰金刑(※窃盗罪は50万円以下)に処される、(4)執行猶予付きの懲役刑に処される、(5)執行猶予が付かない懲役刑(実刑)に処される、の順番で処分が重くなるわけですが、犯行が1回限りで、持ち去ったボールが数個から数十個程度であれば(1)か(2)、1回であっても多量(数百個など)であれば(2)か(3)といったところでしょうか。ただ、これといった裁判例も見当たらないため、あくまでイメージです。なお、何度もロストボール泥棒を繰り返せば、窃盗罪(10年以下の懲役または50万円以下の罰金)より刑の重い【常習累犯窃盗罪】(3年以上の懲役、上限20年)で裁かれることになるでしょう」

「ちなみに、“盗品”にあたるロストボールを販売して得た利益(このような利益や物は“犯罪対価物”等と呼ばれることがあります)に関しては、【刑法19条1項4号】が『没収することができる』と規定しており、裁判官の判断(裁量)により、没収されることがあります。他方、刑事裁判では、ゴルフ場への返金などは命じられないため、ゴルフ場としては、民事訴訟等によって請求を行う他ありません。起訴された後(刑事裁判が始まった後)であっても、返金をすれば犯人に有利な事情(情状)として考慮され、言い渡される刑など(拘置期間や執行猶予の有無等)は軽くなるでしょう。起訴される前に返金をして、被害者であるゴルフ場との間で示談が成立すれば、起訴自体を免れる可能性が高くなります」

 最後に、冒頭に挙げた5の対処についても、有村弁護士にお聞きしました。

 古いボールや赤線が入った通称“ハチマキボール”(練習場のボール)が落ちている場合、拾ったり持ち帰ったりはしないものの、たまたま持っているクラブを使って山やOB区域へ向かい打ちこむ行為は罪にならないのでしょうか。

「“ハチマキボール”であれ古いボールであれ、それを自分や他人の占有下に移す訳ではないので窃盗罪は成立しませんが、いわゆる『不法投棄』として、【廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃掃法)16条】違反で罰せられる可能性が考えられます。その場合の罰則は、5年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金(併科もあり)です。ただ、不法投棄の対象は廃棄物≒汚物又は不要物なので、当該の“ハチマキボール”が不要物に当たるかどうかが問題となりそうです」

 繰り返しになりますが、ロストボールは、“それを拾ったあなたのもの”ではなく、ゴルフ場に所有権があります。 改めて“ゴルフ場のもの”と認識することで、おのずとこれからの行動が変わるのではないでしょうか。

野上雅子