国内女子ツアー3戦目となる「Tポイント×ENEOSゴルフトーナメント」は、首位の上田桃子と最大8打差あった青木瀬令奈が大逆転優勝。3日間ノーボギーの大会レコードで自身4勝目を挙げた。そんな青木のドライビングディスタンスは出場選手の中で最下位、飛ばなくてもスコアを作れる理由はどこにあるのでしょうか?

最も飛ばなかった選手の勝利は史上初

 トーナメントで最も飛ばなかった選手が優勝――。そんな珍しい出来事が先週の女子ツアー、Tポイント×ENEOSゴルフトーナメントで起こった。

 勝った青木瀬令奈の3日間のドライビングディスタンスは214.00ヤード。これは決勝ラウンドに進出した54人中54番目、つまり最下位だった。飛距離1位の笹生優花は261.33ヤードだったから、その差は実に50ヤード近い。

飛ばなくても毎年成績を残す青木瀬令奈。ショートゲームのうまさはツアートップクラス 写真:Getty Images
飛ばなくても毎年成績を残す青木瀬令奈。ショートゲームのうまさはツアートップクラス 写真:Getty Images

 女子ツアーでドライビングディスタンスを計測し始めたのは2017年。ドライビングディスタンス最下位の選手が優勝したのは今回が初めてだ。もちろん本人が狙ったものではないだろうが、青木は思わぬ形で記録をつくったのである。

 これまで優勝者のドライビングディスタンス順位(最下位から逆算したもの)が最も低かった大会は昨年の樋口久子三菱電機レディスだった。金田久美子が11年ぶりの優勝を飾った大会である。

 この大会における金田のドライビングディスタンスは223.00ヤードで57人中54番目。つまり、下から4番目だった。

 青木は順位だけでなく、距離でも記録を塗り替えている。これまで優勝者の“最短飛距離”は2018年樋口久子三菱電機レディスに勝ったささきしょうこの215.00ヤードだった。

 青木は身長153センチと小柄で飛距離は出ないが、今回で通算4勝目という実力派である。では、過去の3勝時の飛距離はどうだったのだろうか。

 初優勝の2017年ヨネックスレディスでは251.25ヤードを記録し、77人中40番目だった。2勝目の2021年宮里藍サントリーレディスは計測なし。3勝目の2022年資生堂レディスは226.00ヤードで67人中59番目だった。

 これらの数字を比較すると気づくことがある、そう、だんだん飛距離が落ちているのだ。

 ドライビングディスタンスはコースや気象条件によって大きく左右されるから優勝した試合だけでは断定できない。では、シーズン通してのデータではどうだろう。

 青木の年度別ドライビングディスタンス順位は83位(17年)、87位(18年)、92位(19年)、90位(20-21年)、96位(22年)と多少の上下はあるが全体的には右肩下がりである。22年は96人中96位、つまり最下位だった。実際の飛距離も17年は225.88ヤードで22年は219.78ヤードだから6ヤード以上落ちている。

 だからといって成績まで落ちているわけではない。17年以降のメルセデス・ランキングは30位(17年)、34位(18年)、32位(19年)、29位(20-21年)、11位(22年)と逆に右肩上がり。これが青木のすごいところだ。

青木の好成績を支えるショートゲームのうまさ

 ツアーで最も飛ばない青木がなぜこれほどの成績を残せるのか。それはショートゲームのうまさ、特にパッティングが支えになっているからだ。

 青木は飛距離が出ないぶん、グリーンを捕える確率はどうしても低くなる。Tポイント×ENEOSゴルフトーナメントでもパーオン率は66.67%で54人中47位に過ぎなかった。

優勝した「Tポイント×ENEOSゴルフトーナメント」でも光った青木瀬令奈のショートゲーム 写真:Getty Images
優勝した「Tポイント×ENEOSゴルフトーナメント」でも光った青木瀬令奈のショートゲーム 写真:Getty Images

 しかし、パーオンできなかったホールでもひとつもボギーを叩かなかった。1ラウンドあたりの平均パット数は24.33で全体1位。この部門2位の上田桃子が26.33だから、2.00の差をつけている。これは大差と言っていいレベルだ。

 シーズン通しての1ラウンドあたりの平均パット数でも20-21年、22年と2季連続で1位になっている。青木は飛距離のハンディをしっかりしたゲームプランと確かなパッティングの技術で補い、結果を出しているわけだ。

 飛距離という太刀打ちできない部分では無理に抗おうとはせず、グリーン周りにくれば隠していた牙をむく。派手さはないかもしれないが、これもまた究極のプロフェッショナルのゴルフではないだろうか。

青木 瀬令奈(あおき・せれな)

1993年2月8日生まれ、群馬県出身。昨年「宮里藍 サントリーレディスオープンゴルフトーナメント」で4年ぶりとなるツアー2勝目を挙げ、全英女子オープンに初出場。2020年より、選手会長に値するJLPGAプレーヤーズ委員長を務める。また「JLPGAブライトナー」と銘打った新制度で、大里桃子、勝みなみ、申ジエ、原英莉花、吉田優利とともに初代「ブライトナー」に就任。ツアー通算4勝。リシャール・ミル所属。

宮井善一