2000コース以上存在する日本のゴルフ場ですが、それぞれのコースには設計者の意図が存在しています。そこで、日本のゴルフ場における設計意図の特徴について紹介します。

フェアウェイに打ったボールが左右のラフまで転がる難コース

 先日ラウンドしたゴルフ場は、ティーショットがフェアウェイに飛んだと思ったのに、セカンド地点に行ってみると左右のラフまで転がっていることが多く、ラフからのショットに苦戦しました。

 これは設計者の意図に違いないと思い、設計者を調べたところ、加藤俊輔氏が手がけたゴルフ場と知り、「なるほど!」と納得しました。

設計者の意図を感じられるとゴルフはさらに面白くなる(写真はイメージ) 写真
設計者の意図を感じられるとゴルフはさらに面白くなる(写真はイメージ) 写真

 加藤氏は1950年代から太平洋クラブ設計部に所属し、同社の代表格である太平洋クラブ御殿場コースをはじめ、数々のコース設計に関わりました。

 1986年に独立し、1993年には日本ゴルフコース設計者協会を設立。初代理事長に就任しました。設計を手がけたゴルフ場は国内外で70コース以上。日本で最も多くのゴルフ場を設計した方です。

「自然から得たものは自然に返す」が加藤氏の設計ポリシーで、スコットランドやアイルランドのリンクス(海沿いの地形をそのまま生かしたゴルフ場)をこよなく愛していました。

 スコットランドやアイルランドには、内陸の耕作地と海岸線の間に、農地には適していない土と砂が混ざった土地があります。この土地がリンクスと呼ばれており、現地の人たちがゴルフをするのに利用しました。

 リンクスは長年にわたって風雨にさらされており、独特の起伏があります。その起伏をそのまま利用してゴルフ場を造っていますから、フェアウェイに飛んだボールがアンラッキーなバウンドでラフに入ったり、ティーイングエリアから見えないバンカーに転がり落ちたりします。

 全英オープンと全英女子オープン(AIG女子オープン)がまさにそういうゴルフ場で開催されています。

 一方で、「そんなのイヤだ」という人が多いのはアメリカです。アメリカ人は「いいショットを打ったら、いい結果が得られるべきだ」と考えるのが多数派です。

 したがってアメリカのゴルフ場はティーイングエリアからすべてのハザードが見渡せるようになっており、「どこに打てば報酬が得られるのか」、「どこに打つと罰が与えられるのか」がハッキリ分かります。

英国風と米国風のゴルフ場では設計思想が異なる

 日本のゴルフ場は大別すると英国風か米国風のどちらかです。ゴルフ場のホームページに「ブリティッシュスタイル」、「スコティッシュスタイル」、「リンクスタイプ」という表記があれば英国風です。「アメリカンスタイル」という表記があれば米国風です。

 英国のゴルフ場の設計思想は「ゴルフも人生もベストを尽くしたからといってベストな結果になるとは限らない。起こった出来事を受け入れて淡々とプレーしなさい」といった感じです。

 米国のゴルフ場の設計思想は「ゴルフも人生もリスクを冒してチャレンジしなさい。チャレンジに成功すればリワード(報酬)を得ることができます」といった感じです。

メジャートーナメントも開催しているリンクスの名門「ミュアフィールド」 写真提供:加賀屋ゴルフ
メジャートーナメントも開催しているリンクスの名門「ミュアフィールド」 写真提供:加賀屋ゴルフ

 英国人と米国人は人生観が180度違うので、ゴルフ場のタイプも180度違います。

 ただ、日本人にも独自の人生観があります。野球やサッカーを見ていると、日本人は守備の意識が強い人が多いです。どちらも相手より多くの得点を取ったチームが勝つスポーツなのですが、「失点さえしなければ負けない」と考える人が多数派です。

 なので、日本人が設計したゴルフ場は「ドライバーショットが曲がっても斜面に当たって下まで落ちてくる」とか、「グリーン周りはバンカーでガードされているが、花道に打てば安全に乗せることができる」といった感じになっています。

 どのタイプのゴルフ場が優れているということではなく、ゴルフ場は設計した人の思想によってタイプが大きく異なるという話です。

 だからアンラッキーが起こるのが苦手な人は、米国風のゴルフ場や日本風のゴルフ場に行ったほうがストレスの少ないラウンドが楽しめます。

 でも実際は、どんなゴルフ場に行ってもアンラッキーが起こることもあれば、ラッキーが起こることもあります。ゴルフは自然相手のスポーツですから、人間がいかに無力な存在であるかを思い知らされるのがゴルフ場という場所なのかもしれません。

保井友秀