格式の高いイメージと経営の安定性から、相変わらずの人気を誇る「株主会員制」のゴルフコース。購入するなら「株主会員制」が一番いいのでしょうか? 専門家に聞いてみました。

ゴルフ会員権の約8割が「預託金制」

 現在、日本のゴルフ会員権市場で主流となっているのが「預託金制」のゴルフ会員権です。

「預託金制」とは、ゴルフ場の経営会社に一定の金額を預託(一定期間据え置かれる)して会員になる方式で、経営側はこの預託金でゴルフ場を造成したり、コース改造をおこなったり、また練習場の整備やクラブハウスを始めとした設備の改修などを行います。

 会員が預け入れた預託金は、通常10年、20年など一定期間無利子で据え置かれますが、償還期日がきた場合、会員は退会と引き換えに預託金の返還請求を行うことができます。

前田氏が「関東では別格的存在!」と語る、社団法人制の東京GC 写真提供:加賀屋ゴルフ
前田氏が「関東では別格的存在!」と語る、社団法人制の東京GC 写真提供:加賀屋ゴルフ

 ご存じのとおり、過去には預託金の返還ができずに証券分割(例:額面6000万円の会員権を1000万円の会員権6本に分割)をしたり、またそれでも返還できない場合は民事再生法や会社更生法の申し立てを行って、事実上の倒産となったゴルフ場も多くみられました。

 とはいうものの、歴史的な不況に陥った当時に比べれば、現在は経営的に安定しているゴルフ場が多く、日本のゴルフ会員権市場では約8割を占めるスタンダードな方式となっています。このほか「社団法人制」や「株主会員制」といった方式で運営するゴルフ場もあります。

「社団法人制」は、ゴルフと体育振興を目的として設立された公益法人が運営する方式で、古くからある“名門”と言われるゴルフ場に多く採り入れられている会員制度です。

 長い歴史と風格のある東京ゴルフ倶楽部(埼玉県狭山市)や霞ヶ関カンツリー倶楽部(埼玉県川越市)、相模カンツリー倶楽部(神奈川県大和市)などがこれにあたります。

 会員としての地位は一代限り、あるいは直系親族のみにしか継承を認めないケースが多く、これらのゴルフ場に会員として入会するには欠員が出た場合に実施される補充会員募集に応募する方法があるようですが、かなりハードルの高いチャレンジとなるのは間違いなさそうです。

 このあたりの事情を、四半世紀に渡りゴルフ会員権の売買を専門に行ってきた加賀屋ゴルフ代表の前田信吾さんに聞いてみました。

「東京GCや霞ヶ関CCなどは、我々ゴルフ会員権業者が介在できないゴルフ場なんです。ある意味、海外の名門ゴルフクラブと同じ方法でしか入会することができないといえるのではないでしょうか」と前田さん。

「例えばオーストラリアで最も歴史のある、超名門のロイヤルメルボルン・ゴルフクラブというコースがあるのですが、ここに入会したいのなら、直接クラブにコンタクトをとるしか方法がないんです。ある程度まとまった欠員が出た段階で会員を補充するようなのですが、詳細はほとんどわかりません。ある意味、東京GCや霞ヶ関CCなどは、海外の名門とほぼ同じ状況といえるのかもしれませんね」

 そうだとすると、やはり「社団法人制」のゴルフ場に入会することは、ほぼ無理ということなのでしょうか?

「いやいや、実はそうでもないんです。『社団法人制』でも我々が売買できる会員権が一部あります。我孫子ゴルフ倶楽部(千葉県我孫子市)や鷹之台カンツリー倶楽部(千葉県千葉市)、日光カンツリー倶楽部(栃木県日光市)などは社団法人制ですが売買できます」

「売買価格は高めですが、通常のゴルフ会員権と同じように必ず市場に出てきます。入会のチャンスは意外とあるものなので、希望するなら諦めちゃダメですよ!」

人気の「株主会員制」ゴルフ場は増えることも減ることもない?

 日本のゴルフ会員権市場の主流となっている「預託金制」。そして、わずかではありますがチャンスが残されている「社団法人制」のゴルフ会員権。さらに日本のゴルフ会員権市場には、依然として人気の高い「株主会員制」のゴルフ会員権があります。

「株主会員制」はゴルフ場の経営会社に一定の金額を出資して株主になる方式です。株主になることで、さまざまな権利が与えられます。

 例えば、株主総会の出席議決権を行使して経営に参加する権利や、何らかの理由でゴルフ場が解散となった場合に持株比率に応じて残余財産の分配を受ける権利、また利益配当を受ける権利などがありますが、配当に関しては実際に支払われることはほとんどないようです。

安定した経営で人気の高い浜野GC 写真提供:加賀屋ゴルフ
安定した経営で人気の高い浜野GC 写真提供:加賀屋ゴルフ

「株主会員制」のゴルフ会員権は、このように権利と資産が明確であるため、一般的に評価が高く、格式ある名門コースに多くみられます。小金井カントリー倶楽部(東京都小平市)や大利根カントリークラブ(茨城県坂東市)、相模原ゴルフクラブ(神奈川県相模原市)などが該当します。

 時代を超えてゴルファーを魅了し続ける「株主会員制」のゴルフ場。今後「株主会員制」を採るゴルフ場が増えていく可能性はあるのでしょうか?

「増えることもなければ減ることもないと思いますよ」と前田さん。

「株主会員制」には、古くからある小金井CCや相模原GCのようなゴルフ場のほかに、比較的新しく「株主会員制」を採るようになったゴルフ場があります。浜野ゴルフクラブ(千葉県市原市)などがこれにあたります。

 前田さんによると、浜野GCも以前は「預託金制」のゴルフ場だったそうですが、バブル崩壊後、会員権相場は下落の一途を辿り、経営の危機に。

「浜野GCは高い理想を掲げるメンバー有志が『浜野GCを守る会』を立ち上げ、上手な資金繰りで外資の力に屈することなく、見事に再生を果たしたんです。『株主会員制』になってからはとても安定した経営で素晴らしいゴルフ場となりました」

「バブル崩壊後、破綻の危機にあるゴルフ場はほぼ整理されたので、『預託金制』のゴルフ場が経営破綻を起こすことはあまりないと思いますし、破綻自体が起こりにくいので、『預託金制』のゴルフ場が『株主会員制』へと運営方式を変える必要性もないと思います。ですから『株主会員制』のゴルフ場は、今後増えることも減ることもないんじゃないでしょうか」

会員権の種類より大切なのは自分のゴルフライフに合うかどうか

「『株主会員制』のゴルフ場の数はこの先も変わらないと僕は思っていますが、ゴルフ場の数自体は緩やかに減少していくんじゃないかと思います」と、前田さん。

「大都市圏は、もちろん減ることはないですよ。厳しいのは地方。特にアクセスのよくないゴルフ場は客単価が安いのと相まって、経営はかなりキツイと思います。コースメンテナンス等の維持費等を考えると、ゴルフ場経営はそんなに儲かるビジネスではないでしょうから」

 では、ゴルフ会員権を購入したい人は、何を目安に買えばいいのでしょうか?

 前田さんは「格式の高いイメージから『社団法人制』や『株主会員制』のゴルフ会員権の購入を希望される方も多いと思いますが、日本のゴルフ場の大半が『預託金制』です」

「ですから、会員権の種類でゴルフ場を選ぶというのは現実的ではありませんよね。会員権を購入する際に一番大切なのは、自分のゴルフライフに合うコースを探すことだと、僕は思います」と話してくれました。

 コロナ以降、再び活況に沸くゴルフ会員権市場。メンバーライフを夢見るのなら、会員権の種類はそれほど重要ではないようです。

【監修】加賀屋ゴルフ代表 前田信吾さん

ゴルフ会員権取引を行う加賀屋ゴルフ代表取締役。ここ10年は、2日に1回の割合でラウンドを楽しむゴルフの達人(2022年は年間203回!)。独自の視点を生かしたゴルフ場の比較&検討に定評アリ。

月夜野いおり