山嵜晋平監督インタビュー

前作『テイクオーバーゾーン』(19)が東京国際映画祭で高く評価された山嵜晋平監督の最新作『なん・なんだ』は、10年ほど前、監督が自殺しようとしていたおじいさんを止めた経験からスタートした企画。

『さよなら歌舞伎町』(14)を手掛けた中野太氏を脚本家に招き、個性豊かなベテラン俳優陣とともについに一本の映画として完成、1月15日(金)より全国順次公開です。

主人公は結婚してもうすぐ40年になる三郎(役:下元史朗さん)と美智子(役:烏丸せつこさん)。

ある日、文学講座に行くと出かけた美智子が何故か遠い京都で交通事故に遭い昏睡状態に。途方に暮れる中、美智子の趣味だった残されたカメラを現像してみると見知らぬ男の姿。困惑した三郎は娘の知美(役:和田光沙さん)とともに、浮気相手探しの旅を始めるのですが…。

人生が終わりに近づき、過去の記憶は徐々に失われていく。過去も未来も薄くなっていった時、私たちはどのような気持ちで残りの人生を過ごすのでしょうか。

今回はそんな答えのない永遠の謎を、決して重くなり過ぎず、幅広い世代が体験できるエンターテインメントとして届けてくれた山嵜監督にお話を伺いました。

きっかけは10年前、自殺しようとしていた老人との出会い

―― 監督は10年前に自殺しようとしていた老人を止めた経験があり、そこで“老いた人間の残された時間の生き方”について関心を抱いたそうですが、その経験からこのストーリーに至るまでの経緯、そして脚本家の中野さんとの会話も含めて教えてください。

映画『なん・なんだ』山嵜晋平監督インタビュー,画像

山嵜晋平監督(以下、山嵜監督)
そもそも自殺しようとしているおじいちゃんを見かけた時に、どう形にしていいのかよく分からなかったんです。その人の家に行って半生を聞いたんですけど、丸々書いても仕方がないじゃないですか。僕もまだ若くてモノを作る組み立ても上手く出来なくて、ほんわり書いていたし、ああいう出来事を真っ直ぐに書けなかったので、フィクションみたいな話を書こうとしていたんです。やっぱり怖いので自分との距離を空けようとして作っていたんです。

そもそも飛び降りようとしている人に声をかける時にメッチャ迷うじゃないですか。止めていいのかアカンのかとか。少なくとも死ぬって決めているわけじゃないですか。それを僕の一存で止めるのも良いのか悪いのかよく分からないし。本人は「目が回って頭が痛い、それが5年ぐらい続いている」と言っているから仕方がないのかなとか。だけど、出会ってしまったから「帰ろうか?」って言うしかないかと思って。

それを丸々書くのが怖いし、手触りが直に人に向かっている感じがして。だから、オブラートに包んで最初は“人間はどう生きていけばいいんだろう”みたいな概念だけが何となくふんわりあって。

その人の部屋には物が何もないんです。小さい机と椅子が一つずつ、ラジオと聖書と遺書と、テレビはないし、布団ぐらいしかなくて。

人間の時間軸の終わりがあるとしたら、そこにいる人ってどこを向いて生きていったらいいんだろう。過去の記憶も薄くなっていくわけじゃないですか。前も後ろも見るところがなくなったら人間ってどうやって生きていくんだろうな?って。何となくそれを概念というか、ぼんやり書きたいなと思って。その中で“カメラ”は当初からあって、最初は昔の幻がカメラに映るみたいな話を作ったりしていて、もっと柔らかい話だったんです。

中野さんがそれを読んで、死ぬことは映画において大きな出来事だから、死んでしまうよりも死なずに向き合っていく話の方がいいんじゃないか?みたいなことを話して、それで余命を生きていることにして。

僕が出会った人は市役所の職員として働いて定年で辞めて、離婚して嫁も子どもも居なくて、両親は亡くなっていて兄弟も居ない。全部なくなった人ってどうするんだろう?と思って。

嫁が浮気して離れていく。この年で対(つい)が離れていくのは、全てがなくなっていくような感触じゃないですか。だから、そういう話にしようかな?となって、関係性もこうなりました。

映画『なん・なんだ』山嵜晋平監督インタビュー,画像

―― “老いた人間の残された時間の生き方”という一文が引っかかって、様々なことを連想することが出来ました。ストーリーについて、前作『テイクオーバーゾーン』に似ていると思った点は、変えられない過去との向き合い方です。つまり、本当は受け止めたくない、自分が主体的に行ったことではないけど自分に影響する過去の事実。そういう逃げられないものとの向き合い方が監督の作品のテーマになっていると思ったのですが、いかがでしょうか?

山嵜監督
テーマとかあんまりないですけどね(笑)

何となくそういうことに興味がある気はしますけど、、、

映画『なん・なんだ』山嵜晋平監督インタビュー,画像

人間関係に対する疑問

―― 夫婦という関係性に関して妻・美智子は解釈する自由を持っているけど、夫は疑問を挟む余地もなくその関係性に依存し続ける。そんな二人が気付いたら全く違う道を歩んでしまうのかなと思ったのですが、夫婦の関係性についてはどうお考えですか?

山嵜監督
日本映画学校の卒業制作で『魚の味』という小津安二郎さんのパクリみたいな映画を撮っているんですけど、その時から夫婦というか人の関係性がよく分からなくて。

一緒の場所で生まれて一緒に育って、20年経ったら家族。途中で出会った人と15年一緒に生活したら友達、さらにその先で出会った人と5年生活したら恋人、だけど最近出会った人が急に家族(夫婦)ってなったり。

“人間の言葉”と“人間の関係性”って不思議だなっていうのはよく思っていたんです。何となく家族というカテゴライズが人間生活の中で一番強いから描こうとしたのかも知れませんが、人間関係が不思議だなっていうのはずっと思っている気がします。

映画『なん・なんだ』山嵜晋平監督インタビュー,画像

―― 最終的には夫婦とはちょっと違った少しスケールの大きい関係性も描かれていて、とても不思議でしたし、逆に人間が決めた関係性の中に誰も囚われる必要はないんだな、とも感じました。

背中で語る、下元史朗さん!

―― 続いて、キャストについて三郎役の下元史朗さんのパンチの効いた声や佇まいが凄くカッコ良かったです。役というより下元さんの良いところが演技として滲み出ている感じがしました。監督が撮影を通じて感じた下元さんの魅力を教えてください。

1228コメント解禁ニュース_映画「なん・なんだ」

山嵜監督
衣装のシャツは下元さんが着て来たんです。

大工の設定だからシャツの発想はなかったんですけど、衣装合わせで「シャツがいいな」とか言ってシャツを着ていらっしゃって。最後の変なチャンチャンコも下元さんが自分で持って来たんです。

下元さんなりに三郎像があって、僕は41歳なので当然ズレているというか違うんですよね。それが勉強になるというか、映画を作る上でよく分からず言語ではないところで色んなものを教えてもらった気がします。

芝居の動き方も当然大ベテランなので、「何となくこうしたい」とだけ伝えたら勝手にやってくれるんです。しかもそれが、なるほどなって。

マンションのベランダに出る時も、出る所がこっちだから履物がある方向に行こうとする筈なのですが、下元さんは“ガラッと開けてバッと”出て行くんです。“なるほど!”と。

何となく僕が埋められないところを凄く上手に埋めてくれるから勉強になりましたし、そこは面白かったです。

「ここのシーンはこういう意味だから」とか特段そういう話をする人ではないので、演技について会話は一回もなかったと思います。あのままで、背中で語るみたいな(笑)。

―― 映像に迫力がありました。“ガラッ”と窓を開けてから物干しを直すシーンも「痛てぇ!」と言いながら。観ているこちらは“竿をどかせば良いのになぁ”と思いながらも、あの感じが凄く良かったです。

山嵜監督
本当は棚だったんですけど、美術が「物干し作ります!」とか言って、下元さんも本番で初めて見たんです。「あれ、物干しになったの?」みたいな(笑)。それでも上手にこなせる、芝居に取り入れるからやっぱ凄いです。

1228コメント解禁ニュース_映画「なん・なんだ」

―― 本当に愛すべきキャラクターで下元さんのファンになりました!

素顔はチャキチャキ関西人、烏丸せつこさん!

―― 続いて、美智子役の烏丸さんですが、浮気をしていても不自然に見えなくて、若さというか艶やかさが伝わってきました。

山嵜監督
色気がありますもんね。

―― 烏丸さんは、撮影の中で特に印象に残っていることはありますか?

1228コメント解禁ニュース_映画「なん・なんだ」

山嵜監督
烏丸さんは滋賀の方だから普段僕と喋る時は関西弁なので、どっちかと言ったらチャキチャキなんです。「アンタ、ちゃんとご飯食べてるか?」みたいな感じだから。烏丸さんとは一番脚本の話をしたと思います。

生理的にその年頃の女性として言いにくいというか言わないであろう台詞と、物語としては言ってほしい台詞というところで難しいじゃないですか。

中野さんが言語として伝えなくちゃいけないことを言葉にしているんですけど、それが烏丸さんの生理としては気持ち悪いところもあって。「何で俺と籍入れたんだよ?」「成り行き」とか、あの辺は烏丸さんと話をしてそのまま直しているんです。

そういう烏丸さんの感覚とか、生理的なことの話し合いがいっぱいありました。

―― 三郎が「女は男に頼って生きているんだからしょうがないんだ」話した時に、美智子の何とも言えない顔がパッと思い浮かびますし、美智子が三郎の3歩後ろを歩くような姿も独特の雰囲気を醸し出しています。

山嵜監督
やっぱり上手ですからね。凄く難しいと思っていたけど、何もしない時や何も言っていない時の感じとか立ち位置が上手い。

橋の上の3人(三郎、美智子、甲斐田)の芝居も難しいと思っていたんですけど、烏丸さんが上手いこと立ち振る舞ってくれるから、“上手いんだな”と思いながら(笑)。

―― 3人がとても自然に見えました。加えて、この二人(三郎、美智子)のポスターのシーンも素敵でした!

山嵜監督
実はポスターのシーンは台詞がちょっと速かったんです。

現場で“速いなぁ”と思って、「もうちょっと待ってもらっていいですか?」ってお願いしたんです。でも、「多分これぐらいがいいんじゃない?」って。テストの時も“速いなぁ”と思っていたけど、本番の時にちょっと穏やかな気持ちで見ていたら、“確かにこれぐらいでちょうどいいかな”と思って、仕上がった時に見たら“これぐらいでちょうどいいんだろうな”と思って、“やっぱりベテランって凄いな”と思って(笑)。そういうのがよくありました。

1228コメント解禁ニュース_映画「なん・なんだ」,画像

和田光沙さん&佐野和宏さんの魅力

―― 今、監督に言われるまで全く気にならないくらい溶け込んでいて、印象的なシーンでした。
娘の知美役の和田光沙さんも母親とは世代が違うので抱えているエネルギーも違うという中で、ああいう形で感情を見せてくれるのもスゴイですよね?

山嵜監督
楽しかったです(笑)、役にガッと入る方だから。

和田さんは映画学校の頃から存在だけはずっと知っていて、何となく近いところで仕事をしたり、『菊とギロチン』の助監督をした時に和田さんも出演されていたり。

今回は憑依型っていうと良くないかもですけど、バーン!とエモーショナルに。普段はもっと冷静に芝居している気がするけど、鴨下(役:吉岡睦雄さん)の車の中から出ていく時にテンションが上がりすぎたか分からないですけど、靴も履かずに出て行って。

カットで戻って来た後に、「あれっ、私靴履いてない」とか言って、芝居でやっているのかと思ったら普通に忘れていたから、“こういうパターンの人なんだな”と思って(笑)。

1228コメント解禁ニュース_映画「なん・なんだ」

―― 父親の三郎に似ているんだなっていう感じもしました。
そして、甲斐田一雄医師役の佐野和宏さんについてですが、病室にニコッと現れる時の演技も凄く優しそうな顔で、これは誰もが惚れちゃうだろうなと思いました。

山嵜監督
いや〜、普段から持っていらっしゃる変なフェロモンが全開でしたね(笑)。

―― 美智子の「甲斐ちゃん」と言う時の笑顔がまさに2人の関係を物語っていたので、人生長く生きているとこういうこともあるよねって、嫌味なく凄く自然な雰囲気で良かったです。

山嵜監督
良かったですよね。

1228コメント解禁ニュース_映画「なん・なんだ」

―― 「食べる?」と美智子に聞くところも素敵なシーンですよね。

山嵜監督
佐野さんがガムを食べていて、それを芝居でそのまま「あげる」っておっしゃったんです。普通に食べていたガムだったので、流石に?と。

ちょうど差し入れか何かで“あられ”があったので、あられにしたんです(笑)。

キャッチコピーは、人生5度目の青春物語!

―― 最後に、見所を含めて映画ファンにメッセージをお願いします!

山嵜監督
見所って何ですかね〜(笑)

僕が言っていることが小難しいから、あんまり小難しい映画だと思われると嫌やな(笑)。

意外とフランクにエンターテインメントでもいいのかな、ぐらいの手触りにしようと。テーマが重苦しいだけにあんまり苦しくやるのも嫌だなと思ってやっているんですけど、僕が言っていることだけ言語にすると凄く重苦しい映画じゃないですか(笑)。死のうとしていた人を止めて、、、

―― 優しい佐野さんと下元さんが、このお年で殴り合いの喧嘩をするのって見所ですよね?(笑)

山嵜監督
確かに、見所ですよね(笑)老齢の男性の殴り合い(笑)

見所ってメッチャムズイじゃないですか(笑)

先日、奈良の試写会があってロケ場所を借りた病院の方々とかも来てくれてたんですけど、2人ぐらい泣いている人がいました。ご自身の境遇もあって感情移入したようなのですが、観た人によって見え方が皆違うから不思議な映画だなと思います。

和田さんも「台本を読んだ時は普通の浮気の映画だと思っていたけど、観たら凄く複雑な家族の映画になっていてビックリしました」って。

だから、それぞれの年代の立ち位置によって発見と共感を見つけ出せる老人たちの青春物語(笑)!

人生5度目の青春物語です!

映画『なん・なんだ』山嵜晋平監督インタビュー,画像

―― ありがとうございました!!

キャスト

下元史朗 烏丸せつこ
佐野和宏 和田光沙 吉岡睦雄 外波山文明
三島ゆり子

企画・監督

山嵜晋平

プロデューサー:寺脇研
脚本:中野太
音楽:下社敦郎
助監督:冨田大策
撮影:山村卓也
照明:神野誉晃
録音:篠崎有矢
美術:三藤秀仁
衣装:米村和晃
メイク:木内香瑠

デザイン:成瀬慧
【2021年/日本/DCP/カラー/アメリカンビスタ/ステレオ/107分】

ARTS for the future! 補助対象事業

配給・宣伝:太秦
公式HP:nan-nanda.jp
(C)なん・なんだ製作運動体

なん・なんだ,画像

1月15日(土)新宿K’s cinemaほか全国順次公開