映画『ボディ・リメンバー』
山科圭太監督インタビュー

現在、アップリンク吉祥寺にて、自らもNHK大河ドラマ『青天を衝け』などに出演し、俳優としても活躍する山科圭太さんが監督・編集を務め、マレビト会の田中夢さん、青年団・元サンプルの奥田洋平さんと古屋隆太さん、五反田団などで活躍する鮎川桃果さんら演劇界の実力派俳優が出演するボディ・リメンバーが公開されています。

小説家のハルヒコは、新作アイデアのため、従兄弟のヨウコ(田中夢)からある夜の出来事を聞きだす。

3年前、ヨウコが夫のアキラ(奥田洋平)と経営しているバーに、夫妻の親友のジロウ(古屋隆太)が訪れ、一堂は久しぶりに再会する。しかし、実はヨウコとジロウは愛人関係だった。時折緊張が走る中、たわいもない話で盛り上がる3人。そして、アキラが目を離した隙にヨウコとジロウは消えてしまう。高架下で激しいキスを交わす2人。そして、それをアキラは見ていた――。

3人をモデルに小説を書き進めるうちにハルヒコはミステリアスなヨウコにのめり込んでいく。ハルヒコの恋人のリリコ(鮎川桃果)は止めようとするが、ハルヒコの創作は止まらない。現実と夢、そして小説の世界が混ざり合い、物語はラストへ向かうが…

今回は同作の監督・編集の山科圭太さんに同作の製作経緯や映画に込めた思いなどについてお話を聞きました。

(文章・写真:熊野雅恵)

観客を遠くへ連れて行きたい

映画『ボディ・リメンバー』山科圭太監督,画像

俳優としても活躍する山科圭太監督

映画の見どころは、虚実が入り乱れるシチュエーションを背景に、演劇で鍛えた実力派俳優3人の芝居合戦にあるが、その設定にはどのような意図が込められているのであろうか。

「今回の映画で目指したのは、俳優の演技があらかじめ用意した物語の設定を離れて自走していくことでした。

映画を撮るからにはお客さんを遠くに連れて行きたい。そのために、俳優さんたちには自分の想定を超えたことをやって欲しいんです。それには俳優の演技を際立たせる設定が必要だと。

そこで、今回は現実と夢の中をさまよう話にしたんですね。時間と空間をずらせば、お客さんが今どこにいるのかはわからなくなって、俳優の演技を集中して見るようになる。ストーリーは分かり辛いかもしれませんが、俳優の存在をより際立たせることができると」

キャストには、演劇で鍛えた実力派俳優たちの名前が並ぶ。彼らにはどのようにして出会ったのだろうか。

ボディ・リメンバー,画像
ボディ・リメンバー,画像 ボディ・リメンバー,画像

「大学の建築学科を卒業した後、映画美学校に行って自主映画を撮っていたのですが、ある時期から俳優として演劇作品に出演するようになりました。それで『この人たちを撮りたい』と思った人たちに出会ったんです。それが、今回出演している奥田洋平さん、古屋隆太さん、田中夢さんでした。この3人ありきで、以前から映画で描きたいと思っていた〝大人の三角関係″で物語を作りたいというのが最初の発想でした。

そして、作風はヨーロッパの映画にあるような心理サスペンスタッチのものにしたいと思っていたんですね。フランスのヒッチコックと言われているクロード・シャブロル監督の作品をイメージしていました。

撮影場所についても、観客を遠くに連れて行かなくてはならないので、見慣れない風景を探しました。映画を見ていて、どこかわからない感覚になるように、日本語が映らないようにする工夫もしましたね」

映画『ボディ・リメンバー』予告

俳優の自走がもたらすもの

建築学科に在籍していた大学時代、自分で脚本を書き、演じて撮るという3役をこなすところから映画製作をスタートさせたという山科さん。今も俳優を続けながら映画製作をしているが、やはり「俳優の自走」は自身の経験から来た発想なのだろうか。

「強く意識したことはありませんが、監督だけをやってる人とは違う思考回路があるかもしれません。常に『どうすれば上手く表現できるのか』ということを意識しています。

今回、普通の映画製作と異なるスタイルだったのは、本番前にかなり時間をかけたことです。演劇公演は本読みやリハーサルなどに時間をかけて、作り込んで本番を迎えますが、今回も同じスタイルでした。

演劇の俳優さんたちは、自分が吸収したものを「現場で返したい」という気持ちが強い人が多いので、お互いに作品に対するイメージを共有して本番に臨みたかったんです。

せっかく、演劇人たちに出演してもらうのだから、彼ら彼女らの考えを取り入れたかった。本読みやリハーサルには時間をかけただけあって、現場では自分が考えていたことを超えるものが出てきました。それはとても嬉しかったですね」

ヨウコの感じたことは

脚本家はマレビトの会の演出部で脚本を担当する三宅一平さん。日常の会話であるにもかかわらず、フィクションを感じさせる、書き言葉的な語感がこの作品にぴったりだと感じ、依頼したという。脚本は当て書きの形で制作されたが、それぞれの人物像はどのようなものだったのだろうか。

ボディ・リメンバー,画像

「ヨウコは自立できずに、常にふわふわしていて誰かに支えて欲しい人なんです。そして、漂うがゆえにいろんな時空を軽やかに行き来できます。また、ハルヒコも彼女のそういうところに惹かれていきます。

ヨウコの愛人のジロウは弁護士をしていますが、器用でいろんなことをうまくこなせる男でした。でも、それが劇中ではそれが危うくなってくる。一方、夫のアキラは繊細で誠実、不器用な男でジロウとは対極にいます。

ヨウコはその3人の男たちの間を行き交い、その時々で違う表情を見せる。彼女の気持ちはその時々で変わっているのかもしれませんが、彼女の感じたことや男たちの前で見せる表情は紛れもない真実です。

僕はよく夢を見るのですが、どこからどこまでが自分なのかも、どこからどこまでが現実なのか、夢なのかわからないという錯覚に陥ることがよくあります。でも、それが現実であれ、夢であれ「自分の身に起こった」ということは変わりないんですね。

そのことを経験してしまうと、自分の認識はもはやどうでもいいことなのではないかと思ってしまう。その時々、自分が感じていることだけが真実なのではないかと。そんなことをヨウコと3人の男たちの関係を通して表現したかったんですね」

音楽や衣装のセンスが抜群の本作。随所に山科監督のセンスの良さをうかがわせる作りになっているが、こだわりはあったのだろうか。

「音楽は、作曲家であり、「上演とは何か」という問いをベースに、音楽のバックグラウンドを用いた脚本と演出をしている東京塩麴を主宰している額田大志さんに制作を依頼しました。

額田さんの音楽は、普段はタイトな雰囲気のリズムがしっかりしたものですが、今回はこの映画の雰囲気に合わせたものを作ってもらいました。アルフレッド・ヒッチコックの『サイコ』(60‘)みたいな感じで、というオーダーをしましたね。

僕は俳優の芝居も音楽も、作品に溶け込むだけではなく、それぞれが独立していて欲しいと考えていますが、今回はそれがばっちりハマった感じです。

衣装については、あまりお金は掛けられなかったのですが、シーンのすべてを〝リッチに見せたい″という気持ちもあってこだわりました。美術も同じです。

自分も俳優ですが、現場に行って衣装がカッコいいとモチベーションが上がります。それも考えて、なるべくセンス良く見える衣装を着てもらいたいと思っていましたね」

事実から炙り出される真実を

ところで、最初のタイトルは『Good Boy, Good Girl』だったが、『ボディ・リメンバー』に変更になっている。作品のテーマに沿った、身体性を意識したタイトルに変更したということなのだろうか。

「自分の中でほぼ完成という段階では、『Good boy,Good girl』だったのですが、何回か試写をして、最後の編集をしている段階で、〝事実から炙り出される真実″をもっとテーマとして前に出した方がいいと思ったんですね。その時に『ボディ・リメンバー』というタイトルが浮かんできました。

スクリーンでは虚実が入り乱れてストーリーが展開し、あれ?と思うかもしれません。でも、それとはまったく違うレベルの絶対的な〝感覚″が肉体に刻まれる。それがスクリーンで目の前に映し出されて感じ取れる何かなのではと思っています」

事実と真実が行き来するのは、そのまま創作の世界ともつながる。山科監督にとって創作とはやはり、事実から真実を抽出する作業なのだろうか。

「例えば、今はコロナ禍にありますが、何年かして今の状態を振り返る作品を作ろうとした時、俳優たちが必死に演技をしたとしても、当事者の人たちが目にした光景=『事実』をそのまま再現できるわけではありません。

しかし一方で、当事者の人たちが感じたこと=『真実』は、設定や演出でよりリアルに表現できることはできると思っています。そして、その『真実』は抽象度が高くなればなるほど、再現性が高くなる。つまり、『事実』の再現性はそれほど重要ではないのではないかと。

映画を撮り終えた今、感じていることはやはり、虚偽の中にこそ真実に到達できることがあるということです。最初は俳優を撮りたいという発想で始めた映画でしたが、最後はそこに辿り着きました。脚本で提示された『事実』が彼らの中で咀嚼されて、演技の形で『真実』が炙り出される。今回はその試みに成功したと感じています」

ものづくりに魅了されて

大学の建築学科を卒業後、映画美学校で映画製作を学んだという山科監督。一見、かけ離れた世界にも思えるが、なぜ建築家を目指したのであろうか。

「中高時代はバンド活動を熱心にしていましたが、進学を考えた時に『建築をやってみよう』という気になったんです。何もない空間に自分で何か作ってみたかったんですね。

今振り返ると、映画作りは建築に似ていると思います。建築は街があって、住居があって、その中に部屋があって、そしてそこで人が生活するイメージ=ドラマを想定し、それを元に設計図を作って建物を作ります。映画もシーンからカット、コマ割りと細かく作り込んでいきますが、その過程には通ずるものがあります。イメージを具現化する作業ですね。

ちなみに、僕は理系だったので「登場人物の心情を説明しなさい」という国語の問題は苦手でした(笑)。それは本当にその人になってその気持ちを味わってみないとわからないよと。

今回はかつてのその気持ちをヨウコが代弁してくれたような気もします。人の気持ちはその時々によって変化する。ヨウコは一人では生きられない分、ふらふらと男たちを頼り、そしてそれが彼らにとっては魅力的なわけです。彼女の気持ちに〝正解″はない。ただ、彼女が感じたことだけが真実で、そして、そのヨウコに男たちが惹き寄せられたということだけが真実なんです」

映画『ボディ・リメンバー』山科圭太監督,画像

最後に、今後の活動をについて質問するとこんな答えが返ってきた。

「僕にとっては俳優も映画監督も〝ものづくり″という点では変わりません。なので、演じつつ撮れる機会があれば、撮っていきたいです。

そして、今回のように俳優が映画の設定から自立する作品を撮っていきたい。シーンの積み重ねで物語ることを意識して、今度は一人の人をフィーチャーした物語を撮ってみたいですね」

俳優、監督と多方面で活躍する山科監督。彼の描く真実は何か、スクリーンで確認してみて欲しい。気が付けば、どこか遠くに連れて行ってくれるに違いない。

公式HP

body-remember.com

キャスト

田中夢
奥田洋平
古屋隆太
柴田貴哉
鮎川桃果
上村梓
神谷圭介
影山祐子

映画『ボディ・リメンバー』作品情報

監督/編集:山科圭太
脚本:三宅一平 山科圭太
プロデューサー:井前裕士郎 山科圭太
撮影/照明:松島翔平
録音/整音:織笠想真
助監督:大杉拓真
美術:福島奈央花
音楽:額田大志
製作/GBGG Production:山科圭太 株式会社 Standby 有限会社レトル
2020/日本/85 分/カラー/ステレオ/アメリカンビスタ
配給:(C)[ボディ・リメンバー」製作委員会

2021年6月25日(金)アップリンク吉祥寺、
2021年7月23日(金)アップリンク京都にてロードショー