日本でもなく韓国でもない、幻影と実景が交差する場所へ

アートセンターでの仕事を通じて、人と映像の関わりをみつめてきた映画作家・河内彰。映像を「縫合」するという、普遍的とも全く新しいとも受け取れる独自の感性は、瀬々敬久・真利子哲也らをはじめ各映画祭で高く評価され続けてきた。SNS スラングを題した本作は、親友を亡くしたとある女性の物語を通じて、人の心に現れる「とり残される怖さ」と悲しみ、その先に見えてくる光景を描き出す。キャストは本作が初演技・初主演の Yujin Lee、『誰もいない部屋』の小島彩乃、『なみぎわ』のサトウヒロキら。人物たちの感情の震えを繊細に表現する。

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〈特別寄稿〉
大林千茱萸(おおばやしちぐみ)/映画感想家・映画作家
「うえだ城下町映画祭 第 18 回自主制作映画コンテスト審査員賞(大林千茱萸賞)」講評、授賞式での談話より

「夜」が美しい。撮影が素晴らしい。本作は言葉や文字、音楽では説明できない、映像がなければ描けない、映画的な力強さを感じる作品でした。

暗闇からほのかな光がうっすらと浮かび上がる体育館のシーンから始まります。そのほの暗さのなかでうごめく少女たちの姿――。私たちの暮らす現代というのは、実は、とても明るいんです。この映画ほど暗くありません。なので、久しぶりに映画のなかで「夜」というものを拝見できたという感動がありました。作品を照らすギリギリの灯りが観客の視点を誘導していきます。集中力を促す映像のうまさがありました。

本当に好きな、印象的な場面がいくつもあります。亡くなった親友の声がボイスレコーダに残されています。泣く女性をカメラがとらえて、そこから腹部を映します。泣く時はお腹は結構動くものなんです。そのしゃくり上げる仕草や悲しみの演出が素晴らしかったです。小さな演出の積み重ねから、無機質であるはずのボイスレコーダが有機的になっていきます。死の瀬戸際からなんとか声を残したいという一所懸命さが、抑揚や語りかけから伝わってきます。画面の中には映っていない人の「気配」のようなものが久しぶりに「映画」から感じられました。

これからご覧になる観客の皆様もいるので多くは語りませんけれども、いいセリフもたくさんあります。ドキッとするような場面、ショッキングなシーンにも意味が散りばめられています。もしかしたらこの河内彰さんという作家さんは、静寂と静粛との狭間にドキっとする恐ろしさを秘めている人なのでは、と色々なことを想像させてもらいました。

少ない登場人物たちを観続けていくことで、他者を理解したい、分かろうと想う気持ちが胸に迫ってきます。亡くなった人、残された人、変わってから気づくこと、それまで当たり前だったことの大切さ。人の存在。場所や人が変わっても、心が繋がっていく普遍性。そうしたことをとても感じました。

初めは 17 インチのパソコンで観ていたのですが、途中から「これはいかんな」とプロジェクターを出して、大きな画面で拝見しました。できれば映画館の暗闇に包まれながら、ここに映る夜を浴びたい。そんな欲求が生まれました。

大林千茱萸賞という大袈裟な名前が付いていますが、事前の履歴書などではなくて、まず真っ白な状態で先入観なく作品と対面させていただいた上で、自分が圧倒されたものを基準に選ばせていただきました。今後も映画を作り続けてくれるのではないかという期待も込めて。河内監督は会社員をされながら映画を作り続けてらっしゃるとのこと。それは、映画を上映する出口ひとつ見付けるのも大変な作業です。けれどその素晴らしい作家性でもって、是非これからも映画を作り続けてほしい、次回作を観たいという願いも込めて、賞を贈らせていただきました。

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コメント

大林千茱萸(映画感想家)
画面の中には映っていないはずの、人の想いの「気配」を久しぶりに感じました。
もっとこの暗闇に包まれたい。圧倒される作家性。

山﨑憲一(うえだ城下町映画祭実行委員会 委員長 )
かつてヌーベルバーグが、映画表現の極みに挑戦した息吹をこの作品に感じる。全体を深く静かに抑えた画面に輝く眩しいまでの光、長回しに流れるモノローグ、2時間分を2分に凝縮した冒頭のドラマ、ローラー滑り台は絶品。

大塚大輔(福岡インディペンデント映画祭 )
折り重なる闇、灯り、会話。共鳴する心。いつまでも浸っていたい、至高の 36 分。

安川有果(映画監督)
声と記憶の間を彷徨いながら、闇をくぐり抜けた先で、果たしてユジンはもう一度彼女に会えるのだろうか。
※『フィア・オブ・ミッシング・アウト』公式サイトにて
到着コメントを随時更新中

あらすじ

一緒にいれなくて悲しい。
それは、ここにいない誰かを思うという あたたかな気持ちでもある。
親友のイ・ソンを亡くしたユジンは、彼女の残したボイスレコードを発見する。ここにいない友と通じ触れながら、ユジンは思い出と現在の時空を行き交い始める。街のネオン、夜のとばり、彼女の車が向かう先は——。

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『フィア・オブ・ミッシング・アウト フィア・オブ・ミッシング・アウト』予告編映像

公式HP

fomocinema.com / Twitter

キャスト

Yujin Lee
高石 昂
小島彩乃
スニョン
サトウヒロキ
レベッカ
藤岡真衣
横尾宏美
安楽涼
鏑木悠利
三田村龍伸

作品情報

監督・脚本・編集・撮影:河内 彰
協力:金子尚景
音楽:muh
宣伝デザイン:Do Ho Kieu Diem
配給:Cinemago
配給協力:ギグリーボックス
製作:Crashi Films
2019 年/36 分/日本/カラー/DCP
© Crashi Films

同時上映『IMAGINATION DRAGON』

創造はどんな世の中でも無限に広がり芽吹く。
東京都によるコロナ禍における映像企画として採択され制作されたショートフィルム。 休館を余儀なくされたアート施設を舞台に、創造・想像に対する願いをこどもたちの純粋な行動に託し、カメラが追う。想像の竜はどんな時、どんな場所にでも、静かに眠っている。
作品情報
監督・脚本・編集・撮影:河内彰
出演者:YUUJI KIKUTA、YUUNA KANEOYA、KEISUKE KAWASAKI、A-BOW、NONO
協力:3331 Arts Chiyoda 英訳:Emily McDowell 音楽:muh
2020 年/15 分/日本/日本語/カラー/DCP

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2021 年 7 月 31 日(土)より池袋シネマ・ロサほか全国順次公開

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