映画『あらののはて』公開記念インタビュー
長谷川朋史監督 舞木ひと美さん 眞嶋優さん

池袋シネマ・ロサほかにて全国順次公開中の映画『あらののはての公開を記念して、長谷川朋史監督、主演の舞木ひと美さん、共演の眞嶋優さんにお話を伺いました。

本作は、高校2年の冬にクラスメートで美術部の大谷荒野(髙橋雄祐)に頼まれ、絵画モデルをした時に感じた理由のわからない絶頂感が今も忘れられない25歳のフリーター・野々宮風子(舞木ひと美)が、8年の月日が流れたある日、友人の珠美(しゅはまはるみ)にそそのかされ、マリア(眞嶋優)と同棲している荒野を訪ね、もう一度自分をモデルに絵を描けと迫る物語。

今回は、本作のテーマから、風子やマリアの気持ち、キャラクターに共感できるかどうか等、ちょっぴり不思議な本作について語り合っていただきました!!

長谷川朋史監督

長谷川朋史監督

あらののはて,舞木ひと美,画像

風子役の舞木ひと美さん

あらののはて,眞嶋優,ましまゆう,画像

マリア役の眞嶋優さん


―― 「不思議な感覚になる」というコメントも寄せられています。個人的には朝方風子が歩くシーンを観て、物欲に駆られている自身から“自然”と調和する方向へと、モノの世界からそうではない世界に行ったような気持ちになりました。最初監督にお聞きしたいのですが、なぜこのテーマを選ばれたのか。例えば、「絶頂」と言われても、男性からすれば女性についてよく分からないところもありますし、またそれがこういうシチュエーションの中で生まれて、そして8年後に続く。ストーリー性というよりは感覚的なものを感じるんですが、なぜこのテーマを使い、こういう形の作品を作ろうと思われたのか、全体像をお聞かせください。

長谷川朋史監督(以下、長谷川監督)
性的なことを扱った作品が性暴力や過激なものであることが凄く多い。そうではないパーソナルに持っている性的な思い出が皆絶対あるはずなので、そこを否定したらいけないだろうと思ったので、“タブーではない性”というイメージは最初にありました。内容としては性的なものを扱っているようには描いていないけど、テーマとしては“タブーではない性”が大きくあります。

―― それで 私は“自然”に身近に触れ合っていた子どもの頃を思い出したのかもしれません。

長谷川監督
何となく思い出にフォーカスするとか、自分の青春時代や出来事にフォーカスすることが非常に多いと思います。それは映画としては物語として成立しているか、それとも何か社会的な問題としてそこに存在しているか、その2つになってしまいます。思い出はさっき仰られた風景の中にあるようなものだと思っているので、何も映っていないような景色とか風景みたいなものを見て懐かしく思ってもらえるよう、状況描写ではなくて最近凄く少ない風景描写にこだわりました。

さっき夕焼けって仰られたシーンは、実は早朝のブルーアワーという夜明け前のまだ日が射していない青い時間帯で、そこは狙ってそこをキービジュアルにしようと思っていました。そういう意味では、そこに性的なものや青春の断片みたいなものが塗り込められるかなと考えて作りました。

―― 高校生の風子が早朝、絵画のデッサンのモデルをするために教室に向かうシーンでしたが、監督が込められた意図・映画的な表現を、無意識のうちに感じたのかもしれません。風子役の舞木さんは、会話が少ない中で視覚的に高校生や8年後の姿を表現されていました。事前情報なく拝見したので、舞木さん自身は現役の高校生なのかな?と思っていました。

舞木ひと美さん(以下、舞木さん)
本当ですか!!?

―― まさに、自然に演じていらっしゃいましたが、年代が違う風子を演じていく上でポイントにされたことや、難しかったことはなかったのでしょうか?

あらののはて,舞木ひと美,画像

舞木さん
そもそもこの年齢で高校生役をやる時点で、そういう風に見せようとすると無理があると思うので、等身大のまま、今の私が高校生だったらっていう考え方を変えました。高校生役をやるというよりも、もう受け入れて(笑)

風子に関しては、8年間引きずっていくところが主軸になるので、変わらないところがポイントだと思いました。風子って頑固な子だと思うんですよ。その頑固さが人に伝わるような表面に出てくるような頑固さではなく、自分でも気付いていない曲げられない部分があるので、変わらないように演じようとしたのはあるかもしれないです。8年後だから大人っぽくとかではなくて、そこはあえて意識したところです。

あらののはて

―― 確かに、風子の気の強い側面は、駆け引きをされた時にいきなりビンタするシーンにも表れていますね。あの辺のしたたかさを見て、風子は悩んでいるんじゃなくて突き進んでいるんだなって感じました。

舞木さん
そうです、風子は駆け引きとかは苦手ですね。

―― さらにそれの上をいってますものね(笑)

舞木さん
はい、動物的なところがあります。

―― そして、眞嶋さん演じるマリアはある意味では作品の中で一番普通ですよね。自分の彼氏の元同級生の女性が部屋を突然ピンポンしてきたら、マリアのような気持ちになるでしょうし、公園で風子と会話しているシーンも“分かるなぁ”みたいな。終盤に向かってマリアの嫉妬する姿も可愛らしく感じるんですけど、全体を通じて自分らしかったとか、逆に難しかったとかについてはいかがですか?

あらののはて,眞嶋優,ましまゆう,画像

眞嶋優さん(以下、眞嶋さん)
感情を露わにするような喜怒哀楽がはっきりしている子じゃないですけど、起きている出来事に対して疑問を抱いたり、怒りを抱いたりという意味では、凄く難しかったっていうことはなかったです。オーディションで、長谷川監督と舞木さんに選んでいただいたので、あえてキャラクターを作るというよりは、そのまま演じようと思っていました。

―― そのまま演じられたということですが、マリアと、今対面している眞嶋さんの雰囲気は全然違うように見えます(笑)

あらののはて,眞嶋優,ましまゆう,画像

眞嶋さん
今は取材用の格好をしているので(笑)

お家の時はマリアに近いかもしれないです。普段からジャージで、寝っ転がってテレビを見たり、そういうタイプなので(笑)外の自分というより普段の自分とリンクさせて演じました。

舞木さん
先日も「午前中はリフティングしてきました!」って。普段からシュートボクシングをやっているという設定のマリアの要素あるかもね?

眞嶋さん
普段から筋トレしたりしてます。

―― よくSNSで華麗なリフティングを拝見しています!!お二人は空手の経験は?

長谷川監督
実はそこはちょっとぼかしているんですけど、風子は空手道場の娘の設定で空手の地区大会でいつも勝っている地元では超有名な選手だったという裏設定があります。マリアはシュートのジムに通っているシュートの選手という設定。でも、本編では何も触れていない。

格闘界もジム同士のやり取りがあって、シュートボクシングはキックボクシングをベースにした立ち技格闘技なんですけど、空手の道場でシュートもやって空手もやっている人が結構多くて、二人は競技は違えど、共通の知り合いが多いという設定です。書いているうちにどんどんその要素が薄くなっちゃったから、残骸として設定だけ残っちゃってる(笑)

眞嶋さん
当時はシュートボクシングやキックボクシングはあまり経験がなかったんですけど、逆に今はアクションをやったり、筋トレもよりやったりしていて、撮っていた当時より今の方が強いかもしれないです(笑)

―― 監督は“モヤモヤ”に作品の魅力があるとインタビューでお答えされていますが、監督のおっしゃっているモヤモヤ感についてもう少し教えていただけますか?

長谷川監督
僕にとって自分の中にある成瀬美希さんが演じた風子の同級生・前田役と、眞嶋さんが演じたマリアの二人が本当に可哀想に思っています。『あらののはて』は、前田とマリアの想いというか、本当に酷い女にひどい目に遭ったみたいな悲劇の話みたいなイメージがあって(笑)風子はとにかく酷い女なんですよ。でも、本人に悪気はないし、本人のせいでもない。

モヤモヤっていうのは、風子自身が主人公なんだけど、風子の感情や心情自体には誰も絶対感情移入できないし、共感出来ないようなキャラにしたので、そこは凄くモヤモヤすると思うんです。風子の感情や心情を知りたいと思っても絶対にそこは分からないように描いているので。だからこそ、唯一の感情が見える、河原を嬉しそうにニヤニヤ歩いているところだけに込めている。そこを見たら、多分風子のことが許せて好きになるんじゃないかと思って、描いています。

マリアも前田もその風子を知らないので、何でこんなことになってしまったのか分からないモヤモヤを皆がずっと抱えてみたいな、青春のそういう蹉跌(さてつ)を描きました!

舞木ひと美,あらののはて,画像

―― そういう設定の風子ですけど、舞木さんは自分で思い当たるようなところはありますか?(笑)

舞木さん
思い当たるどころじゃない。ほぼ私って感じです(笑)

あらののはて,舞木ひと美,眞嶋優,ましまゆう,画像,長谷川朋史監督

長谷川監督
(笑)

舞木さん
恋愛においてだけではないですけど、人を振り回しているようなことは多々あるとは思います。

―― 誰しも仮面を被っているけど、結局は自分の欲のままに動いていたり、それを誤魔化して理屈立てして動いていたり、それが風子にダブって見えるとか、自分にダブって見えるというか?

舞木さん
風子は仮面は被っていないと思うんですよ。むき出しのまま。“ツルッ”とした人間の仮面があるとしたら、それがなくて。ハッキリ出しているというか、そういう人間だと思います。私も多分そういうタイプです。

長谷川監督
『あらののはて』を撮る時は、まだ(舞木さんと)知り合ってそんなに時間が経っていなかったので知らなかったんですけど(笑)、演技と考えていることの感じがそういう風に見えたので。なるほどなって。そういうキャラがバッチリ合ったね!?

舞木さん
(私が)滲み出てる(笑)

―― 眞嶋さんご自身としては、マリアが普通の存在だとしたら、風子を見てどう感じますか?

あらののはて,舞木ひと美,眞嶋優,ましまゆう,画像,長谷川朋史監督

眞嶋さん
8年も絶頂感を忘れられずに男を訪ねてくる心理は、私自身も分からないし、マリアとしても分からないところです(笑)

―― ある意味でのしつこさや執念深さみたいなところもあるけれども、風子にダークなイメージを感じないのは、舞木さんがおっしゃった、むき出しのままの人間だからかもしれないですね。

眞嶋さん
だからこそ、「ワァー!!」って怒鳴りたくても怒鳴れない。面と向かっても言い合いにならないのは、そうした人の持つ雰囲気なのかなって思いました。

―― あのビンタに秘密があるのかもしれないですね。痛かったですか?(笑)

眞嶋さん
そうですね(笑)寒い日だったので余計に、“ピーン”ってきましたけどイイ音でした。

舞木ひと美,あらののはて,画像

―― 意外と荒野はいい奴と思ったりもするのですが?(笑)

長谷川監督
実は、荒野に惹かれる気持ちが存在するかどうかとか何も話をしていなかったので、風子とマリアが荒野のどこに惹かれたかはちょっと聞きたい(笑)

あらののはて,舞木ひと美,眞嶋優,ましまゆう,画像,長谷川朋史監督

眞嶋さん
好きでしたよ、私は。一番は尖った気持ちも受け入れてくれる、「全部僕は受け止めるよ」っていう人柄に惹かれています。

舞木さん
マリアが「授業中居眠り当たり前でしょ」と言って、風子が「いや、でもうちは進学校だからそういうことはあんまりしない」というような会話の中で、チラッと荒野の学校生活の雰囲気が分かるような夜のシーンがあるんです。あの辺から学校生活の荒野がどういう人物なのかを何となく紐解きました。

そういう目立ち方している人って目に止まるというか、皆と同じラインを走っていない人間に学校とか集団生活の時って目がいくじゃないですか。でも、それが最初は好きかどうか自分でも分からない。最初はそれぐらいのきっかけで、たまたま運命的に席が後ろと前で、たまたま私が食べたガムを荒野が食べたことがきっかけで「あれっ?」って。恋の芽生えるきっかけって分からないじゃないですか(笑)

そこから気になり出して「この人に何でこういう感情が生まれるんだろう?」って後から整理していく感じ。ノートに荒野の名前を書く時も、好きだから、この人と結婚したいから書くんじゃなくて、気になっているからその想いが先走って書いていく。後追いで好きっていう感情は追ってきたような感じがしています。

―― 確かに、段階を踏んでいるのは感じました。あの時、荒野は何気に風子をかばっているわけですよね。“好きなんだな”って気付くのは、ガムを交換するシーンですかね。

舞木さん
どっちも「好き」っていう言葉は発さないですからね。お互いに匂わせているだけですから。

―― 話題が変わるのですが『カサブランカ』を風子たちの高校の先生が熱弁されますが、なぜここで『カサブランカ』なのでしょうか?

長谷川監督
イングリッド・バーグマンは綺麗ですよね、大好きで(笑)

活動家の旦那が死んだと思っていたんだけど、結局生きていたから不倫している恋人とはお別れみたいな三角関係の話。三角関係の酷い話だけど、映画としてはそこにフォーカスされていないので、恋愛というより美談みたいな感じになっているところが『カサブランカ』は面白い。

実体験で、大学で英語の教授が『カサブランカ』を教材に英語の授業をしていたので、そういう縁があって(笑)自分の好きなことを一生懸命語る先生は非常に愛おしいというか、その人自身のことを知ることが出来ると思います。

先生役の藤田健彦さんは凄く演技をしようとする俳優さんなので、演技をさせないために「『カサブランカ』を好きになって語ってください」とお願いしました。なので、先生の授業は、全部藤田さんのアドリブです。

―― 風子の台詞で「先生まだやってたの?」って言いますよね。それがしゅはまさん、藤田さん、長谷川監督が結成した自主映画制作ユニット「ルネシネマ」に対しての「まだやっていたの?」と被っているというか、「まだ、しぶとくやってるの?」みたいな風にも聞こえました(笑)

全員
(笑)

長谷川監督
それは意識したことはなかったですけど、卒業して数年ぶりに学校へ行った時に先生がいたら、“あれっ、ここ時間経ってないのかな”って思うことがあるじゃないですか。先生たちにとってもそんなに時間が経っていないのかなって。

あと、学校は毎年多分同じことが行われて、人は入れ替わるけどずっと同じことが、同じ青春の蹉跌、同じ失恋、同じ出会いが繰り返されている。学校はそういうところなので、本作では記号として使っています。教室っていう場所が舞台なので、時間は絶えずループしている感じにしました。ループの中にずっと存在しているのは、『カサブランカ』先生だけなので。

―― 最後にこの作品の見所をお一人ずつお聞かせください!

あらののはて,舞木ひと美,眞嶋優,ましまゆう,画像,長谷川朋史監督

長谷川監督
舞木さんが普段から注目している若手の俳優さんをキャスティングしていることです。

皆さんきちんと役を掴んで現場に入ってくださったので、“こういう風に演じてください”っていう演出は多分一言も言っていない。カットも割らずにワンシーンワンテイクで長回しで演じてもらったので、それを体現出来る力がある俳優さんとご一緒出来たのは、自分にとっても凄く幸せでした。是非、このキャスト陣を皆さんに観てもらいたいと思います。

眞嶋さん
今日は初めて監督と取材が一緒だったんですけど、監督と舞木さんから色んな解釈を聞くと、そういう考え方もあるんだとか発見もあったので、何度観ても深く味わえる作品だなと思いました。引きの映像で固定のカメラでワンカットで撮影しているので、観客の方もそこの空間で体感しているようなそういう気分を味わえる作品です。是非劇場で観ていただきたいです。

舞木さん
(監督に)言おうとしていたことを言われちゃいました(笑)

ゆったりとした時間の流れ方をしているので、この作品を観たことで観た方が、青春時代もそうですけど、今自分が大切にしたい人とどう向き合いたいのかなっていうことなどご自身のプライベートのことも考えさせられるような、心の余裕を持って観られる作品だと思うので、そこも見所の一つかなと思います。

―― まさにずっと観ていたい、そんな作品でした!ありがとうございました!!

映画『あらののはて』特報映像


あらすじ

25 歳フリーターの野々宮風子(舞木ひと美)は、高校2年の冬にクラスメートで美術部の大谷荒野(髙橋雄祐)に頼まれ、絵画モデルをした時に感じた理由のわからない絶頂感が今も忘れられない。絶頂の末に失神した風子を見つけた担任教師(藤田健彦)の誤解により荒野は退学となり、以来、風子は荒野と会っていない。
8年の月日が流れた。あの日以来感じたことがない風子は、友人の珠美(しゅはまはるみ)にそそのかされ、マリア(眞嶋優)と同棲している荒野を訪ね、もう一度自分をモデルに絵を描けと迫るが…

キャスト

舞木ひと美 髙橋雄祐
眞嶋優 成瀬美希
藤田健彦 しゅはまはるみ
政岡泰志 小林けんいち 山田伊久磨
兼尾洋泰 行永浩信 小谷愛美 才藤えみ 佐藤千青 藤井杏朱夏

監督・脚本

長谷川朋史

配給:Cinemago
配給協力:ギグリーボックス/シネマエンジェル
©ルネシネマ
公式サイト:https://runecinema.com/aranonohate/
Twitter: https://twitter.com/aranonohate
Facebook: https://www.facebook.com/rune.aranonohate

8月21日(土)〜9月10日(金)
池袋シネマ・ロサほか全国順次公開