段取りを排除し、今を映す

ドキュメンタリー映画『人と仕事が本日10月8日(金)から全国3週間限定で劇場上映中です。

今回は、本作の監督を務めた森ガキ侑大監督と、スターサンズの河村光庸エグゼクティブプロデューサーにお話を伺いました。お二人がコロナ禍で感じていたこと、この作品を通じて感じたこと、そして、俳優としてだけではなく一人の人間として様々な職業の方と向き合っていった有村架純さん、志尊淳さんとの1年にも及んだ撮影を振り返っていただきました。

―― 前回の『さんかく窓の外側は夜』とは全く違ったテイストや深さに驚いたと同時に、色々な方々にインタビューされていましたが、それらが繋がっていくような感覚がしました。有村さんと志尊さんのフィルターを通して伝わってくるところもまた興味深かったです。
もともと同じ出演者、スタッフで制作予定だった劇映画の『保育士T』という企画が新型コロナ感染拡大の影響で頓挫して本作のドキュメンタリーに変更されたとのことですが、どういう着想からドキュメンタリーを作ろう、着地点は見えなかったにせよ“どういう作品が出来たらいいな”という思いがあったのでしょうか。

ドキュメンタリー映画『人と仕事』,森ガキ侑大監督,河村光庸エグゼクティブプロデューサーインタビュー,画像

『人と仕事』森ガキ侑大監督

森ガキ侑大監督(以下、森ガキ監督)

僕は河村さんとお仕事がしたかったんです。やろうとしていた矢先、脚本を詰めて、あと2ヶ月ぐらいでインする時にロックダウンになってしまった。この状況で出来るのかなと思っていたら、河村さんが「やるぞ」と言っていたので、“河村さんはやる気だ。イン出来るんだ”と思っていたんですけど、本当にロックダウンして止まった。

その時に河村さんから、「一回この企画はナシにしておこう」と。“河村さんとは(仕事が)出来ないかな”と思っていたら、1週間後ぐらいに電話がかかってきて「ドキュメンタリーどう?」って言われたんです(笑)ビックリ。でも、心の中でその発想、企画が面白いなって。河村さんから企画の概要を聞いて、ドンドンやりたい欲が湧いてきて。大学の時にドキュメンタリーをやって苦しかったので、“ドキュメンタリーかぁ…”という葛藤はあったんですけど、河村さんに「やりたいです」とストレートに想いを伝えて始まりました。

映画『さんかく窓の外側は夜』森ガキ侑大監督がポイントにした“対比”とは
2021.01.18
映画『さんかく窓の外側は夜』森ガキ侑大監督がポイントにした“対比”とは
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―― 1週間後にドキュメンタリーという発想はどのように行き着かれたのでしょうか。

ドキュメンタリー映画『人と仕事』,森ガキ侑大監督,河村光庸エグゼクティブプロデューサーインタビュー,画像

『人と仕事』河村光庸エグゼクティブプロデューサー

河村光庸エグゼクティブプロデューサー(以下、河村プロデューサー)

モノを作っていくのが好きでしょ。せっかく有村さん、志尊君、森ガキ君とやる。その繋がりというか出会い、これをコロナで失くしてしまうのは何とも…。つまり、コロナについてはどういうことなのかは、根底的にコロナが流行し始めた時に私の思いがあったんです。その思いがあったので。コロナ禍で撮影がほとんど止まってしまう。だけど、ドキュメンタリーだったら合間、合間で、忙しい二人の俳優さんと彼(森ガキ監督)と撮っていける。実はその時、コロナの中で何が出来るのかなと思って、ドキュメンタリーをもう1本創ったんです。(既に公開中の『パンケーキを毒見する』)

あの作品はこれを企画する後だから(2020年の)8月の末ぐらい。これはもっと前の6月にクランクインする前の5月ぐらい。モノを作るにはドキュメンタリー以外ないのかなと。ドキュメンタリーも大変ですけど、とは言え、(劇映画の制作に比べて人が)集まらないじゃないですか。

私は新型コロナウイルスに何を感じていたかというと、人間の社会の構造を根底的に変えていくと思ったんです。一つは世界が、今問題になっていますけど環境問題。温暖化や気候変動。この20年間、30年間、40年間で社会の仕組みが変わっていたところに突然現れた。「待った!」と。

社会の構造は人が移動する、そして集まる、そして対話したり接触する。これが人間の社会構造の基本ですよね。それに対して、「集まるな、接するな」ということですよね。そういう構造が世界的に起きる。そうすると、経済的に人・モノ・金が急速に移動しているけど、それも止まる。お金だけは今も動いていますけど。

ドキュメンタリー映画『人と仕事』,森ガキ侑大監督,河村光庸エグゼクティブプロデューサーインタビュー,画像

その中で大きな問題としては、人間社会の構造を変えていくけれども、仕事の構造が変わっていく。肉体労働はいわゆるロボットや機械である程度補足出来るじゃないですか。もう一つは頭脳、要するに頭脳労働。大きく分けると、肉体労働と頭脳労働があり、ロボットでも機械でも出来ますよね。しかし、出来ない仕事がありますよね。人にしか出来ない。これがストップされるということですよね。その中で、俳優さんの仕事とか映画作りがここでストップしてしまうということを痛切に感じたわけです。これは人しか出来ないこと。人間の人間たるところですよね。

そういったものがストップする、出来ない。それが凄く今の社会を露骨に写し出していて、その中でロボットでも出来る仕事の産業だけが動くけど、人間にしか出来ない仕事は動かない。そうすると、そこで格差が出てきますよね。それから、今度は格差だけじゃなくて分断が生まれます。それが急速に起きていく。なので、やはり「人」と「仕事」の関係ですよね。これは大きく変わってきてる。

それから、我々は映画作り、有村さん、志尊君も人間しか出来ない仕事をやっている。特に文化と芸術活動は(ドイツの)メルケル首相が「今や不要不急の単なる娯楽ではない」と言っていましたよね。人と文化・芸術、人間の創造性、それから多様性。これを表現するというか育んでいくことは社会の大きなインフラであり、必要不可欠なものなんだ、と。それもグサッ!と。あの当時5月ぐらいだったかな。我々の文化・芸術活動は実は人間にしか出来ないということですよね。だから、「人と仕事」というタイトルはかなり早い段階から決めていました。

森ガキ監督

河村さんから、「タイトル決めたよ」って。

―― そうだったのですか!途中で有村さんから「人と仕事」という言葉が出ていました。

河村プロデューサー

あれは(河村プロデューサーも森ガキ監督も有村さんに対して)何も言っていない。

森ガキ監督

だから凄くリンクしていましたよね。

『人と仕事』予告編映像


―― 河村さんの“せっかくの出会いを大切にしていきたい”という愛情。そして、今コロナ禍で直面している問題に当事者だからこそドキュメンタリーという形で収めたいんだという気持ちがすごく伝わってきます。
最初はコロナ禍で苦しんでいる人たちを取材しているのだと思ったのですが、有村さん、志尊さんお二人の対談のシーンからストーリーの展開が変わっていきます。例えば、児童養護施設はコロナというより、立場というか境遇にスポットが当たるのですが、コロナが天災で不可抗力の影響だとすれば、小さい世界だけれども家庭という狭い世界の中で不可抗力を受けてきた。(きっかけが)虐待だけではないとは思うのですが、その中で自分たちがいかに逞しく生きようとしていくところに移っていく。これは最初からストーリーを考えられていたのでしょうか?

ドキュメンタリー映画『人と仕事』,森ガキ侑大監督,河村光庸エグゼクティブプロデューサーインタビュー,画像

森ガキ監督

正直、段取りのプロが集まっているわけです。有村架純、志尊淳、僕も。段取って、脚本があって、ゴールを決めて、いかにそこにアプローチしていくか。でも、河村さんから電話がかかってくるんです。「段取るなよ」と。

「分かってます」とは言うんですけど、最初は体が段取っちゃうんです。段取る仕事をやっているから。段取るなと言われるけど、段取ってしまう。この矛盾に最初筋肉がついていかなかった。でも、段々と人を取材していったことによって、河村さんが言う「段取るな」の意味を体が分かってきた。有村さんや志尊君から「ゴールが分からないんですけど、どうすればいいですか?」という話を僕は受けていたんですけど、僕もそこは感づいていたので、「いやいや、分からなくていいんです。あなた達がインタビューした中で、感情の何が変化していくか。変化しなかったら変化しなかったで、それはそれで一つの事例なので、それもドキュメンタリーなのでいいと思います」と。

そこから凄く楽になりました。ドンドン枝葉のように、“こういう路線もあるな。ああいう路線もあるね”って拓いていくので、河村さんが言っていた「段取るな」の意味が、脳では分かっているけど体が理解しなかったのが、体も大分ドキュメンタリーの方向に持っていった感じはあります。

―― 以前、『新聞記者』で河村さんとご一緒されていた藤井道人監督にお話を伺った時には、河村さんと侃々諤々議論を重ねていると伺いました。「段取るな」が今回のキーワードだったと思うのですが、それによって河村さんに「ちょっとマズくないですか?」とか、そういう葛藤を言葉にしてお二人で議論になってしまったことはありませんでしたか?

森ガキ監督

藤井監督ほど議論になってないのかもしれないですけど、河村さんの「段取るな」は分かっていたので良いことだと思っていたんです。ただ、ゴールがないとやっぱり不安なところは僕自身もあるし、彼らもあるので、それをどう説明していくかが一番の苦しいところでした。彼らもプロだから計算して、考えて、ゴールをめがけていく。それを彼らに説明する時に、河村さんと僕が話した時の熱量を彼ら二人にどうアプローチするかが一番の苦しいところでした。

でも、後半はもう彼らも段々それに慣れてきて分かってきたので、任せてくれるようになった。河村さんが言っていることは凄く理解出来たから同じ方向を向いていたと思うので、言い合いになる感じはなかったです(笑)

ドキュメンタリー映画『人と仕事』,森ガキ侑大監督,河村光庸エグゼクティブプロデューサーインタビュー,画像

河村プロデューサー

ドキュメンタリーというのはドラマと違うわけですよね。自然のものが出ないといけない。要するに、そこに演技がなく、生の人間が出るのが一番大事だと思うんです。特にこの映画にとっては非常に大切だと思います。実はですね(笑)、(普段は)私は直前まで脚本に「やっぱこうした方がいいんじゃないか」とか言う。ただ、(制作がスタートしたら)現場に1回行くぐらいでほとんど行かない。今まで何本かやっていますけど、1回か2回で。

森ガキ監督

そこがスゴイ!企画を作って方向性だけ決めたら、あとは口を出さない。凄くやりやすいですよね。

河村プロデューサー

ただ、編集は(笑)

―― 中盤から後半にかけての順番の編集はされたのですか?物凄くしっくりきました。前半のコロナ禍的なところから段々と「人」と「仕事」にクローズアップしています。

森ガキ監督

そうですね。役者の生き方に向いていくのは僕も考えていて、「そういう方向に行きたいです」と提案して、河村さんも「それでいいじゃん」と。でも、その方向にいこうと思ったのは、メルケルさんの言葉だったんです。

彼ら自身もエッセンシャルワーカーというカテゴリに入ってもいいんじゃないか。もしかしたら、2024年には俳優たちがエッセンシャルワーカーのカテゴリに入っているんじゃないか。その着地点から、編集の話をしたら河村さんも「それでいいよ、いこうよ」って。

―― 一つずつ観ていくと有村さんに作品が寄っているのか、有村さんが寄せているのか気になってきます。有村さんの「違う職業であっても私にとっては遠く感じないんです」という言葉。色んな職業を撮っていく中で、前向きな発言を引き出している。皆が同じ意思を持っているという意味で、やることは違うけど気持ちは一緒だよねっていうところが有村さんの伝えたいところだったのかな、と。有村さんに作品が寄っているような気もするのですが、これは自然に?

人と仕事,画像

森ガキ監督

計算はしていないですね。編集でそういうところに持っていっているかもしれないですけど、インタビューに関して計算は…「段取るな」って。だから、ドキュメンタリーは面白い。有村さんは全然計算してないし、寄せるとかも全くないです。

人と仕事,画像

河村プロデューサー

途中で二人が「何だろうこの映画」と言う。あれはうちの事務所の会議室だったんですけど、周りを(スタッフで)固めようとするから「やめろ」と。「そのままでイイ、ありのままでイイんだ」と。現場で二人だけに向き合わせて、私は、部屋からさっさと逃げたぐらい。有村さんが「河村さんどうしたんだろう?」って(笑)

要するに、そこで誰もいない時に二人が本音を話すことはやるべきだと思った。そうしたら「何この映画?どうしたらいいか分からない」みたいなこと言って、それを後から見て、「よし、これはいける!」と。

―― 自分たちが理解出来ないような色んな事が作品の中に込められているということですね。

河村プロデューサー

そうです。

―― やはり二人がやっているからこそ、有村さんと志尊さんの違いもあるわけですよね。そこで、森ガキ監督と河村さんから見た有村さんと志尊さんについて、今回新たに発見したことを教えてください。

ドキュメンタリー映画『人と仕事』,森ガキ侑大監督,河村光庸エグゼクティブプロデューサーインタビュー,画像

森ガキ監督

今回のドキュメンタリーで色んな人と触れ合って、色んな人の悩みだったり、価値観みたいなものを消化して、役者はそれを演じるわけで、100%そこに近付けるのが彼らの仕事ですよね。でも、インタビューをして聞いても、結局分かり合えないんですよね。そうすると今、自分たちがやっている仕事は本当にどういう意味があるの?みたいな。どういうところに真髄はあるのか悩んでいると思うんです。

だから、(志尊さんは)保育士を本当にやろうとしていたけど、結局話を聞いても理解は100%出来ない。じゃあ、彼らの仕事って何だろうというところから、多分振り出しに戻るような考えになったと思うんです。だから、多分変化はあったと思います。自分たちが芝居をしているけど100%じゃない、これにどういう意味があるのかなって、考えるところはかなりあると思う。

―― 有村さんは(企画説明をされた際に)涙を流されたというお話も伺いましたが、河村さんはいかがですか?

河村プロデューサー

有村架純さんはやっぱり素直というか、優しさというか、ビックリしましたね。何か滲み出てくる、演じているんじゃなくて、普通に喋っている普段のそのものをズバリ出してくれて、素晴らしい女優さんだと思いました。志尊君については、さらに伸びしろがある、非常にアグレッシブ!

まだまだ伸びるし、この間も凄く苦しんだと思うんですよね。それが映画に何となく出ている。彼の苦悩というんですか。一方から見ると彼の青春物語みたい。

―― がむしゃらに有名になりたいみたいなことは捨てて、役に集中する。それを楽しむ自分がいるみたいなことを語りながらも、エンディングでは、まさに有村さんと同じ。出発点か着地点か分からないですけど、奇妙な縁というか一致点。また、「仕事」に対する皆の意識。それこそ児童養護施設の子どもとの認識すら一緒になっているような気がするので、とても見応えがありました。最後にメッセージをお願いします。

森ガキ監督

ホストクラブ経営者の手塚さんが言っていた言葉で、コロナの前と後で結局そこまで変わってないこともある。でも、コロナによって浮き彫りになったことが凄く大事なことで、皆がもう一回原点を考えようよ、生きるとは何なの?仕事とは何なの?というところをもう一回考えようっていうきっかけになる映画だと思っているので、老若男女たくさんの人に、もう一度立ち止まって生きることや仕事の意味を考える映画になればと思います。

河村プロデューサー

全世界の人たちがここでパッと立ち止まったわけです。立ち止まって今後どうするかということが、この映画で表現されているかなと思うんですけど、あくまでも提案している映画です。皆さん、特に若い人が仕事とは何か?ということと、今までの生活の中でふと、外からガーンと物凄い勢いで静止された社会の変化というかストップですね。これを考えて、そして仕事とは何かを考えて欲しい。だから是非とも若い人に観てほしいです。

―― ありがとうございました!!

※本作の公開劇場については、公式HPをご確認ください。

キャスト

有村架純 志尊 淳

監督

森ガキ侑大

企画・製作・エグゼクティブプロデューサー

河村光庸

撮影時期:2020年4月〜2021年4月

配給:スターサンズ/KADOKAWA

©︎2021『人と仕事』製作委員会

10月8日(金)より全国3週間限定劇場上映中