日本人初となるベネチア・ビエンナーレ、ベネチア国際映画祭の出資で製作された、長谷井宏紀監督の長編デビュー作「ブランカとギター弾き」が7月29日公開する。フィリピンをも舞台に、孤児の少女と盲目のギター弾きの旅を描いたハートウォーミングなロードムービーだ。主人公のブランカを演じたサイデル・ガブテロが来日し、長谷井監督と共に撮影を振り返った。

 マニラのスラムに暮らす孤児のブランカは、母親を金で買うことを思いつき、盲目のギター弾きピーターと旅に出る。ピーターから得意な歌でお金を稼ぐことを教わったブランカは、レストランで歌う仕事を得て収入を得ることに成功したが、思いもよらぬ危険が迫る。

 世界中を旅しながら、写真家として活躍していた長谷井監督。短編作品がエミール・クストリッツァに見出され、タガログ語のイタリア製作映画として本作を手がけたという異色の経歴の持ち主だ。

 「昔フィリピンのゴミの山を訪れたときに、子供たちにいつか映画を撮ろうと約束したんです。たくさんの国を旅したけど、僕はフィリピンの人たちがとても好きで、この人たちと映画を作れたら、とても楽しめるのではないかと思ったんです」

 世界の表舞台に立つ作品で、日本ではなく外国の生活をテーマにした。「これからもこういう作品は増えていくんじゃないかな。やっぱり映画は、ボーダーがない言語。音楽もそう。ボーダーがあること自体が僕にはよくわからない。いまだに戦争があるのは、ボーダーがあるからでは。でも映画はボーダーを越えて人の暮らしを映すもの。それが映画を作る楽しみでもあるんです。僕はタガログ語もしゃべれないし、通訳もいなかったんですけど(笑)。あとは、僕のパッションを受け入れてくれた、クルー、キャストのおかげで完成しました」

 サイデルは撮影当時は11歳。Youtubeの歌姫として、フィリピン国内外でその名を知られていた。女優として初めて他人を演じるという経験をこう振り返る。「すごくうれしくて、ワクワクしてました。でも同時に、これから何が起こるかわからなかったので、怖かったです」「演技と歌うことは違うと思いました。内面化しなくてはいけないから、泣いている時は泣いているようなマスクをするような感じです。泣くときは悲しいことを想像します。始めて泣くシーンでは、亡くなった祖母のことを考えました。そしたら、本当に泣けてきて、撮影が終わったらスタッフの人がジョークを言って笑わせてくれました」

 貧困、麻薬、過激な大統領の発言など、ニュースで入ってくる情報だけを見ていると、フィリピンという国に対して一面的なイメージしか持たない日本人も多いことだろう。しかし、その見方を180度変える作品だ。

 「フィリピンは日本人が感じるような怖さはあるかもしれないけれど、フィリピンの人も日本に対して逆に怖さを抱くことだってあるかもしれない。そういうことではなく、もっとポジティブな表現をしたかった」「現場はみんながオープンな心を持っていた。大変だったことも、最終的には楽しい方向に行くんです。最終日に、みんなこの企画があったから一緒にいられるねということを言うと、歌い始めて集まってくるんです。そのとき録音さんは録音をやめて。みんなで参加する。そういう雰囲気が幸せでした」(長谷井監督)

 第72回ベネチア映画祭でソッリーゾ・ディベルソ賞、マジックランタン賞を受賞した。デビュー作が国際的に注目されたが次回作へのプレッシャーはないのだろうか?

 「それはないですね。それよりも、こういうコンセプト、アプローチの作品を応援してくれる人たちに出会うことが難しい。こういう映画を続けている、世界的に偉大な先輩たちもいらっしゃいますし、その人たちが傷だらけになりながら続けてきたことがあるから、僕も続けていきたい。とても難しい挑戦になると思うけど、ベネチアで賞をいただいたので、そのクオリティはキープしなきゃいけないと思います。今、ルーマニアのプロデューサーとやりとりしている企画や、フィリピンでもまた映画を撮りたいと思っています。もちろん日本でも。脚本はどの国でやるとかあまり限定しないで書いているので、こういう時代に、様々な国の人とかかわるチャンスがあるのがうれしいです」(長谷井監督)

 たくましく生きる子供たちの笑顔、音楽と鮮やかな色彩に溢れる街。我々日本人が知らない躍動感に満ちたフィリピンの美しさを是非スクリーンで味わってほしい。

 「ブランカとギター弾き」は、7月29日から東京・シネスイッチ銀座ほか全国順次公開。