シュルレアリスム、不条理作品で知られる鬼才、ルイス・ブニュエルのメキシコ時代の傑作「皆殺しの天使」が、36年ぶりに東京・シアター・イメージフォーラムでリバイバル公開され12月23日、フランス文学者で作家の巖谷國士氏と映画史家・比較文学者の四方田犬彦氏が上映後のトークを行った。

 1962年カンヌ映画祭で国際批評家連盟賞を受賞した本作は、晩餐会が催されたブルジョワ邸宅が舞台。男女20人が晩餐を終え、客間でくつろいでいたが、なぜか夜が明けても誰も帰ろうとしない。全員が帰る方法を忘れたかのように客間を出ることができなくなり、そのまま数日が経過。水や食料も底を突き、ブルジョワジー達の道徳や倫理が崩壊していくなか、事態は予想もつかない展開へと転がり始める様を描く。

 36年ぶりにスクリーンで鑑賞したという巖谷氏は、本作を「見るたびに違う」印象だといい、「すべてを見尽くすのが難しい映画。一種の寓話としての捉え方もできそうだが、イソップやラ・フォンテーヌのように寓話につきものの教訓はなく、現実として映画が展開していくのが、ブニュエル一流のシュルレアリスムだと思う」と評する。

 ブニュエルの作品や半生をまとめた書籍「ルイス・ブニュエル」著者でもある四方田氏は、劇中に登場する人物や小道具の数、カバラや秘密結社などを研究した際を振り返り、「謎が解けると思っても解けずに、見るものが閉じ込められてしまう不思議な映画」と述懐。「神様のおかげで無神論者でいられる」との言葉を残し、晩年は若い神学者との会話を楽しんでいたというブニュエルの、作品そのもののような矛盾をはらんだ人となりについても紹介した。

 文学、芸術を専門とする両者の話題は、ブニュエル作品から見るカトリシズム、古典絵画、神学論、マルキ・ド・サドドストエフスキーなど様々な分野に及び、制限時間を超える盛り上がりを見せたが、巖谷氏の「もっとお話したいが、私たちがここから出られなくなってしまう」と軽妙な閉めの言葉で幕を閉じた。

 「皆殺しの天使」は、シアター・イメージフォーラムで3週間限定公開。公開期間中は、「ビリディアナ」「砂漠のシモン」「アンダルシアの犬」を同時上映する。