国際試乗会はスペインのセビリアで行われた
初代ガヤルド・スーパー・レッジェーラの登場から3年、あの究極のドライビング・マシンがさらに進化を遂げて帰って来た。その走りをスペインで開かれた国際試乗会からリポートする。

闘牛の本拠地であるスペイン、セビリア郊外にあるモンテブランコ・サーキットを舞台に開かれたガヤルドLP570‐4スーパーレッジェーラの国際試乗会には、“ザ・ペースメーカー”というキャッチフレーズが付けられていた。「トレンドをつくり出していくランボルギーニのDNAを表している」と広報担当者は解説したが、要は自分たちは時代の最先端を走っている、という自信の表れであるに違いない。そして、スーパー・スポーツカーにとっての時代のトレンドは“軽量化”にある、というのが、2007年デビューの先代に続いて、今回再び「スーパーライト」を意味するモデルを登場させた彼らの考えだ。
コンファレンスの冒頭、ヴィンケルマン社長は、「2007年からランボルギーニのDNAを表す優先順位は変わった」と、こんな話を披露した。すなわち、07年までは、1にデザイン、2に最高速、3に加速性能、4にハンドリングだった。それが07年以降は、1にデザイン、2にハンドリング、3に加速、4に最高速となって、最高速の優先順位が下がり、ハンドリングの重要性が上昇した、というのである。となれば、単なるパワーより、パワー・ウエイト・レシオの向上が重要な課題となる。そして、そのためには軽量化がカギを握っている、とたたみかけた。スーパー・スポーツカーが妍を競い合った60年代、クルマはどれも軽かった。たとえば、66年のミウラP400は980kgしかなかった。しかし、80年代になって安全基準が強まるとともに、クルマは大きく重くなっていった。そして今、時代は転換期にある。ハンドリングのみならず環境問題を考えても、軽量化は燃費の向上とCO2の低減に寄与する。
安全基準を満たしつつ軽量化するためには素材を変えるのが有効で、中でも超軽量性と高剛性をあわせもつカーボン・ファイバーはスーパー・スポーツカーにとって理想的な素材だ。だからこそ、ワシントン大学やボーイング社と組んで、「アウトモビリ・ランボルギーニ先進複合素材構造研究所」を設立し、今回のスーパーレッジェーラにはその研究成果が盛り込まれている、というのだ。

ベース・モデルから70kg減量
そもそもがアルミ・スペースフレームにアルミ・パネルを貼った軽量ボディを持つガヤルドを、さらに減量しようというのだから至難の技だ。しかもベース・モデルのLP560‐4自体が、先代スーパーレッジェーラの後に出て、初期型ガヤルドよりずっと軽量化されているのだ。
それでもなお、70kgの減量を成し遂げた要因は、確かにカーボン・ファイバーの多用にある。まずエクステリアでは、エンジン・フードがカーボン・ファイバーに透明のポリカーボネイトを組み合わせたもの(その接合には世界初のフルカーボン民生機となるボーイング787と同じ技術が使われているとか)になっているほか、リア・スポイラー、サイド・シル、ディフューザー、アンダー・ボディ・パネルの一部、ドア・ミラー・ハウジングにもカーボン・ファイバーが使われている。
さらにインテリアに至っては、センター・トンネル・カバーやドア・パネル、バケット・シートのシェル、シフト・パドルなどに、これでもかというほど使われている。

もうひとつインテリアで特徴的なのはアルカンタラの多用で、これもレザーよりずっと軽量なのだという。また、リアとリア・クォーターのウィンドウはポリカーボネイト製だ。
カーボン・ファイバーによる軽量化が全体の半分強にあたる40kg分。あとは軽量鍛造アルミホイールへの換装で13kg減らしているほか、先のアルカンタラやポリカーボネイトを使った細かい減量を積み重ねて計70kgを削ぎ落としているわけだ。
一方、エンジンはベース・モデルと同じ5.2リッター直噴V10だが、電子制御システムの最適化によって、プラス10psの570psを絞り出している。その結果、パワー・ウエイト・レシオは2.35kg/psで、先代やLP560‐4の2.5kg/psを一段上回る。0‐100km/h加速は3.4秒(先4は3.8秒、LP560は3.7秒)。最高速は325km/hで、先代よりは10km/h速いもののLP560と同じなのは、優先順位が下がったことによるものか。

格段に洗練された乗り味
試乗はサーキットのみで行なわれた。1周4km強のコースを、インストラクターの運転する先導車について数台のテスト・カーが1周ごとに順番を入れ換えながら走る方式だ。 思い切り低い位置にあるバケット・シートに深く座り、4点式シート・ベルト(日本仕様は3点式のみ)で身体を締め上げると、まるでレーシング・カーに乗っているような気分になる。ただし、すこぶる高級仕様の、だ。なにしろ、エアコンもパワー・ウィンドウも外されていないのだ。ランボルギーニは、何かの犠牲を強いる軽量化は軽量化ではないと考えているのだという。
走り出して気づいたのは、見た目通り中身も超スパルタンでガチガチに固められた足を持っていた先代とは比較にならないくらい洗練されたスポーツカーに生まれ変わっていることだった。ワンメイク・レーシング・カーのトロフェオで得た技術を移植したという足は、かなり固められているものの、決して乗り心地を犠牲にしていないし、何より室内に進入してくる騒音や振動が格段に減った。ステアリングやペダル類なども先代より軽く扱い易くなっている。

そもそも、LP560‐4になった時点でハンドリング性能は大幅に向上していたが、軽量化のおかげでそれがさらに鮮明になった印象だ。ステアリングはセンター付近の遊びが少なく、切り始めがシャープなうえ、ボディの動きもすこぶる速い。といって、決して神経質なわけではなく、軽快感と安定感が実にいい感じでバランスしている。スポーツやコルサ・モードを選べば、自動姿勢安定装置の介入が遅くなるから、リアを少し流し気味にして向きを変えることも可能だ。さらに腕があれば、4WDであっても、かなり深いドリフト・アングルをつけることができるのは、上の写真を見ての通りだ。
一方、直線では、飛ばせば飛ばすほど、路面に吸い付けられていく感覚がある。バンパーの形状変更などにより、ダウンフォースはLP560比50%も向上しているという。
運の悪いことに、この日は昼から雨になったが、フルウェットでもグリップを失わない専用開発のピレリPゼロ・コルサとフルタイム4WDの組み合わせの威力に舌を巻いた。
できることなら一般道でも、格段に洗練された新型スーパーレッジェーラの乗り味を試したかったが、それは夏前の日本上陸までお預けである。
文=村上 政(ENGINE編集部) 写真=アウトモビリ・ランボルギーニ
(ENGINE2010年6月号)