「江口警部を殺害したことをお認めになられますか!?」
「(食い気味に)認めない! 絶対に認めないいいー! お前は何にもわかってない! (異様な早口で)たしかにペンのキャップを取りに行ったことだけは認めてやる。だがそれは私が犯人だからではない。一警察官だからだ! (おもむろに立ち上がり)500%の! 500%の確信で言ってやる! (目を剥き)私は犯人ではない! 証拠はこれだ! どけっ!(デスクに歩いていき、ボールペンを放り投げて引き出しを指差し)キャップは、この中に、ありました!」

このシーン最高。キャップはありました、って小学校の学級会か。長谷川博己と香川照之のこのやり取りでつい吹き出した人も多い気がするハイテンションドラマ『小さな巨人』最終回。視聴率は過去最高の16.5%! 視聴者も演者たちのハイテンションな熱演につられてしまったようだ。


最終回はこんなお話


和田アキ子は怪力で殺人を犯していた! そして、鉄骨を落としてユースケ・サンタマリアを殺したのも和田アキ子だった!(鉄骨をぶん投げたのかと思ったが、そうではなかった) 事件の鍵を握っていたのはボールペンのキャップ! そして、決まった長谷川博己の美しい土下座! 涙を流す香川照之! 最終回も『小さな巨人』はハイテンションだった。

事件を追っていた香坂真一郎(長谷川博己)、山田春彦(岡田将生)らは、ついに真相にたどりつく。驚くべきことに、捜査一課長・小野田義信(香川照之)はこれまで罪を犯していないどころか、嘘さえついていなかった! ただ、富永(梅沢富美男)の指示を守り、忸怩たる思いを抱えながら捜査一課長として警察という組織を守っていたのだ。己の正義を香坂に問われ、涙ながらにこれまで守ってきた17年前の証拠の品を提出する小野田。これで殺人を犯していた「早明学園」の金崎理事長(和田アキ子)と富永は逮捕された。

しかし、富永は無罪放免、学園と癒着していた内閣官房副長官の山田勲(高橋英樹)も罪に問われることはなく、捜査一課長を辞した小野田は豊洲署の署長に就任、渡部(安田顕)は芝署に復帰、そして香坂と山田は捜査一課に戻ることになった。終わり。

相変わらず「何で?」と思う箇所がちょくちょく出てくる脚本だったが、最後はキャストのハイテンション演技の力技でねじふせる形となった。これまでの香坂と小野田の確執がこってりしていた分、ラストのあっさりした感じが食い足りない。また、今回も香坂の想像が映像でそのまま描かれるシーン(小野田が鉄骨を落として江口を殺害する場面)が出てきたが、あまり褒められた手法ではないと思う。

『小さな巨人』における「絆」と「覚悟」とは?


『半沢直樹』では悪の代表として香川照之扮する大和田常務が徹底的にやりこめられたが、『小さな巨人』ではそのようなシーンは描かれなかった。『小さな巨人』での本当の悪役は、殺人事件の犯人ではなく、それを隠そうとする得体の知れないものーー警察という組織そのものだった。主人公の香坂真一郎(長谷川博己)が同僚の藤倉(駿河太郎)に言われた「香坂、上に立て。当たり前のことが当たり前にできる組織に変えてくれ」という言葉が、そのことを端的に示している。

腐った大きな組織に対して、個人はどのように向き合えばいいのか。それが『小さな巨人』の大きなテーマだった。ただし、ビジネスシーンなどに応用しようとするのは間違いだ。なぜなら、このドラマの主人公・香坂は「怪物」なのだから。常人が怪物の真似をしてはいけない。

山田春彦(岡田将生)が言った「あなたは組織という巨大な怪物に立ち向かえる小さな巨人なんだ」という言葉は、香坂が常人ではない怪物であることを示している。香坂たちの後ろ盾になった「警察の警察」柳沢監察官(手塚とおる)も、最後に「もしかしたら本当の怪物は、あの男のほうだったのかもしれない」と香坂の怪物性を指摘していた。では、どのようにして香坂は怪物になったのだろうか?

『小さな巨人』で頻出したキーワードが「覚悟」と「絆」である。後半になるにつれ、この2つの言葉が登場する頻度は上がっていった。

『小さな巨人』には縦の「絆」がいくつも出てきたが、そのほとんどが腐っていた。腐った悪しき縦の「絆」が腐った組織を作り上げていく。ルールや組織図のように目に見えるものを目に見えない悪しき「絆」がコーティングして、日本的な腐った組織が完成する。このような組織の前に個人の正義は無力だ。現実を騒がしているあの疑惑もこの疑惑も、このような「絆」が底に透けて見える。目に見えないので事件としては立証しにくい。

ただし「絆」は悪いものばかりではない。横の「絆」は組織と抗するときの武器になる。『小さな巨人』で言えば、香坂と山田、香坂と渡部、香坂と藤倉の間には間違いなく絆があった。『小さな巨人』が当初から醸し出していた登場人物たちのバディ感は、この横の「絆」に相当する。

一方の「覚悟」は個人が大きな組織に対して異を唱えるときに必要なものだ。何度も「覚悟はある」と口にしていた香坂は、最後に山田も渡部も同行させず、一人で小野田に挑んだ。「絆」の力ではなく「覚悟」の力で小野田に対抗したと言っていい。いろいろなものを背負い、覚悟を積み重ねていった結果、香坂は怪物になってしまったのだろう。「覚悟」のインフレは怪物を生み出すのだ。

組織という巨大な怪物の守り人であろうとした小野田も怪物であり、何度も何度も小野田に挑み続けた香坂もまた怪物だった。それにしても、香坂はよくあんなイヤなパワハラ上司の部屋を何度も何度も訪問することができるもんだ。そのメンタルタフネスぶりには素直に感心する。また、何度も自分を犯人扱いする部下を部屋に迎え入れる小野田もすごい。シリーズを通して香坂と小野田の内面がほとんど描かれていなかったことも両者の怪物性を際立たせていた。

悪しき「絆」で固められた得体の知れない組織をめぐってハイテンションな怪物と怪物が対決し、両者はわかりあって事件は究明されたが警察組織はびくともしなかった。内閣官房副長官を辞めた山田勲だって、ほとぼりが冷めた頃に復帰するはずだ。それを現実世界では「禊(みそぎ)」と言う。

ラストシーンで捜査一課を闊歩する香坂は、カメラに向かってニヤリを笑ってみせた。香坂はこの後、捜査一課長への道を歩むのだろう。そのとき、警察という巨大組織を変えてみせるのか、それともかつて小野田が歩んだ道と同じ道を歩んでしまうのかは、まだわからない。

同番組のプロデューサーが雑誌のインタビューで「『小さな巨人』は水戸黄門のように毎回正義が悪に勝つ話ではない」と語っていた通り、スッキリとした結末ではなかったが、偉い人たちが言う「絆」が腐敗を生むロクでもないものだということを執拗に描いていたのは良かったと思う。『小さな巨人』を最後まで見続けた人は、現実の見方もちょっと変わったんじゃないだろうか。それはドラマの力だと思う。
(大山くまお イラスト/Morimori no moRi)