映画『ライフ』には古典的なSFホラーのシチュエーション、そしてフレッシュな意地の悪さが詰まっている。


ソリッドな状況設定が冴える密室SFホラー


舞台は地球の軌道上に浮かぶ国際宇宙ステーション(ISS)。火星地表のサンプルを回収した探査船がトラブルに遭い、コントロールを喪失。ISSでは探査船をアームで回収するミッションが展開されていた。6人のクルーたちは 無事に探査船を回収。ISS内の実験室で持ち帰ったサンプルを解析したところ、火星の地表から生命体の細胞を発見する。

初の地球外生命体発見に沸くクルーたち。生命体は地球の小学生によって「カルビン」と名付けられる。全身の細胞が脳であると同時に目の役割を果たし、同時に筋肉でもあるというカルビンの特異な性質が明らかになるが、ひょんなことから活性が低下。クルーの一人が電気刺激を与えようとしたところで、突如カルビンが暴走! 腕に絡みつき骨折させ、実験装置から飛び出す事態に! さらにカルビンを焼き払おうとしたクルーを殺害し、実験用モジュールから脱出してしまう。

巨大な密室となったISSの中と外を自由に這い回り、成長しながら次々にクルーに襲いかかるカルビン。この生命体を食い止めることはできるのか、というストーリーである。

『エイリアン』とか『遊星からの物体X』とか、要はああいう映画の仲間でしょ……と言われてしまえば確かにその通りだけど、それでも『ライフ』の状況設定はそれなりに新鮮。まずカルビンの設定がなかなかイヤである。全身の全細胞が筋肉で脳という生き物で、見た目だけならデカいナメクジかクリオネ。とにかく「力が強いので絡みつかれたら死ぬ」という一点だけで押してくる。

ISSの内部だけでストーリーが進み、なおかつクルーたちは普通の宇宙飛行士なので戦う手段も武器になるものも全然ないというのも怖い。銃のような火器は積んでいないし、そもそもISSの内部を傷つけたら自分たちの生存に関わる。不利な状況の中、ISSの「モジュールごとの隔離」や「エアロックの操作」みたいな機能を使って必死にカルビンを抑え込もうとするクルーたちの悪戦苦闘はイヤ度が高くて大変よい。一人暮らしで自宅にゴキブリが出た時のイヤさ加減を拡大したやつ、とでもいいましょうか。

この監督、マジで意地が悪いぞ!


『ライフ』の楽しいポイントが、これまでのSFホラーではあんまり見られなかった人間の死に方をたくさん見せてくれるところである。

なんせカルビンは力が強い。その上骨がなく、全身が筋肉でできている。手足に絡みつかれれば関節をボキボキ折られるし、顔面にくっつかれたら振りほどくこともできない。この「圧倒的に強い筋力で殺しにくるエイリアン」というのはなかなかフレッシュなアイディアである。よくわからないビームとか謎の粘液とかではなく、物理的なパワーで人体を破壊しにくる未知の敵。怖い。

劇中ではこの筋力の強さを活かした意地の悪い死に様がてんこ盛り。人間が逃げ込んだ透明なカプセルに貼り付いてバキバキとヒビを入れ、口から人間の体内に侵入して大暴れし、果ては宇宙で人間を溺死させる(宇宙で溺死ってなんだよとお思いでしょうが、マジで溺死します)。ホラーなので登場人物にはイヤな感じで死んでほしいのが人情だけど、『ライフ』の死に様のバラエティに富んだ感じはとてもいい。変な死に方はとうに見慣れた、すれっからしのホラーマニアでも楽しめるはずだ。

詳しくはネタバレになっちゃうから書けないんだけど、映画のオチもめちゃくちゃ意地悪である。いやまあ、途中からちょっと読める展開ではあるんですが、それでも「わ〜! この映画、なんて意地が悪いんだ!」と劇場でニコニコしてしまった。

こういう「密室によくわからない生物と閉じ込められました」というSFホラーは製作者の意地の悪さで出来不出来が変わってくるところがある。その点で言えば、『ライフ』のスタッフは相当に意地が悪い。監督のダニエル・エスピノーサは心理戦アクション映画『デンジャラスラン』、トム・ロブ・スミスの小説を原作とした閉塞感漂う犯罪スリラー『チャイルド44』を手がけた人物で、この並びを見ただけで「登場人物を心身両面から追い込むのが好きなんだな〜」というのが伝わってくる。意地悪な映画が好きな人は要注目の監督だ。
(しげる)