7月20日(木)に放送スタートした木曜ドラマ『黒革の手帖』(テレビ朝日系)。
原作は同名小説で、1982年から5度もドラマ化されてきた。原作者である松本清張の没後25年となる今年2017年に、主演に武井咲を迎えて6度目のドラマ化となった。


1話あらすじ


派遣社員の原口元子(武井咲)は、東林銀行世田谷北支店で銀行員として真面目に働いてきた。しかし、新人正行員(さとうほなみ)がSNSに顧客の写真を投稿してしまった不祥事をもみ消すため、同じく派遣社員の山田波子(仲里依紗)とともに契約を打ち切られてしまう。
実は、夜は派遣ホステスとして銀座のクラブでも働いていた元子。派遣切りと親の借金返済を機に、働いていたクラブも辞めて自分の店を持つことに。そこに、衆議院議員秘書・安島富夫(江口洋介)がやってくる。

悪女を演っていく武井咲の宣戦布告


『黒革の手帖』といえば、近年では米倉涼子主演版(2004年、2005年)の印象が強い。
今作の放送前には、したたかでありどこかやさぐれたような30代女性を23歳の武井咲が表現できるのか、と心配の声も聞いた。しかし、武井咲が見せてきたのは紛れもない「武井咲の原口元子」だった。

死んだ親の残した借金500万円の返済のために、派遣銀行員と派遣ホステスをかけもちして働いてきた元子。
全額を返済し終え、ようやく借用書を返されたときの武井咲の目の動きがすごい。返済完了まで挙動不審にかなりキョロキョロとしていた目が、深いため息を1つ吐いたと同時にズンと重く据わる。
アパートに帰り、灰皿の中で燃やした借用書の炎でタバコに火をつけるとき。顔にかかった一筋の髪の毛を自然と耳にかける動作のこなれた感じ。品を残しながらもどこかはすっぱという、絶妙な演技。「咲ちゃん、どこでそんな仕草を覚えたの!」と余計な親心が出てしまった。

真面目な銀行員や、ニコニコして頷いているだけのホステスが「これまでの武井咲」だとしたら、借用書のシーンの目の据わりようは「私はこれから悪女を演っていきまっせ」という新しい武井の宣戦布告のよう。
そのすぐ後のゴルフのシーンで、衆議院議員秘書の安島が元子に「大した女優さんだ」と声をかける。それが、そのまま江口洋介から武井への賞賛のコメントに感じられたのも良かった。

派遣社員の愚痴シーンのしつこさ



第1話では、元子が勤め先の銀行から1億8000万円を横領して退職し、銀座に店を構えるまでを描いた。米倉版では5分程度の時間しかかけなかった横領までのシーンを、武井版ではじっくり1話分の時間を使って見せた。
元子の退職の理由となったのは、正社員の罪をかぶっての派遣切り。

「正行員には異動も出世もあるけど、派遣社員にはボーナスも退職金もなし」
「同じ席で同じ仕事を、同じ賃金でずっとやりつづける……、まるで『お仕事ロボット』ですね」
「使い捨てのロボット」

1話の中で、派遣社員の愚痴や苦悩、恨み節が何度も繰り返し語られる。
元子たちの愚痴には、派遣社員経験がある人なら共感してしまう言葉が1つはあっただろう。元子や波子たちが不満をはっきりと言葉にしているのを聞いて、モヤモヤとしていた自分の仕事への鬱憤に気付かされもした。「浮き彫りにされた」とも言える。

そうして視聴者の鬱憤を浮き彫りにし、不平不満をその手にしっかりと抱えさせる。それを経ての元子の横領、ドンデンガエシに、気分が良くならないわけがない。元子と制作側に手玉に取られた感が、気持ち良くてたまらない。
ドラマ『半沢直樹』を見てあれだけ盛り上がっていたサラリーマンたちが味わっていたのは、この感覚だったのかもしれないと思った。快感になってしまう。

女たちの恨み憎しみにご注意を


第2話の予告には「銀座の女バトル 勃発」の文字が躍る。
「女の敵は女」という構図を娯楽として好む人は多いが、予告を見ると殴り合うわグラスは割るわで激しさにちょっと引いてしまうほど。
バトルしている女たちの間には必ず男の姿がある。とりまく女たちの恨み憎しみが、その1人の男に向かってきたときが一番怖い。

7月27日(木)よる7時まではTVerで、それ以降もAmazonビデオなどで第1話を見ることができる。
第2話は、7月27日(木)よる9時から放送予定だ。

(むらたえりか)

木曜ドラマ『黒革の手帖』(テレビ朝日系)
毎週木曜 よる9時
出演:武井咲、江口洋介、仲里依紗、真矢みき、奥田瑛二、伊東四朗、ほか
原作:松本清張『黒革の手帖』(新潮文庫刊)
脚本:羽原大介
監督:本橋圭太、片山修
ゼネラルプロデューサー:内山聖子(テレビ朝日)
プロデューサー:中川慎子(テレビ朝日)、菊池誠(アズバーズ)、岡美鶴(アズバーズ)