獅子文六原作、昭和10年を舞台にしたモダンでポップな土曜時代ドラマ『悦ちゃん 昭和駄目パパ恋物語』。10歳の娘・悦ちゃん(平尾菜々花)が駄目パパ・碌さん(ユースケ・サンタマリア)の再婚のために奮闘する。全8回。


ヤバイ3人の昭和女たち


先週放送された第2回「お見合い相手はご令嬢」では、碌さんを取り巻く3人の女性が出揃った。これがまた思った以上にひと癖もふた癖もある女性ばかり!

まずは、見合い相手の日下部カオル(石田ニコル)。日下部財閥の令嬢で超美人なのだが、芸術至上主義の変人。好きなクラシック音楽が流れると会話も耳に入らず、ひたすら陶然としている。石田ニコルのドーリーな風貌と演技がヤバい。

碌さんの義兄・大林(相島一之)が「芸術を通して知性や感性を磨くなど、誰にでもできることではありません」とおべっかを言うが、裏返せば、モダンな昭和初期とはいえ芸術に身を捧げることなんてできるのは世の中のほんの一握りで、しかも女性は変人扱いされたということ。その証拠に弟の一郎(矢野聖人)からは「行かず後家」などと痛烈に皮肉られている。

貧乏な職業作詞家の碌さんのことが気に入ったのは、偶然読んだ碌さんの詩から英国文学の影響を感じ取って興味を持ったから。カオルの美人ぶりには碌さんも悦ちゃんもうっとり。しかも、支度金を3万円も持参するという。今の金額にすると、数千万円はくだらない。碌さんがエキサイトするのも無理はない。

次にウグイス芸者の春奴(安藤玉恵)。とにかく碌さんに惚れていて、結婚前のワイルドだった碌さんのことをよく知っている模様。どうやら過去に碌さんと何かあったようだが、碌さんは取り合わない。

碌さんがカオルとお見合いすると知ると、自腹で浅草のお座敷に誘って酒を浴びるように飲ませるというミエミエの妨害工作に出る。その実力行使っぷりがヤバい。それにまんまと引っかかる碌さんも碌さんだ。碌さんの首筋にはくっきりとキスマーク。慌てて外に出ていく碌さんに「もう、役立たずのくせにぃ!」と声をかける。これ、間違いなくアレのこと。よくNHKの夕方6時に放送したもんだ。

そして銀座の大松デパートで働くデパートガールの池辺鏡子(門脇麦)。原作では健気で勤勉な下町のお姉さんなのだが、ドラマでは妄想癖が加えられている。毎夜、大好きな俳優、クラーク・ゲーブルと自分が恋仲になる日記を描いているのだが、今でいうドリーム小説か。ヤバいってのはちょっと言い過ぎだけど、描いているときの鏡子の目つきは尋常ならざるものがある。

ナレーター(片岡愛之助)は「そんな妄想でもしなければ息が詰まってしまう。女性の自由が制限された時代でもありました」と鏡子を優しくフォローしたが、今後鏡子の妄想癖がどのように物語に絡むのだろうか?

ユースケ・サンタマリア、究極のハマり役に出会う


駄目パパ・碌さん役のユースケ・サンタマリアがこれ以上ないハマり役。カオルの写真を見てゴクリとツバをのみ、春奴にはまんまと一杯食わされてベロンベロンに酔っ払い、それでいて最後はクールに文学談義をキメてみせる。ダメさと情けなさと色気が渾然一体となった演技だ。『小さな巨人』のミステリアスな刑事役より、こっちのほうが断然いい。

一方、悦ちゃんの活躍はほとんどなし。村岡先生(村川絵梨)が説明した太陽のまわりを自転しながら公転する地球とは悦ちゃんのことだろう。自力でくるくると回転しながら、太陽(=碌さん)の周囲を駆け回る姿が想像できる。次回以降のお楽しみ。

碌さんの詩に対するカオルの論評、「言葉を飾らず、世の常を描ききる。その視点に私ははっとさせられたのです」も、おそらく今後大きな意味を持つはず。原作を読んでいなくても勘のいい人はわかると思う。

『悦ちゃん』の豆知識あれこれ


昭和10年が舞台といっても、あまり細かいことは言いっこなし。銀座の街並みなどはカラフルなイラストで処理されているし、言葉遣いも完全に現代風。小難しく考えるより、気楽に見たほうがいい。

碌さんがカオルのことを「滅法シャンなご令嬢よ」と言うが、シャンというのはドイツ語で「美しい」という意味から転じて「美人」を指す。大正から昭和にかけて旧制高校の生徒たちがよく使っていたらしい。筆者は早坂暁原作の映画『ダウンタウン・ヒーローズ』で覚えた。

鏡子(門脇麦)が働く大松デパートの建物は何だろうと思ったら、横浜市にあるYCCヨコハマ創造都市センターをベースにCGを付け加えたものらしい。写真を見ると、たしかに特徴的な半円形のバルコニーが一緒! もともとは1929年(昭和4年)に第一銀行横浜支店として建てられたものだから時代はぴったりだ。

碌さんとカオルがお見合いをする銀座のレストラン「オリンピア」は、銀座の有名な洋食レストラン「オリンピック」をモデルにしているのかも。開店は昭和3年で、今でいうティファニーのビルの場所にあった。コラムニストの泉麻人さんによるウェブで読めるエッセイ「思い出のオリンピック」に詳しい。

鏡子が住んでいる街は、原作には小石川区の掃除町のあたりと書いてあるが、これは共同印刷から春日の方向に進んだ千川通り沿いのエリアを指す。このあたりは小石川台地と白山台地に挟まれた谷のようになっている場所で、徳永直の小説『太陽のない街』の舞台になった。筆者の子が通っていた保育園もこのへんにあった。

第3回「避暑地のできごと」は8.5 18時5分から。月曜の深夜に再放送もあるよ。

(大山くまお)