三遊亭圓朝が1日2時間、15日間をかけて語りおろしたという『怪談牡丹灯籠』。その全編を初めて(!)映像化した『令和元年版怪談牡丹灯籠』(NHK BSプレミアム 毎週日曜22:00〜)も第4話で最終回を迎えた。

もっとも有名な「牡丹灯籠〜お札はがし」の場が終わってお露(上白石萌音)&新三郎(中村七之助)がこの世を去り、物語は平左衛門を殺したお国(尾野真千子)&源次郎(柄本佑)カップル、そしてそれを追う孝助(若葉竜也)がどう収束を迎えるかに移る。ここで存在感を増してくるのがお峰(犬山イヌコ)&伴蔵(段田安則)夫妻だ。

キレるお峰、悪への道をひた走る伴蔵


お峰伴蔵は逃げた先で、幽霊から奪った金を元手に金物問屋を開き大成功。それが偶然、お国源次郎たちと同じ宿場町だった。お互いの因縁を知らず、お国に惚れる伴蔵。お峰が邪魔になり、殺してしまう。自らも切りつけ強盗に襲われたふりをする伴蔵だが、怪我の手当てに現れたのは山本志丈(谷原章介)だった。志丈に傷を自らつけたものと見破られ、ゆすられた伴蔵は、志丈も殺してしまう。

伴蔵に離縁を切り出され、「私が幽霊どもから巻き上げた金だよ?」とキレるお峰。しがない旗本の世話係から大店のおかみに成り上がるようすといい、ヒステリックなキレ方といい、犬山イヌコの存在感が光る。一方で尻に敷かれっぱなしの伴蔵が一転、悪への道をひた走り始める変化を演じる段田安則もさすが!


原作では、お峰を殺した伴蔵がしれっと帰ってくるのだけれど、女中たちにお峰の霊が乗り移って伴蔵の悪事をしゃべりはじめる。そこで「病気だ」と呼ばれたのが志丈という展開だ。志丈も志丈で、全然そんな素振りを見せなかったのに、伴蔵に金をせびる悪人になってしまっているのが切ない。これまた原作では、「実は本読んだくらいで医者ってほどでもないんだよね、だから全然診られないんだよ」みたいなことをさらっとしゃべっていて、なおさらひどい。

さて、船の上で志丈を殺した伴蔵が、川に死体を落として様子を見守っていると、川からお峰の霊が現れ、伴蔵を引きずり込む。
原作はもっとドライだ。道端で志丈を殺した伴蔵があっという間に捕まって、相応の刑を受ける、というもの。ドラマはお峰の霊の出所をアレンジして、一目惚れしたお露新三郎の「焦がれ死に」と長年連れ添ったお峰伴蔵の悲しい結末とを、ともに川でのできごととして印象付けた。そういえば、さいごの仇討ちも川にかかる橋の上で行われている。

お国、悪女のバックボーン


この「全員悪人」感が色濃くなる中で、お国は意外にも、怪我の治りが思わしくない源次郎のためにめし屋の女中をやっては男どもに思わせぶりな態度をとって金を巻き上げるという地道な(?)人生を送っている。志丈とも出くわし、再びこの町を捨てて逃げようとするお国に対し、源次郎は「逃げ回るのに疲れた」と自分たちを追い続ける孝助に果たし状を送り、殺してしまおうと一計を案ずる。

源次郎が「故郷にいたころの話をしてくれないか」と言い、お国がこれまでの人生を話すくだりはドラマオリジナルだ。幼くして女中奉公に出たこと、若旦那に言い寄られて逃げ出したことなどを語る中で、仕えた平左衛門(高嶋政宏)の妻りつのことは大好きだった、りつが死んでから本当に悪い女になったのかもしれない、と話す。そこでお国のただただ悪いだけではないバックボーンが見え隠れする。このくだり、一気に話すだけなのは少しもったいない気もするけれど、逃亡先でお互いの理解と愛を深めるシーンでもあるのだろう。

原作では終盤になって突然、孝助の母が登場する。彼女は再婚先でお国源次郎をかくまっていた。孝助に彼らの居場所を伝える一方でお国源次郎を逃してやり、そのことを孝助に責められて自害する。短いながらもエキセントリックなこの存在はドラマでは表現されず、孝助とお国たちのシンプルな対立として描かれた。

孝助は卑怯な手で怪我を負うも、平左衛門が死に際に言い遺した「進退窮まれば退くべからず」の声を思い出して仇討ちを果たす。トンビが高く空を舞う中、孝助が微笑んで終わるラストシーンの潔さがいい。若葉竜也、好演!

落語や歌舞伎には、孝助の母のように「なんでそんなことに?」と思ってしまう存在が登場することがある。また、お国の悪さもそれほど内面が詳しく描写されるわけではない。そこを現代の人間でもなぜこんな行動をとるかが理解できるところまで落とし込み、豊かに膨らませてドラマにした。それがこの「令和元年版」のドラマだったのだろう。

ちなみに、「原作」としていまに残っているのは、圓朝の高座をそのまま記録した速記本だ。しゃべり言葉をそのまま文字にした日本初の言文一致体と言われるのは二葉亭四迷『浮雲』だが、これを書くときに四迷が参考にしたのが圓朝の速記本だったという。というわけで、この原作、とても読みやすく、圓朝の語り口も浮かんでくる。ぜひ、この物語を文字でも味わってみてほしい。
(釣木文恵)

令和元年版 怪談牡丹灯籠
出演:尾野真千子、柄本佑、若葉竜也、中村七之助、上白石萌音、高嶋政宏、戸田菜穂、谷原章介、ほか
脚本・演出:源孝志
プロデューサー:川崎直子、石崎宏哉
制作統括:千野博彦、伊藤純、八木康夫
語り部:神田松之丞
原作:三遊亭圓朝『怪談 牡丹灯籠』
音楽:阿部海太郎
制作:NHKエンタープライズ