「なぜ、彼は今夜のディナーが最後の晩餐だと言ったのだろう。いつもの言葉遊びだろうか。それとも、こんな日々にも終わりが近づいていると予感したのだろうか。僕も覚悟を決めた方がいいのかも知れない。」

12月2日(月)放送のドラマ『シャーロック』(フジテレビ系)第9話。

前回、守谷への手がかりとなるはずだった安蘭世津子(長谷川京子)を目の前で死なせてしまった獅子雄(ディーン・フジオカ)。若宮(岩田剛典)と江藤(佐々木蔵之介)は、小暮(山田真歩)の誕生日祝いを口実に、獅子雄を元気づけようと有名イタリアンレストランに呼び出した。そのレストランで、獅子雄は男の死体を発見する。


獅子雄「ここにいる全員が容疑者です」


第10話と最終話を迎える前のワンクッション。ラスボス・守谷が関わらない第9話は、王道エンタテインメントとしての密室ミステリー回だった。

獅子雄たちが訪れたレストラン「リストランテ・エレナ」。予約が取れない有名店だが、従業員や客たちの様子に獅子雄は違和感を抱く。看板料理の「うずらのカチャトーラ」が今日に限って提供できない。1ヶ月前と料理の味が違う。厨房にいる従業員の人数が足りない。じゃがいもの皮むきをするパティシエ……。

この店で何が起きているか知りたい獅子雄は、なくしたイヤリングを探す婦人・不破凛子(島かおり)を手伝って店の周囲や中を探る。そして、店の掃除用具が入っている倉庫で死体に遭遇した。しかし、その後江藤が倉庫を見に行くも、死体はなくなっていた。

現在進行形で事件が動いている密室殺人に、獅子雄はイキイキとし始める。

獅子雄「ここにいる全員が容疑者です。コースの締めくくりにどうぞ、お付き合いください」

探偵もののドラマやアニメのお約束フレーズ、全員を1か所に集めて「犯人はこの中にいる!」というやつだ。獅子雄、そのベタなやつ言っちゃう? 全員の中心に堂々と立つ獅子雄の両隣に、まんざらでもなさそうな顔で若宮と江藤が並ぶ。なんかみんな楽しそうだからいいか。

倫理とは?常識とは?殺されたのは人望ゼロ男


『シャーロック』では、殺人は悪いという「常識」を持つ若宮と、殺人の善悪はジャッジしない獅子雄の二人が作品の倫理観を作っていた。しかし、今回は登場人物全員があまり強固な「常識」を共有していなかった。

店の施工を担当した工務店を経営する達彦(綾田俊樹)と妻の凛子は、死体があることを知っていながらも、自分たちのディナーがつつがなく終わることを優先させる。達彦と凛子は、工務店の傾いた経営を苦に、この夜を最後に死ぬつもりだったからだ。

殺人が起きたと知っても自分の保身や仕事が大切な料理評論家の大石万作(升毅)。一緒に働いていた副料理長・新井伸吾(郭智博)が死んでいるにも関わらず、とにかく早く帰りたいパティシエ・佐伯斗真(古屋呂敏)。「写真撮ってただけなんで……」と言い、本当に写真を撮ってただけのカメラマン。

投資家の中原聖子(峯村リエ)と、雑誌編集者の高津みずえ(遊井亮子)は、女性として、またはビジネスパートナーとしての自分に新井が誠実ではなかったと不満を言い合う。パスタイオの西岡啓介(伊藤祐輝)は、新井に借金をしていた。新井が殺されたことに動揺はするものの、新井を庇おうという気はなさそうだ。

そして、ソムリエの加藤茂(田邊和也)は人を殺してしまった過去がある。オーナーシェフの古賀智志(大友康平)に拾ってもらった恩があり、身を挺して古賀を守ろうとする。古賀は病気の自分のために新井を殺した加藤をいさめず、庇おうとする。

いや、新井の人望のなさよ。新井は殺されちゃったけど、でもみんなそれぞれ事情があったよねという雰囲気。『シャーロック』ワールドである。

獅子雄「古賀さん、これでいいんですか。味覚を失ったかわいそうなシェフの物語として終わらせていいんですか」

獅子雄の一言が話を「常識」に引き戻すフックになった。

古賀「新井が憎かった。だから止めなかった。加藤に罪を犯させたのは、この私です。私の、私のエゴです」

殺人は罪であるという「常識」に立ち返ったところで、今度は獅子雄が「料理は芸術だ。それは、エゴによって磨かれる」とエゴを肯定しひっくり返す。善とか悪とかではない、これはエンターテインメントなのだった。

岩田剛典だから出たスーツの襟スンッ仕草



獅子雄「最後の締めくくりに、あなたの作るデザートを彼に」
若宮「え?」
古賀「わかりました」
若宮「おい、なんで俺にデザートを」
獅子雄「一応の礼だ」
若宮「え?」
獅子雄「ありがとう。なかなかうまい飯だったぞ」

獅子雄は、料理そのものではなく謎解きも含めて「なかなかうまい飯」と言ったのだろう。得意になって、デザートを待つために獅子雄のいる席に座る若宮。

獅子雄ではなく若宮のほうが『名探偵ホームズ』っぽいチェック柄のスーツを着ている。その襟をスンッと両手で正しながら着席する若宮は、もうEXILE/三代目J SOUL BROTHERSの岩田剛典なのである。ちょっと鬱屈していた精神科医があんな仕草しますか。あのヤンチャなかっこつけ方はパフォーマー・岩田剛典の培ったものだ。他の俳優だったら、あの襟スンッ仕草は出なかったのではないか。

役柄と「この俳優が演じる意義」が合致したときには、くううと唸ってしまう。今回は、虚勢を張りながらもどこかしょんぼりしたおじさんオーナーシェフの大友康平。映画『リリイ・シュシュのすべて』や『花とアリス』などの儚く危ういイメージがある郭智博が成長し、才能と人望が100対ゼロ男を演じているのも面白い。『シャーロック』のキャスティングは、メイン俳優、ゲスト俳優問わず、役柄と意義をかなり綿密に、そしてユーモアを持って吟味していると想像する。

ディーン・フジオカもまた、役柄と演じる意義についてしっかりと咀嚼する俳優だ。残りの10話、そして最終話で、『シャーロック』とディーン・フジオカが「獅子雄」にどんな意義を与えるのか楽しみである。

(むらたえりか)

=配信サイト=
FOD:https://fod.fujitv.co.jp/s/genre/drama/ser4l20/
TVer:https://tver.jp/corner/f0040635

=作品情報=
『シャーロック:アントールドストーリーズ』(フジテレビ系)
10月7日(月)スタート 毎週月曜21:00〜21:54
出演:ディーン・フジオカ、岩田剛典、山田真歩、ゆうたろう、佐々木蔵之介ほか
原作:アーサー・コナン・ドイル『シャーロック・ホームズ』シリーズ
脚本:井上由美子
プロデュース:太田大
音楽:菅野祐悟
オープニングテーマ:DEAN FUJIOKA「Searching For The Ghost」(A-Sketch)
主題歌:DEAN FUJIOKA「Shelly」(A-Sketch)
演出:西谷弘、野田悠介、永山耕三
制作著作:フジテレビ
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/sherlock/