テレビ朝日系の金曜ナイトドラマ「時効警察はじめました」(一部地域をのぞき夜11時15分〜)が先週末、12月6日に最終回を迎えた。

12年ぶりに復活した「時効警察」新シリーズでは、霧山修一朗(オダギリジョー)がFBI派遣から帰国して、古巣である総武署の時効管理課に戻り、趣味で時効事件捜査を行なってきたわけだが、最終回ではまたしてもFBIに協力を求められ、アメリカに戻ることになった。

「ハート泥棒の唄」って本当にあるの?


再渡米を前に霧山が最後に取り組んだ時効事件は、24年前にある高校の高飛び込み部のコーチ・祷(いのり/少路勇介)が校舎の屋上から飛び降りて死亡した事件。通常なら自殺か事故で処理されるところだが、ある生徒が数日前に、コーチは死ぬと同級生に“予言”していたため殺人事件として捜査された。雨夜翔太(山崎賢人・崎のつくりは正しくは立に可)というその生徒(じつは祷の甥)は元高飛び込みの選手で、期待の新星と目されていた。しかし、事件の1年前に練習中の事故で心肺停止に陥り、奇跡的に生還したとはいえ、選手生命を断たれた。その代わり、未来が見えるようになったという雨夜は、その後、予言者・スピリチュアル雨夜を名乗り、さまざまな予言をしては次々と的中させていた。

雨夜の予言は、じつは催眠術で相手に暗示をかけ、自分の意図する行動へと誘導するという一種の洗脳によるものだった。相手を暗示させた行動へと導く際には、きっかけとなる言葉や曲などをトリガーとしてあらかじめ用意し、相手の頭に刷り込ませておく。彼はこの術を、事故で入院中、只野(松重豊)という教授から教わった。24年前の事件も、雨夜がこの術を祷コーチに“試しに”かけて起こったものだった。

催眠術を用いたトリックといえば、12年前の第2シリーズ「帰ってきた時効警察」でともさかりえが催眠療法士を演じた第4話(作・監督は来年のパラリンピックで開会式の演出を担当することになったケラリーノ・サンドロヴィッチ)を思い出すのだが、あのときはトリックもかなり無理やりで、実験映画のような超展開を見せたのだが(それが面白かったんだけど)、それとくらべたら、今回は設定は突飛とはいえ、理屈は一応通っているので説得力があった。それは、トリックに使われる小道具にいたるまで、丁寧に設定・描写がなされていたからでもあるのだろう。たとえば、祷を飛び降るよう導いたトリガーとして、「ハート泥棒の唄」なる米マサチューセッツ州ダートマスのご当地ソングが出てきたが、これは実在するのか、このためにつくったものなのか、いずれにせよインパクトは大だった。あるトリックに使われたメタルテープも、事件の起きた時代ならではのアイテムだった。

非現実的な展開がリアリティを持ったのには、俳優の力もあっただろう。本シリーズのゲストにはこれまではどちらかというとベテラン俳優が出演してきたのが、最終回では山崎のほか、二階堂ふみ、染谷将太と若手の実力派がそろい踏みした。二階堂の役は、コーチの祷が恋愛感情を抱いていた高飛び込み部の部員・朝霞。一方、染谷は味澤という、雨夜からコーチが死ぬと聞かされた同級生で、現在はドローンを使うパパラッチ……略して「ドロラッチ」として活動する男を怪演していた。「時効警察」では原則として、ゲストが若い頃の役も演じるのが慣例だが(小雪や檀れいもセーラー服を着て高校時代を演じていた)、今回の3人もそれぞれの役の高校時代を演じた。ただ、現在20代(山崎と二階堂が25歳、染谷が27歳)の彼らからすれば、回想シーンのほうが実年齢に近く、逆に現在のシーンでは、実際よりかなり年上の40代に扮したというのが面白い。

このほか、事件当時捜査を行なった元刑事に苅谷俊介が、雨夜に洗脳術を教えた元教授に松重豊がそれぞれ扮している。両者とも、現在は世捨て人のような暮らしをしているというのが、「時効警察」の事件関係者あるあるだった。苅谷の捜査当時の手帳がえらく年季の入った感じで、霧山に同行した刑事の彩雲(吉岡里帆)が感心すると、「ああ、それ。ウナギのタレにつけたんだ」との答えが返ってきたのも、いかにも三木作品らしい。それにしても、松重さん、何でウォーリーみたいな赤白のストライプのシャツとニットをかぶってたんだろ……(予告で気になっていたテレ東の「孤独のグルメ」との裏かぶりはギリギリなかった)。


三日月と霧山の恋のゆくえは?


最終回では、捜査の進展とあわせて、霧山にずっと片想いを続けてきた三日月(麻生久美子)が何とか蹴りをつけようとするのも見どころだった。旧シリーズから霧山のことが好きだった三日月だが、新シリーズまでの12年間に結婚と離婚を経験したところへ、彼が再び目の前に現れたとあって、以前にも増して本気だったはずだ。ただ、根がピュアだからか、アプローチの仕方があいかわらず中学生レベルでもどかしい。

霧山も霧山で、三日月が自分に好意を抱いているのを知ってか知らずか、彼女との付き合いが雑になりがちだった。一緒に捜査に出かけたあとの食事も、いつも焼き芋や場末のラーメン屋など適当に済ませてしまう。最終回でも、目星をつけたレストラン(店名は「注文の多い料理店」って!)に行ってみれば休業日でがっかりという結末に。結局、霧山がアメリカに戻るまでに二人でまともな食事もできなかったのが、三日月の気持ちを思うとせつない。

三日月は最終手段として、雨夜に相談して、霧山が自分に振り向いてくれるよう暗示をかけてもらう。そしてラストシーン、霧山がアメリカに向けて旅立つ直前、トリガーとして用意した「コーヒーくれよ、おーい」(鼻にかかった、クレヨンしんちゃんのような口調で言う)のセリフを発した。すると霧山は彼女を一瞬抱き寄せると「未来でまた会おう」と耳元にささやいてから、去っていった。てっきりトリガーが効いたのかと思いきや、あとから駆けつけた雨夜は霧山にトリガーを仕掛けるのを忘れてしまったと打ち明ける。となると、霧山のあのセリフは本心から出たものだったのか……。

それにしても、いまさらながら、霧山修一朗は不思議な男である。FBIから声がかかるほどの捜査能力を持ちながら、日本ではエリートコースから外れ、地方の警察署の時効管理課という閑職にある(自分で望んでのことなだろうが)。プライベートでも、学生が住むような安アパートでほとんど家具も置かずにつつましく暮らす。時効事件の捜査以外にこれといった趣味もなく、流行など世事にも疎い。おまけに女心にも鈍感なくせして、妙にモテる。今回のシリーズでは、中山美穂や檀れいといった年上女性に言い寄られ、さらには若い刑事の彩雲も彼に憧れていた。

最終回では、三日月の代わりに彩雲が霧山に付いて元刑事に話を聞きに行った際、駅のホームで帰りの電車を待つあいだ、彩雲が、事件当時の朝霞と雨夜の関係について「その人のこと、何となくいいなと思っていて、でも『好き』ってなるにはパタッてなる瞬間があるんですよ」と語っていた。そのあとで霧山がふいに意味ありげに「こういう駅は電車は来ないほうがいい。そう思うんだけど」とつぶやくと、彼女は「やめてくださいよ。私がパタッてなるじゃないですか」と返した。彩雲にとって霧山は、仕事上の憧れというだけでなく、男性としてもちょっと気になる存在だったのだ。

「時効警察」の愉快な仲間たちともしばしお別れ


そんな彩雲だが、事件解決時、霧山が「誰にも言いませんよカード」を渡す場面には最終回までついに立ち会えなかった。本シリーズでは、回ごとにバージョンが違った「誰にも言いませんよカード」とあわせ、彩雲がどんな理由でこの場面に立ち会えないかも、毎回の楽しみとなっていた。最終回は、上司の十文字(豊原功補)が覆面パトカーを走らせて現れたかと思うと、一瞬のうちに彼女を連れ去るという派手な演出であった(閉めたドアから彼女のコートの裾がはみ出し、発車とともに引っ込むという描写が細かい!)。

最終回では、鑑識の諸沢(光石研)が変な光景の写真を霧山に見せるコーナー(?)が久々に復活したのもうれしかった。今回出てきたのは、靴跡が幽体離脱しているように見える写真という、毎度のごとく力の抜けるものだった。

諸沢以外にレギュラーメンバーの動向をシリーズを通して振り返れば、旧シリーズから登場する十文字の上司・蜂須賀(緋田康人)が、ときどき登場しない回があったり、おじいちゃんぽくなっていたりしつつ、あいかわらず十文字に振り回されっぱなしなのがおかしかった。十文字は十文字で、やっぱりどこかセンスがずれていた。第7話で霧山から借りた開運メガネをかけたところ、レンズに度が入っていないにもかかわらず、やたらと見間違いをする姿はもはやコントであった。

時効管理課のサネイエ(江口のりこ)は結婚して現在妊娠中ということで、最終回までに子供が生まれるのかと思いきや、そうならなかった。同じく時効管理課の又来(ふせえり)は、旧シリーズより引き続き十文字・蜂須賀コンビのツッコミ役を務めるとともに、鑑識課のエースとして新たに登場した息子の康知(磯村勇斗)と親子喧嘩を繰り返した。最終回では、例の「コーヒーくれよ、おーい」のセリフを三日月に伝授したことでも印象を残す。時効管理課の課長・熊本(岩松了)は、旧シリーズではたしか55歳くらいだったから、おそらくすでに定年を迎えたはずだが、署に引き止められたのか、なお現役で、日々事件の書類に「時効」の印を力強く押捺していた。三日月が時効管理課の面々と集合写真を撮る際には、屋外にいたのにどうにかガラス越しに写ろうとするのがお茶目だった。

「時効警察」シリーズは、気鋭の監督・脚本家たちが基本設定を共有しながら、各話を競作するところが特色だ。今回の「時効警察はじめました」で各話を手がけた監督・脚本家は、このドラマのおおまかな世界観をつくった三木聡をのぞき、全員が今回初めてこのシリーズに参加した。私のなかでは、大九明子が作・演出を手がけた第5話(ゲストが趣里と空気階段の回)がとくに印象深い。今回のシリーズで登場した「ウソをついたときの人間の反応」などといったお約束をいかに踏襲するか、あるいは外すかも、競作ならではの醍醐味だった。

こうして振り返るにつけ名残惜しくなるが、最終回で三日月が霧山と別れ際、「今度は長くないよね。12年後ってことはないよね」と言っていたことだし、霧山たちとはまた近いうちに再会できると信じたいと言っても過言ではないのだ。よろしくお願いします!(近藤正高)

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