12月9日(月)放送のドラマ『シャーロック』(フジテレビ系)。最終話を目前に、原作のモリアーティにあたる「守谷」の名前は出るも、核心には迫ることができなかった第10話。獅子雄(ディーン・フジオカ)にとっても我々にとっても、焦らしの回となった。


マジシャンズセレクト、灯台下暗し、君が代


守谷の核心にこそ触れられなかったが、東京都知事・鵜飼(大鶴義丹)の息子誘拐事件を通して多くのヒントを散りばめていた。

江藤(佐々木蔵之介)が出世のために誘拐事件を調べてほしいと頼みに来る。獅子雄は報酬をもらうことを条件に、その頼みをきいてやる。江藤は「マジシャンズセレクト」を使って獅子雄を導いたのだと若宮(岩田剛典)に自慢する。

「マジシャンズセレクト」とは、相手に複数の選択肢を出しながら言葉巧みに誘導し、相手に選ばせたいものを手に取らせるという心理テクニック。手品などで使われることが多いようだ。獅子雄は、江藤のやったことは稚拙でマジシャンズセレクトとはいえないと言う。しかし、事件解決後、無事昇進が決まった江藤は小暮(山田真歩)に気になることを言う。

小暮「でも私、今まで事件を解決した実感がないんですけど。いつもあいつ(=獅子雄)が……」
江藤「あいつが解決しているわけじゃない。あいつに解決させてやってるだけだ。あいつが解決するよう、俺たちが導いてやっているんだ。わかるな?」
小暮「わかりません」

獅子雄や若宮、小暮の前では推理も雑で、どこか抜けている刑事に見える江藤。だが、今回「マジシャンズセレクト」という言葉が出てきたことと、彼の「俺たちが導いてやっているんだ」という台詞に関連がないとは思えない。

また、誘拐されていた椋介(浦上晟周)が実はずっと学生寮に隠れていたことを突き止めた獅子雄と若宮は、こんなことを言う。

若宮「まさかこんな近くにいたとはなあ」
獅子雄「灯台下暗し、だな」

これもまた、守谷の関係者が獅子雄と若宮の身近にいることを暗示する台詞となっていて聞き逃せない。

ただ、これだけで江藤が守谷であると結論付けるのは気が早い。第3話に登場し逮捕された守谷の関係者・市川利枝子(伊藤歩)ら複数人が拘置所から逃走した。小暮は市川の捜索を急ぐが、江藤の姿が見えない。江藤は、屋上でひとり「君が代」を歌っていた。

「君が代」の歌詞にはさまざまな解釈があるが、単純に現代語に訳し「主君がおさめているこの時代・世の中が末永く続いていきますように」という意味だと教わったことがある人は多いのではないだろうか。「主君」が守谷だと考えると、江藤もまた守谷を崇拝する人間ということになる。ただ、「主君」を自分に置き換えている線もないわけではない。

最終話には、市川や鵜飼のほか獅子雄の兄・万亀雄(高橋克典)も再登場するようだ(公式Twitterより)。ゲスト俳優も、かたせ梨乃、篠井英介、三浦誠己、渋谷謙人、北原里英と多数出演。誰が敵で誰が味方か、最後まで息がつけない展開になりそうだ。

「いつもあった何か」の欠落が予感させる別れの寂しさ


今回の演出は阿部博行が担当。今作では初めて名前を連ねた。ドラマ『モンテ・クリスト伯 ─華麗なる復讐─』、『鍵のかかった部屋』や、第30回ヤングシナリオ大賞受賞作の『ココア』(すべてフジテレビ系)に携わった演出家だ。

椋介を演じた俳優・浦上晟周は、『ココア』にも出演していた。事件解決後に獅子雄と若宮に頭を下げるときの演技に目を見張った。二人を見つめた後に一礼し、そのまま顔を伏せて車に乗り込む。

一礼した後にもその目を見せて、自分を印象付けたり、高校生のまっすぐさを表したりすることもできたはずだ。しかし、そうやって過剰に意思を主張せずに暗い車内に入っていったからこそ、騒動を起こした椋介の動機の素朴さが感じられた。彼は、ただ楽しくバスケットボールをしたかっただけだったのだから。20歳の浦上晟周の、若く細やかで気の利いた演技を見ることができた。

ところで、若宮が捜査のため一人でコーチの灰田(増田修一朗)の部屋に乗り込むシーンでの体育館の横断幕には「RUN AND GUN」とスローガンが書かれていた。バスケットボールでよく用いられる言葉で「速攻で一気にゴールを狙え」というような意味だ。そして、若宮を演じる岩田剛典のダンサーネームが「GUN(ガン)」である。獅子雄から独り立ちしようとする若宮を応援する言葉にも見えた。

横断幕までが阿部演出かはわからないが、『シャーロック』は本当に過去作やこうした細かい遊びを全力で楽しんでいるドラマだ。何度見ても気付きががあるような気がしてならない。

獅子雄のバイオリンのシーンは、前回はレストランの店内、今回は試合中のバスケットボールのコートという特殊な状況でも、欠かさずに登場してきた。若宮のモノローグもこれまでは冒頭とラストに必ずあったのだが、今回はラストシーンにはなかった。

若宮「遠ざかる背中を眺め思う。師弟関係とは違う、恩人とは認めたくない、ましてや相棒なんて呼ばれたくない。それでもいつの日か、この男に支配されたことは至福の時間だったと振り返るのだろうか」

「いつもあった何か」の欠落は、それだけで十分に寂しさ、悲しさを感じさせる。モノローグを欠かした若宮も、獅子雄の欠落を恐れている。獅子雄と若宮が挑む最後の事件は、今夜9時から放送予定だ。
(むらたえりか)

=配信サイト=
FOD:https://fod.fujitv.co.jp/s/genre/drama/ser4l20/
TVer:https://tver.jp/corner/f0040635

=作品情報=
『シャーロック:アントールドストーリーズ』(フジテレビ系)
10月7日(月)スタート 毎週月曜21:00〜21:54
出演:ディーン・フジオカ、岩田剛典、山田真歩、ゆうたろう、佐々木蔵之介ほか
原作:アーサー・コナン・ドイル『シャーロック・ホームズ』シリーズ
脚本:井上由美子
プロデュース:太田大
音楽:菅野祐悟
オープニングテーマ:DEAN FUJIOKA「Searching For The Ghost」(A-Sketch)
主題歌:DEAN FUJIOKA「Shelly」(A-Sketch)
演出:西谷弘、野田悠介、永山耕三
制作著作:フジテレビ
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/sherlock/