『おっさんずラブ-in the sky-』(テレビ朝日系)のその後を描く続編ドラマ『おっさんずラブ-in the sky-〜ゆく年くる年SP〜』前編が12月24日から、後編は25日から、Abema TVまたはビデオパスで配信されている。

前もって注意しておくと、本稿はネタバレありの内容。未見の方は、ぜひドラマをご覧になってからこのページに戻ってきてほしい。本編にがっかりした人ほど、今回のスピンオフは必見である。(関連)


動画を再生したら、ナレーションを担当しているのは四宮要(戸次重幸)だった。つまり、このSPは成瀬&四宮のカップル2人が主役ということ。

in the sky最終話の終盤、流れの中で成瀬竜(千葉雄大)と四宮はキスをした。もう、成瀬は四宮といい雰囲気になったと思い込んでいる。外出から寮に帰ってきた四宮を見つけた成瀬は、小悪魔っぽい表情で四宮に通せんぼした。一方の四宮は慎重派だ。成瀬の悪ふざけに付き合わず、ぷいっとスルーして成瀬を切なくさせてしまう。

成瀬の揺れる思いと、四宮の戸惑い。これが今回のテーマだ。

「四宮の望むものは?」の問いに成瀬が出した答えとは


まずは成瀬の視点に立って考察していきたい。悩める成瀬にアドバイスしたのは、ディスパッチャーの烏丸孫三郎(正名僕蔵)だった。
「相手にこうして欲しい、ああして欲しいということばっかりと求めていても、それはやっぱりただの一方通行! ここでクエスチョンです。成瀬君の想い人が望んでいるものとは、一体なんでしょうか?」

謎に恋愛偏差値高めな独身男によるアドバイスが、成瀬の背中を押した。四宮が望むこと、即ち好きなものとは……春田創一(田中圭)! というわけで「春田のように振る舞う」という安直な結論に達した成瀬は忘年会で四宮の前に座り、春田のまねをし続けた。「おかわりぃ〜!」と絶叫したり「豆腐、食べたかったんだよぉ〜ん!」と悶絶したり……。黒澤武蔵(吉田鋼太郎)でなくとも「はるたん、そんなんじゃねーよ!」とツッコみたくなる再現度の低さ。成瀬から見た春田があんなイメージなら、そりゃあ成瀬が春田を好きになることなんてなかったわ……。

成瀬の前なら出せる四宮の残念っぷり


気まずくなった四宮は、すき焼きを作ったのに卵を出していないことに気付き、席を外して冷蔵庫のほうに逃げた。しかし、人数分揃えていたはずの卵が1個足らない。前日、成瀬がグラタンに卵をかけて無断使用していたのだ。四宮はブチ切れた。

四宮 「すき焼きに卵なかったら何焼きだよ?」
成瀬 「知らねーよ! っるっせーな、買ってくればいいんでしょ?」
四宮 「(キムタク調で)ちょっ、待てよ! おい、うるせーって何だよ?」
成瀬 「うるせーからうるせーって言ったんだよ。小っちぇえことでグダグダ言うなよ! そんなに使われたくなかったら、今度から卵1個1個にマジックで名前書いとけよ!」
四宮 「ああ、次から書くわ! でも、今謝れ。今謝れよ!」

四宮が小っちゃい。こんな小っちゃいとは思わなかった。実は、ここがポイントなのだ。もしも春田が勝手に卵を食べていたとしても、たぶん四宮は怒らない。惚れた弱みがある。でも、成瀬は四宮の中でそこまで達していない。逆に言うと、四宮は春田に終始いいカッコをしていた。でも、成瀬には素が出せる。春田の前にいるときみたいに無理をしなくていい。卵ごときでケンカするほど無意識に気を許しているということだ。
「言いたいこと言い合えるのも仲いい証拠でしょ?」(根古)

本編では見たことのなかった四宮の残念っぷりが、2人の未来を感じさせるのだ。

成瀬への恋愛感情が全くない春田


卵を買い出しに行った成瀬は、偶然にもこの男と遭遇した。
「ハッピーニューイヤー」(春田)
登場の瞬間の春田の存在感と安心感が圧倒的過ぎてびびる。さすが、座長……。

成瀬は春田に恋愛相談をした。
「成瀬はさ、いつも急なんだよ、何でも。成瀬には成瀬のいいところがあるんだから、無理に、変に、何か変えようとか、ものまねみたいな変なことしなくていいから、成瀬は成瀬のまんまで、ちゃんとシノさんのこと見てればいいんじゃない? 時間はかかるかもしれないけど、待ってる時間も無駄じゃねえんじゃねえの? まあ、わかんねーけど」(春田)
「急なんだよ」ってどの口が言うのか!? とも思ったが、すでに春田は成瀬に恋愛感情がなく、仲間としての愛情に変わっているのだと痛感した。だから、成瀬が春田に恋愛相談しても違和感がなかったのだ。そして、成瀬が春田に向ける信頼感も伝わってきた。尽くしてくれた四宮よりほっとけない成瀬を選んだ春田と同じく、尽くしてくれる春田よりほっとけない四宮を成瀬は選んだ。古墳もグラタンも四宮も、成瀬は好きになったらとことんだ。

四宮と一緒なら古墳じゃなくてもいい


四宮は四宮で、偶然にもジョギング中の武蔵と遭遇していた。

四宮 「私はこれまで、10年近く恋を休んで来ておりました。それがこの短期間で心がふらふらし過ぎと言いましょうか……。そんな自分がどうしても許せないのです」
武蔵 「そのように自分を責めてはならんぞ! 恋というものはな、突然やって来るものさ。そして、2つ3つと連続してやって来ることもあるものじゃ。考えるな、感じろ。Don’t Think.Feel!」
四宮 「マスター・クロサワ、May the Force be with you」
武蔵 「フォースを感じるのだ。フォースを使うのだ」
四宮 「I Feel Force of the Universe!」

寮に戻った四宮は成瀬の顔を見てフォースを感じ、古墳を見ながら年またぎカウントダウンをするイベントに成瀬を誘った。そして、「忘年会の続きをやろう」(四宮)とお酒を飲みながら2人は夜を過ごすことに……。
翌日、成瀬が目を覚ましたら、大晦日はもう夕方を迎えていた。カウントダウンにはあまり時間がない。慌てた成瀬は四宮の布団を剥がして起こそうとする。四宮は「もうちょっとー!」とぐずった。2人は布団を引っ張り合い、勢いで成瀬は転倒。偶然にも成瀬は四宮と添い寝する態勢になった。寝顔を見て幸せそうな笑顔になった成瀬は、無理して四宮を起こすことをやめた。かつて、成瀬は「一緒にならばどこでもいいんですけど」と四宮に言ったことがある。大好きな古墳より、四宮を優先する成瀬。古墳を見に行くより四宮の横にいるほうが、成瀬は幸せなのだ。

未来を期待させ、完結に至らないままSPは終わりを迎えた。まさに、「おっさんずラブ」だ。10年恋を休んでいた四宮が“すんなり”ではなく“ゆっくり”成瀬に向き合っていくと予感させ、視聴者の想像の補完にトスする形で終幕した物語。置いてきぼりにされたからこそ浸ることができる余韻と多幸感。

『おっさんずラブ-in the sky-』は群像劇だった。でも、成瀬&四宮にピントを合わせることで、SPはならではの世界観を取り戻していたように思う。「地上波でもやればいいのに!」と思うほど秀逸な出来だった。いや、地上波だとここまでやりたい放題はできなかったかもしれない。
本編に納得しなかった人こそ、ぜひSPを観てほしい。このスピンオフがあってくれて本当に良かった。大きい声では言えないが、本編よりずっと良かった。
(寺西ジャジューカ)

『おっさんずラブ-in the sky-〜ゆく年くる年SP〜』
脚本:徳尾浩司
演出:瑠東東一郎、山本大輔、Yuki Saito
音楽:河野伸
主題歌:sumika『願い』(ソニー・ミュージックレーベルズ)
ゼネラルプロデューサー:三輪祐見子(テレビ朝日)
プロデューサー:貴島彩理(テレビ朝日)、神馬由季(アズバーズ)、松野千鶴子(アズバーズ)
制作著作:テレビ朝日
制作協力:アズバーズ
※『おっさんずラブ-in the sky-〜ゆく年くる年SP〜』の後編はビデオパスで配信中。