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僕はRPGが大好きだ。

最初にやったのは「ドラクエ3」だっただろうか。
バラモスを倒して世界を救ったと思ったら、まだ悪の親玉ゾーマがいる事を知り、小学生ながら味わった、あの絶望と興奮は忘れられない。

あれから30年。

ゲームもびっくりするくらい進化し、おじさんになり、環境も変わり、あの頃と同じ熱量でゲームをする事は無くなった。

しかし、あの頃とずっと変わってない事がひとつだけある。

主人公の名前を「よういち」にする事だ。
これだけは小学生の頃から守っている。
たまに主人公の名前が固定のRPGもあるが、僕はそれだと全然感情移入出来ないのだ。
多感な時期は、主人公の名前を友達に見られると恥ずかしいので「細川ふみえ」とか「YOSHIKI」とかにした時期もあったが、エンドロールと共に各地の王様から感謝の言葉を言われるYOSHIKIの姿を見て、二度とこのような事はしないと心に誓った。


僕は「よういち」じゃないとダメなのだ。

現実世界の陽一の代わりに


「よういち」は今まで数えきれない程の人々を救い、数えきれない程のモンスターを倒し、数えきれない程、人の家のタンスを開けてきた。
感情移入の問題と言っているが、書いている内に恐ろしい事に気付いてきた。

若い時は感情移入の為の「よういち」だったが、今は贖罪の為の「よういち」になっている。
現実世界の陽一が出来ない事を「よういち」にやらせて罪滅ぼしした気になってるのだ。
陽一は、数えきれない程の人を救うどころか、今まで数えきれない程の人に迷惑をかけ、『ろくでなしブルース』を26歳で読んだ為に人を殴った事すらない。

「よういち」との共通点は人の家のタンスを開ける事くらいだ。

よういち〜!!!
もう魔王なんてどうでもいい!
陽一を殺せ〜!よういち〜!

小松さんの主食を疑う


これ以上書くと、本当に自分がどっちかわからなくなりそうなので、この辺でやめておく。
皆様もゲームのやり過ぎに御注意を。

さて、どちらかのヨウイチによる本日のオジスタグラムはこちら。

本日のおじさんは、小松さん。
新宿でライブの打ち上げをして、先輩に連れていって貰った二軒目の店で出会った54歳のおじさんだ。


小松さんとの出会いは衝撃的だった。
野球好きが集まるとゆうそのバーは平日にも関わらず大盛況だった。
お店は広めのカウンターと、15人くらい囲めるであろうテーブル席が2つ。
どちらもいっぱいである。
テーブル席を詰めて貰い、我々4人がコの字に座ると、目の前には、鏡月と氷のいっぱい入った入れ物。緑茶が並ぶ。

ここから我々コウハイは緑茶ハイを作るバケモノと化す時間に入るのだ。
その時、先輩が誰かに気付く。

「おぉ! お久しぶりです!」

どうやら知り合いを見つけたらしい。目線の先には気のよさげなおじさんがいる。小松さんだ。
「ザー!ザッザザッザー!」

ん?

「小松さんー!一緒に飲みましょうよ!
こっち全員うちの後輩です。こちら、知り合いのおじさんの小松さん!」
「ザッザザッザーザー!」
「宜しくお願いします!」

僕は思わず、小松さんがつまんでる物を確認した。
小松さんは砂が主食じゃないと説明がつかないくらい声が掠れてるのだ。
テレビで天龍さんなどは見ていたが、ここまでの方を目の当たりにするのは初めてである。

「岡野と申します」
「ザッザーザゴマツザーザ!オザノグン!」
「じゃ、小松さん! 乾杯しましょ!」
「ザンパーイ!」

こうして砂が主食の小松さんとの夜が始まった。


最初は会話が聞き取れなすぎて、先輩の知り合いの方に失礼があったらどうしようとか思っていたが、そんな心配はすぐに吹き飛んだ。

飲んで30秒くらいで思う。
なんだこの人? めちゃくちゃ喋りやすい。

矛盾してるようだが、声はほぼ聞き取れないのに、凄く喋りやすいのだ。
愛嬌のある笑顔のせいなのだろうか、ボディータッチのせいなのだろうか、とにかく人間力が凄い。

出会って一分もしない内に僕は

「小松さんは外務大臣になるべきです」

とゆう謎の発言をして、少し小松さんを困らせてしまった事は反省しているが、とにかく僕はもう小松さんの虜なのだ。
運がいい事に、先輩達はまた別の知り合いの方と話している。

小松さんは僕のものだ。

オイ!ガザザザザ!


「えー!まじっすか!その声で少年サッカーのコーチやってるんですか!?」
「ザッザー!」
「いや、指示とか通らないでしょ!」
「オイ!ゴザ! ガバババ!」
「ケケケケ!」

人間とは本当に凄いもので、もう僕の耳はこの短時間で小松さんの言葉が聞き取れるようになるまで進化を果たした。

「オザノグン! ニンゲンツタエタイトオボッダラヅタワルモノヨ」
「……何ですって?」
「オイ!ガザザザザ!」

楽しい。

何だこの人?こんなどこの馬の骨かもわからない初対面のちょび髭にどこまで弄らせてくれるんだ?いや、弄らせられてる感じもする。
とにかく懐が深い。
まるで人間力が人間の形をしてるような人だ。

「声いつからそんなんなんですか?」
「ムカシヨ、ノドニポリープデキテヨ」
「あ、そうなんすね」
「イーゾー。デモゴレデ営業先ノヒトイッバヅデオボエテモラエルシナ。営業成績ダンドヅトップダモン」
「うわー!わかりますわー! 小松さんなら契約しちゃいますもん!」
「シャッキンアルヒト、オゴドワリダゲドネ!」
「褒めたのに!なんでだよ!」
「ザザ!ザザザザ!」
「ヘケケケ!」

冷静に考えれば、この主食砂声は人によっては物凄くコンプレックスになるかもしれない。
しかし、小松さんはこの声のお陰で仕事が順調だとザザザと笑い飛ばす。

めちゃくちゃ強いおじさんなのかと思えば、離婚した嫁との間にいる娘に彼氏が出来たらしいと心配して弱さを見せたり、鏡月のキャップのビロンってなった部分をデコピンして、取れた方が負けとゆう謎のゲームを教えてくれたりと、この人間の形をした人間力は留まることを知らない。

人間力とは曖昧な言葉で、僕もよくわかってはいないが、小松さんが人間力の塊である事は疑いようのない事実だ。
やはり、いくら顔が良かろうが、若かろうが、お金を持ってようが、この人間力の前には無力だ。

雨が降っていた


僕もどうやら今世は、顔も金も若さもないみたいなので小松さんみたいなおじさんを目指して生きて行こうと思う。

「オザノグン!ザッザーザザッザーはね、ザッザーザでね…。」

2時をまわり、小松さんの呂律がまわらなくなってきたので、今日は解散だ。

店を出ると雨が降っていた。

「うわー!最悪だなぁ」
「傘買ってきましょうか?」
「いーや、もう。走ろう」

雨にうたれてニヤニヤしてたのは僕だけだった。

「ザッザーザーザッザー」


(イラストと文/岡野陽一 タイトルデザイン/まつもとりえこ)