2月27日放送『科捜研の女』(テレビ朝日系)の第32話には、「マリコのネイルサロン」なる引きの強いサブタイトルが付けられていた。無論、榊マリコ(沢口靖子)がネイルサロンを開業するわけではない。

目当てのネイルストーンが欲しくて駄々をこねるマリコ


自室で刺殺されていた保険外交員の朝吹樹里(佐藤乃莉)。被害者宅にはパールのネイルストーンが落ちており、被害者の財布には「ラ・カージュ」というネイルサロンのメンバーズカードが入っていた。

手がかりを探すため、同店へ向かうマリコ。超美人なのにオシャレには無頓着な彼女。ネイルという未知の領域を前にし、妙にハイテンションになっているようだ。
「有機溶剤が揮発することで、着色剤を含んだ合成樹脂が爪に定着するんですね?」(マリコ)
語るだけ語って目の前にいるネイリストを無視し、自前のUVライトで勝手にジェルを固めるマリコ。彼女のハイテンションは、科学への好奇心が理由だった。ただただ通常運転のマリコ。マリコはオシャレに目覚めない。

「ラ・カージュ」店長・篠宮佐和(佐藤江梨子)が付けるネイルストーンが事件現場に落ちていたそれと同種と睨んだマリコは、自分にも同じストーンを付けてほしいとオーダーした。

佐和 「すいません……。これは在庫を切らせてしまって。こちらの金色のとかどうですか?」
マリコ 「いえ。これと同じがいいんです」
佐和 「……」

露骨に閉口する佐和。マリコの眼力に引いている。だって、「在庫がない」と言ったはずだから……。結果、マリコは佐和の爪からストーンをわざわざ剥がし、それを自分の爪に付けさせた。爪の追い剥ぎだ。「捜査に必要」だとか何かしら説明すればいいものを、彼女はなぜかそれをしない。事情を明かさずクレクレばかり言うマリコは、向こうからすればただのヤバい客である。しかも、そうまでして付けてもらったストーンを、科捜研に戻って速攻で根こそぎ剥がしにかかる非道っぷり。「みんな、鑑定するわよ!」とやりたい放題である。


オシャレ欲はビタイチ上がってないものの、ネイルと対峙したマリコのテンションが爆上がりしたのは事実だ。
「みんな、手を貸してくれるわよね?」(マリコ)
マニキュアが乾く速度を調べるため、科捜研メンバー全員に赤いネイルを塗る実験をマリコは提案、強行した。せいぜい、各人の指1本ずつくらいで十分なのに、10本の指全部を赤ネイルにしないと気の済まないマリコ。文字通り、手を貸してほしかったのだ。宇佐見裕也(風間トオル)も蒲原勇樹(石井一彰)が満更じゃなさそうだったからまだ良かったもけども。ただ、「より多くのサンプルが得たい」と言いつつ、自分の爪にだけ塗らないマリコはいかがなものか? パワハラと紙一重にも思えるが、相手がマリコだとなんだかんだ受け入れてしまうから不思議だ。まさに、マリコのネイルサロンである。

母性を否定した犯人の指先が母性を雄弁に語る


今回のテーマは「母と子」だった。

脅迫で人から金品をゆすりとろうとする悪行は、サスペンスドラマにおける死亡フラグになりやすい。事件を掘り下げるほど、被害者・樹里のクズな素性は露呈した。人の弱みを探しては、そこにつけ込んで恐喝を繰り返す毎日。ゆすりは彼女にとって生業だった。
樹里がターゲットにしたのは、「ラ・カージュ」常連客の三枝佳乃(藤田弓子)だ。佳乃とその娘・沙織(鳥居香菜)に血の繋がりはない。沙織の本当の実母は、樹里と更生保護施設からの付き合いで、前科二犯の真木英子(広岡由里子)だった。「こんな親の元で育つよりましだろう」と、英子は実の娘を手放していたのだ。それを知った樹里は「自分が犯罪者の娘であると沙織にばらすわよ?」と、佳乃から金を脅し取った。佳乃にとって、沙織と孫の真央(木村湖音)は大事な存在だ。樹里は佳乃の母性につけ込んだ。

樹里 「(沙織の)育ての母親、ゆすらない? 『お孫さんがいじめられちゃいますよ』とか言ってさ」
英子 「孫がいるんだ……」

自分の娘が孫を生んだと知り、英子は感慨深い表情になる。佳乃にプレッシャーをかけてほしいともちかける樹里を英子は刺殺した。

樹里 「どうして……?」
英子 「あなたにはわからないでしょうね」

幼き娘を捨てたものの、母性は捨てていなかった英子。人の弱みにつけ込む樹里に、その気持ちはわからなかった。

土門薫(内藤剛志)に逮捕される際、英子は律儀に凶器のナイフを提出した。なぜ、彼女は凶器を取っておいたのか。恐らく、佳乃が疑われたら名乗り出ようとしていたのではないか? 沙織への母性があるから、沙織の養母を救う準備をしていた。

佐和がネイルサロンを開業したのには理由がある。グレていた若い頃、万引きで補導された自分を引き取りに来た母は、その場で土下座をした。家業のバイク屋で働く母の指は油で汚れていた。佐和が指を扱うネイリストになったのは、母への罪滅ぼしだった。

取り調べで樹里を殺した理由を問われる英子。「娘と孫を守るためか?」という土門の質問を彼女は否定、「金を独り占めするため」と言い張った。自分の顔に手をやる英子をマジックミラー越しに見るマリコ。英子のネイルが所々剥げている。表情を隠す指先が英子の母性を暗喩していた。

エンディングは恒例のどもマリデートだ。

マリコ 「今回の事件では色んな女性の手を見た気がするわ」
土門 「時として、手は口より雄弁だからな」
マリコ 「子どもにとって、母親の手って一生特別なものなのかも」
土門 「なんだ。横浜のお母さんが恋しくなったのか?」
マリコ 「ん? さあ、どうかしら(笑)」

マリコの母・いずみ役を演じていたのは2018年に亡くなった女優の星由里子だ。でも、この世界でいずみは生きている。「母と子」がテーマのエピソードで、ドラマはきちんとそれを示した。

今夜放送の33話を含め、『科捜研の女』19シリーズはあと2話しか残っていない。通年放送の今シリーズ、木曜日の生活に今作はしっかり組み込まれていただけに、終わりが寂しい。
(寺西ジャジューカ イラスト/サイレントT@ワレワレハヒーローズ)

木曜ミステリー『科捜研の女』
ゼネラルプロデューサー:関拓也(テレビ朝日)
プロデューサー:藤崎絵三(テレビ朝日)、中尾亜由子(東映)、谷中寿成(東映)
監督:森本浩史、田崎竜太 ほか
脚本:戸田山雅司、櫻井武晴 ほか
制作:テレビ朝日、東映
主題歌:今井美樹「Hikari」(ユニバーサル ミュージック/Virgin Music)
※各話、放送後にテレ朝動画にて配信中