倉本聰・脚本「やすらぎの刻〜道」(テレビ朝日系・月〜金11時30分〜)第48週。

3月11日、ズバリの日程で放送された東日本大震災のエピソード。ニュースやワイドショーでも震災関連の特集が組まれていたが、そのどれよりも生々しく当時の記憶が呼び起こされた。


まさか公平の方が先に認知症に


久々の「道」パートは、根来公平(橋爪功)が長男の剛(田中哲司)に「お前はわしの子どもじゃない。三平兄さんの子どもなんじゃ」とバラしてしまった件から。

自分の本当の父親が、会ったこともない叔父(しかも自殺している)だと知らされたら、若い頃ならだいぶショックを受けるところだろうが、剛もだいぶいい大人なので大きな問題にはならなかった。

しかし問題は、こんな重大な話をしゃべってしまったと公平自身がまったく覚えていないということ。以前から、しの(風吹ジュン)に認知症の徴候が出ているんじゃないかと心配していたけど、公平の方が先にボケてしまうとは。

「時々、さざ波のようにボケが来て、言ったかどうか忘れるんだ」

息子と深刻な話をするのに、かつて不倫しかけたママのいる居酒屋に連れて行き、その上、ママのことを忘れかけている。公平の認知症はまあまあ進行しているようだ。

震災の衝撃を顔芸で表現


ここから一気に10年以上すっ飛ばして、東日本大震災に。

公平としのが相変わらず「ちょぼくれ」をうなっていると突然、大きな地震が。収まったと思って「大ナマズ」の件など、どうでもいい話をしていたら、テレビで津波の映像が流れてきて、想像以上の被害に衝撃を受ける。

あの日、直接被害を受けた被災地以外の人たちのリアルは、こんな感じだったのではないだろうか。

東日本大震災から9年が経ち、震災をテーマにした映画やドラマが多く作られてきたが、震災のすさまじさをどう表現するかというのは苦心するポイントだ。

CGを使ったり、模型を使ったり、実際のニュース映像を流したり、場合によっては関係のないイメージ映像で連想させたり……。

この「道」ではテレビ内も含め、直接的な津波の映像は一切ナシ。その代わりに映し出されていたのが、橋爪功と風吹ジュンがテレビを見ている顔。

言うなれば一番予算のかからない手法を選んでいるわけだが、そこは老優の顔芸のすさまじさよ。ヘタな映像を流すよりも遙かに生々しく、当時の記憶が蘇ってきた。

ただ、せっかく「ショッキングな映像を流さない」という演出方法をとっているのに、BGMが中島みゆきの「おはよう」というのはドラマチックすぎないだろうか。もうちょっとおとなしい曲の方が、橋爪功&風吹ジュンの名人級顔芸に集中できたと思うのだが。

息子のクソっぷりは公平の血だ……


東日本大震災が起こったことで、当然のごとく気になってくるのが、原発で働くために福島へと移住していった、しのぶ(清野菜名)一家の安否。

前作「やすらぎの郷」では、清野菜名演じるアザミが祖母とともに震災に遭い、津波に流されそうになる中、祖母の手を離してしまったというのが終盤の大きなテーマとなっていた。

この「道」もクライマックスに向けて、清野菜名がキーパーソンとなってきそうだ。

しのぶ一家と連絡が取れないままで家族みんなが暗くなっている中、突然やって来たのが、バブル期の輝きをいまだに引きずっている感バリバリな根来家の次男・竜(駿河太郎)。

「別の考え方すりゃ、これはどでかいビジネスチャンスだ。これから落ち着いたら復興ブームが来るだろ?」

バブル崩壊後、様々な事業に手を出しては失敗し続けてきたのに、ここにきてまだひと山当てようと画策している。そのクソっぷり&空気読めないっぷりがいっそ清々しい。

「道」ワールドにおいての“善”の象徴が世俗から逃れて山奥で暮らしていた鉄兵兄ちゃんだとすれば、“悪”の象徴はいつまでもバブリー脳な竜ということだろう。

家族を何よりも大事に考えている公平は、「里子の一家を心配して眠れん思いをしとる時にこいつは 一体 何を考えとる。ワシの腹ん中は煮えくり返った」と激怒。

その気持ちをくみ取ったかのように、剛が竜をぶん殴り「帰れ!」と家を追い出した。

「剛、よう言うた! お前の言うとおりじゃ!」

公平&剛 VS 竜という構図だが、本当に血がつながっている息子は竜。剛は三平の子だ。

これを「血のつながりだけが絆ではない」というエピソードだと考えることもできるが、それ以上に「血のつながりの業」も感じてしまった。

寡黙で真面目そうな剛が、かつての三平を思わせる一方、ペラペラよくしゃべる軽薄な竜は、若い頃の公平そっくりなのだ。

「別の生き物を見とるような気がした。こいつは一体、どうなっとるんじゃ」

……とか言ってたけど、あの軽薄さは思いっきり公平の血だよ。

しのぶたちの安否とともに、公平の認知症の進行具合も気になるところ。

ボケはじめてから10数年経つんだから、そりゃあボケも進行するってもんだが、そんな深刻なボケっぷりを、公平自身の言葉で冷静に解説するというメタ認知症ナレーションが新鮮だった。
(イラストと文/北村ヂン)

【配信サイト】
・Tver

『やすらぎの刻〜道』(テレビ朝日)
作: 倉本聰
演出:藤田明二、阿部雄一、池添博、唐木希浩
主題歌: 中島みゆき「進化樹」「離郷の歌」「慕情」「終り初物」「観音橋」
音楽:島健
チーフプロデューサー:五十嵐文郎(テレビ朝日)
プロデューサー:中込卓也(テレビ朝日)、服部宣之(テレビ朝日)、山形亮介(角川大映スタジオ)
制作協力:角川大映スタジオ
制作著作:テレビ朝日