2018年2月にバーチャルライバー(VTuber)としての活動をはじめ、3月には最初の歌動画を投稿。その後も既存曲のカバーだけでなく、ファンメイドによるイメージソングも数多く歌い、バーチャルライバーグループ「にじさんじ」の中でも特に積極的な音楽活動を続けてきた“でろーん”こと樋口楓がついにメジャーデビュー。
3月25日(水)、以前から憧れていたアニソンレーベルのLantisから、1stシングル「MARBLE」をリリースする。


エキレビ!では、約9か月ぶり3度目の樋口楓インタビューを実施。憧れのレーベルの一員となり、さらに広い世界へと歩みを進めるでろーんに、デビューシングル制作の裏話だけでなく、リアルとバーチャルの狭間に存在するバーチャルライバーとして、その歌声や生き様で実現したい想いについても語ってもらった。

音楽活動をすること自体、夢にも思ってなかった


──Lantisのアーティストとしてデビューすることは、樋口さんにとっては、以前から夢見ていたことだったのでしょうか? それとも、まったく想像もしなかったことですか?

樋口 私は『ラブライブ!』というアニメ(音楽制作はLantis)が大好きで、声優さんたちのライブを観る側、楽しませていただく側でした。だから、Lantisさんからデビューするどころか、音楽活動をすること自体、夢にも思ってなかったです。ただ、にじさんじのオーディションの情報をTwitterで見つけた時、もしここに入れたら、2、3人くらいの前とか本当に小規模でも良いから、ライブのようなことができるのかもしれない……。いつかできたら良いなという思いはありました。

──メジャーデビューのプロジェクトは、にじさんじを運営する「いちから」のスタッフに、樋口さん自身の希望やLantisへの思いを伝えたことから動き出したそうですね。夢にも思ってなかったことを、具体的に目指したいと思えるようになったきっかけなどがあれば教えてください。

樋口 ファンの皆さんが作って下さったファンメイドの曲を歌わせていただくようになったことですね。アニメの場合、キャラクターソングがリリースされて、その作品やキャラクターのファンの方が聴いたりすると思うんですけれど。ファンメイドの曲って、ある意味、そのVTuberのキャラクターソングでもあると思うんです。

──たしかに、そうですね。

樋口 ファンメイド曲の文化はVTuber界隈には広がっていったのですが、VTuberファンの方に限らず、もっと大勢の人に曲を聴いてもらい、VTuberという存在をより多くの人に知ってもらうにはどうしたら良いんだろうと考えた時、Lantisさんは作品と音楽を繋げるのがとても上手だから、Lantisさんと一緒に何かをできたら良いなと思うようになりました。そういった希望を運営さんに伝えたら、Lantisさんにアプローチしてくださったんです。


1曲目のテーマは「樋口楓の今までとこれから」


──デビューCDの制作がスタートした時、樋口さん自身が最初にやったことなどを教えてください。

樋口 どういったコンセプトのCDにして、3曲のそれぞれをどんな曲にするのかという構成を、ディレクターとお話ししながら作っていきました。でも、私がゼロから考えたのではなくて。最初にいただいたコンセプト案がすでに「樋口楓」のことを本当に理解してくださっている内容だったので、それに沿いながら、それぞれの曲をどういう曲調にしたいのかを話し合っていきました。

──ここからは、各収録曲について聞かせてください。タイトル曲でもある1曲目の「MARBLE」については、どのような印象を受けましたか?

樋口 最初にいただいた原案の曲調は今の「MARBLE」とはけっこう違っていて。同じロック調でしたが、もっとさわやかでキラキラした青春感のある曲でした。でも、この2年間、爽やかなことばかりだったわけではないので、もう少し泥臭い感じというか……。葛藤やもやもやも抱えながら、という方向性も入れて欲しいとお願いして、今の「MARBLE」になりました。

──Lantisチームと一緒に作った最初の曲ですが、樋口さんからのリクエストもかなり取り込まれた上で完成したのですね。

樋口 ディレクターやプロデューサーは、最初から「気になることがあったら言って下さい」と言ってくださっていて。わりと意見は出させていただいたと思います。常に、「これでいきます」という形ではなくて、「これでいいですか?」という感じで確認してくださるので、自分の意見もすごく伝えやすかったです。


──2曲目の「Sugar Shack」についても、曲や詞の最初の印象などを教えてください。

樋口 タイトルに「Sugar」と入ってるとおり、最初の歌詞案はもっと甘くて女の子っぽい感じだったんです。でも、私は全然甘くないし(笑)。アーティスト活動において、女の子っぽさを前面に出していこうとも思ってはいなくて。老若男女問わず、みんなに楽しんでもらえる歌にしたかったので、そのことをお伝えして、今のような歌詞や曲調に変えていただきました。

──「MARBLE」と「Sugar Shack」はどちらもテンション高く、勢いのある曲ですが、最初のコンセプト案では、1曲目と2曲目は、それぞれどういう曲にして、どういった変化をつけたいと考えていたのですか?

樋口 1曲目のテーマは「樋口楓の今までとこれから」で、2曲目は「ライブで、みんなで一緒に楽しめる曲」というテーマがありました。

──「Sugar Shack」はAメロからBメロ、BメロからCメロ、Cメロからサビと曲調がどんどん変化していきます。ライブなどで歌う際は、非常に難しそうな曲ですね。

樋口 でも、私がやりたかったことや伝えたかったことを1曲にギュッと詰め込んで下さった曲なので。「難しそうだな」というよりは、早くライブで歌って、みんなと一緒に盛り上がりたいという気持ちです。


「私にもできたのだから、君も大丈夫だよ」という思いを入れた


──3曲目の「For you」は、制作過程が非常に特殊で。作曲は、アニソン界を代表するアーティストの影山ヒロノブさん。詞は、ファンから募集したワードをいかしつつ、樋口さん自身が書いたそうですね。

樋口 コンセプト案の段階では、3曲目は「樋口楓が作る曲」みたいな感じで書かれていて。具体的にどうやって作るのかは決めないまま、1曲目、2曲目を録りました。その中で、Lantisのスタッフさんとさらに仲良くなり深い話もするようになって。「ファンのみんながいるからこそ、今の私がいるのだけれど、メジャーデビューすることで、もしかしたら、私が遠くに行っちゃうと感じる方がいるかもしれない。でも、そんなことはないんだよ、ということ伝えたい」みたいな話をして。「歌詞の募集をして、みんなで一つの曲を作れたら良いな」という気持ちを伝えたら、実行に移してくださったんです。

──ファンメイドの曲は、ファンが作ってくれた曲を樋口さんが歌うという形で作られてきたわけですが。メジャーデビューシングルで、ある意味、ファンメイドの曲以上に深い形でのファンとの共同制作が実現したのは面白いです。

樋口 ファンメイドの曲を作ってくださっているクリエイターさんには、それぞれに自分の中で思い描く樋口楓像があって。きっと彼らなりの譲れないものがあると思うんです。だから、曲だけ作ってもらって、歌詞は他の人から募集します、みたいな作り方は全然考えていませんでした。それに、ファンメイドの曲を歌わせていただいてきたのも、私の曲を作っていただけて嬉しい、だから歌わせていただきたいという感覚だったので。「For you」のような作り方は、Lantisさんとだからこそ実現できたというか……。「ファンとの関係性は、VTuberである樋口さんの普段の活動で紡がれてきたものだし、樋口さんの強みでもあるから、良いアイデアだと思う」と言っていただけて。本当に樋口楓やVTuberのことを理解してくださっているんだなということがめちゃくちゃ伝わってきました。


──完成した「For you」の歌詞は、どのような詞になっていると思いますか?

樋口 私は、みなさんが応援してくださったからこそ、ここに立っているので、みんなに「ありがとう」という気持ちを伝えたかったんです。あと、「でろーんを見て、勇気が出ました」と仰って下さる方もいるのですが、やっぱり、あと一歩、勇気の出ない方や、やる気スイッチがどこにあるのか分からない方もいらっしゃると思うので。そういう方の背中を押せるような「私にもできたのだから、君も大丈夫だよ」という思いを入れたつもりです。

──作曲担当が影山ヒロノブさんということを知った時の感想を教えてください。

樋口 スタッフさんが、別の担当アーティストさんに伝えるはずの企画なのに、間違えて私に伝えたのかなと思いました(笑)。影山さんは、本当にすごいレジェンドの方なので、嬉しかった分、プレッシャーも大きかったですが、私が伝えたい思いを素晴らしい形で曲に落とし込んでくださっていて。とても嬉しかったです。


「MARBLE」を手に入れた瞬間、秒でツイートして(笑)


──3曲のレコーディングを通して、樋口さん自身が成長を感じたり、今後への課題だと感じたりしたことなどはありましたか?

樋口 「For you」は、今まで私があまり挑戦してこなかったバラードで。レコーディングでは、3〜4時間くらいかけて今出せる実力は全部出せたのですが、歌の深さや色のつけ方などについては、まだまだ成長できる余地があると思っています。プロデューサーに感想を聞いた時も、「今の樋口さんの100%なのだからこれで良いと思う。これからアーティスト活動やVTuber活動、人生経験を積んでいけば、もっともっと色がつくようになるから、それも楽しみな1曲になったね」と言ってくださいました。私がみんなに伝えたい気持ちは、ずっと変わらず「ありがとう」なのですが、自分の技術などが成長したら、その「ありがとう」をもっと伝えられるというか……。いつか、心から納得のいく曲になるんじゃないかなと思っています。

──今回、Lantisのスタッフと初めて一緒に作品作りをしたわけですが。制作活動を通して、樋口さん自身に関して新たな発見などはありましたか?

樋口 「自己評価が本当に低いね」と言われました(笑)。「もっと自分のことを認めても良いんじゃない?」「周りから認められているからこそ、今、ここにいるんだよ」ということも、よく言ってくださいます。ただ、まだCDは出てないので、どういう評価になるのかなとか、何枚売れるのかなとかも気になるし。そもそも、本当にLantisさんから出るのかなって。

──まだ疑っていましたか(笑)。

樋口 実感が本当にないし、まだ不安な状態です(笑)。

──発売日の3月25日かフラゲ日の前日には、店頭に「MARBLE」のCDが並び、多くの人の手にも届くわけですが、当日はどんな気持ちで、どうやって過ごしていると思いますか?

樋口 全然手に取ってもらえなくて、ずっとお店に残ってたらどうしようとか思っちゃいますね(笑)。もちろん、たくさんの人に知ってもらえる良い機会になるという意味で楽しみではありますし。スタッフさんからも「良いCDになっているよ。胸を張っていいんだよ」とは言っていただいているんですけれど。それでもやっぱり、不安は大きいです。

──では、Twitterや配信のコメントなどで、「買ったよ」「聴いたよ」という報告や感想は、ぜひ欲しいですか?

樋口 「#でらんてぃす」というハッシュタグを付けて、手に入れた瞬間、秒でツイートして欲しいです(笑)。スマホに貼りついて、ずっとエゴサしてると思うので。

──最後に、「MARBLE」から始まるLantisアーティストとしての音楽活動に関して、樋口さんがこれからやっていきたいこと、実現したいことなどを教えてください。

樋口 二次元が好きな人で、三次元の人と会うのがちょっと苦手だったり。三次元の人と会うのは大丈夫だけど、二次元の文化には抵抗があったり。そういう人たちはいると思うのですが、私たちVTuberはちょうど間の次元にいる存在なので、その架け橋になれるような活動をしていきたいということは、ずっと思っています。偏見の目とかもまだあるし、今の技術ではできることできないこともありますが、時代が進んでいくにつれて、だんだんとそういったことも減っていくと思うので。アバターをかぶることへの抵抗感を無くしていけたら良いなって。自分の好きな姿でいられる時って、本当に気持ちが良いので。VTuberのような生き方もあるんだよってことを、アーティスト活動を通して、YouTubeでの活動を観て下さる方々だけでなく、もっと幅広い方々に知っていただける機会につながれば良いなと思っています。

──ファンとしての楽しさだけでなく、自分がVTuberになることの魅力なども伝えていきたいのですね。

樋口 VTuberになることだけでなく、アバターをかぶって生活することの楽しさ全般ですね。例えば、VR空間でチャットをしたりとか。

──樋口さんがVTuberとして活動する前からプレーしていて、そのゲームを広めるためににじさんじのオーディションを受けたとまで言っていたオンラインRPG 「マビノギ」も、VR空間ではないですが、アバターをかぶってファンタジー世界での生活や冒険を楽しむゲームですよね。そういう意味で、樋口さんの活動のモチベーションは、最初から本当にぶれてないなと、今、思いました。

樋口 そうですね(笑)。「マビノギ」は、服装も顔も目の色も種族もいろいろ変えられて、自分の好きな姿で遊べるゲームですし、私の中では今も本当に強い思いがあります。それに私は、アバターをかぶってVR空間内で会話をしたり、遊んだりすることがもっともっと日常的になる世界が来ると信じていて。さっきも言いましたが、自分の好きな姿でいることは本当に気持ちの良いことだし、アバターをかぶることで、いろいろなことにとらわれず過ごせるのは、自分にとって良い方向にも繋がると思っているんです。

(取材・文/丸本大輔)