「キングダム」では、顔の緊張のさせ方、主に口元の締り具合で見事に二役を演じる


2019年に公開され興収57億円を突破した映画「キングダム」。「週刊ヤングジャンプ」(集英社)で連載中の原泰久の大人気漫画の実写化で、中国の春秋戦国時代を舞台にしたスケールの大きな世界を中国ロケも行い、申し分ないエンターテインメント大作に仕立てあげている。

紀元前245年、天下の大将軍を目指す青年・信(山崎賢人/「崎」は「たつさき」)は、秦の王・えい政(吉沢亮)と出会い共に闘うことになる。映画は原作の1〜5巻にあたる「えい政との邂逅 - 王弟反乱編」を中心に描いている。えい政の弟・成きょう(本郷奏多)が王の座を狙ってクーデターを起こしえい政を追い詰めていく。長澤まさみ、橋本環奈、満島真之介、石橋蓮司、大沢たかお、要潤、高嶋政宏など華も技もあるスター俳優が大集合して見応えがあるが、なんといっても山崎賢人と吉沢亮が煌めいている。フレッシュさと情熱が画面いっぱいにみなぎるのである。


吉沢亮は二役を演じている。山崎演じる主人公・信と少年時代から共に大将軍になる大志を抱き剣術の稽古に励んでいた漂と、彼と顔がそっくりのえい政のふたり。彼らの違いをみごとに演じ分けていた。最初は、漂として、信と激しい剣術の稽古。山崎も吉沢もよく動く。そしてとても仲良さそうでいい感じ。

そののち、えい政は、やんちゃな漂とはまるで違う、凛として高貴な威厳あふれる雰囲気を醸して信の前に現れる。えい政と漂が同じ画面に登場する場面もあるが、顔は同じなのに育ってきた環境がまったく違うことをしっかり感じさせてくれた。下層の民として労働させられている信には野性的なのびやかさとガッツがあり、えい政は多くの民を率いる王様として堂々としている。天と地、高貴な王と下層の民の差をものすごい飛距離で見せる吉沢。顔の緊張のさせ方、主に口元の締り具合で、こんなに違って見せるとは……。

「なつぞら」で、俳優としての魅力が天から地までの極端な飛距離であることを証明


吉沢亮は数多いる若手イケメン俳優とは一線を画しているぞ、と思わせたのは「キングダム」だけではない。映画の公開と同じ、19年の4月に放送がはじまった朝ドラ「なつぞら」(NHK)でもそうだった。吉沢の俳優としての魅力が天から地までの極端な飛距離であることは「なつぞら」でも示されていた。

こちらでは広瀬すず演じる主人公なつの心の友・山田天陽というひとりの人物を演じたが、貧しいがために農業をしながら絵を描き続ける天陽の、あくまでも大地と共に生きる庶民性と、ひたすら絵を追求していった結果の神聖さ、つまり大地から天上までの距離の果てしなさを吉沢は表現した。

ネタバレになるが、ドラマの中盤、天陽が耕したじゃがいも畑で倒れ、天に召される場面はまるで神話。普通の男の子の人生が神話へと昇華する奇跡は吉沢が演じたからこそ可能になったと思う。


黙っていたら目立つのに、周囲にすごく配慮のできる俳優


そして「キングダム」のまるで生きてきた環境の違う二役。とりわけメインに演じるえい政。これもネタバレかもしれないが、じつは生い立ちが複雑で、母親が下賤の者で、それが弟の成きょうには気に入らない。正当に高貴な血筋を持つ者(自分)こそが国を継ぐにふさわしいと考えてクーデターを起こすのである。

だが、人間の価値は出自ではないことがえい政と成きょうを見ると感じられる。気高さをまっすぐ立つことで表現するえい政と、つねに斜めに構えねじれた心を感じさせる成きょう(本郷奏多の演技もすばらしい)。心の中が見た目に現れる。吉沢はかぶっていたマスクを取ったときも、前髪が乱れることなくさらりとなびくのである。信のほうはマスクを取ったとき髪の毛がくちゃっとなってしまうのに(それはそれで信らしくていい)。

吉沢の顔立ちはくっきりとしていて、きゅっと切れ上がった目尻は、高畠華宵の描く美少年のような、月岡芳年の浮世絵のようで(2015年に平泉の春の藤原祭りで義経をやっているが牛若丸、似合いそう)、現代の恋愛ものに出てくる普通の学生役よりは「リバース・エッジ」の眼帯をしている少年のような異端な役で生きるように思うが、ふつうのナイーブな学生役なども、まるでライトの明るさを徐々にフェードアウトさせていくように自然に演じてみせる。黙っていたら目立つのに、周囲にすごく配慮のできる俳優。



2020年に公開された「一度死んでみた」では存在感のない役という、吉沢にそれはさすがに無理でしょ!? というジャンルにも挑戦していた。自身のライトをフェードイン、全開にすると、いわゆる国宝級イケメンに変身するが、スイッチを徐々にフェードアウトしていくように顔の筋肉を緩め、日常生活に紛れ込むことのできる不思議な力のある俳優である。


「キングダム」の王様・えい政はどハマリで、思う存分、彼しかできない役を演じてみせた。どんなに高貴な役をやっても、喋り方がやや親しみやすいところも愛嬌がある。口跡はよく台詞は聞き取りやすく、アニメ「空の青さを知る人よ」での声の演技も自然にハマっていて(ここでも同じ役ながら十代と三十代の2パターンの演技を披露している)、自然に聞き取りやすい喋り方のできる俳優でもある。

デビュー10年目にあたる、昨年19年の吉沢は絶好調期であった。4月に「キングダム」公開、朝ドラ「なつぞら」(NHK)に出て注目され、その後、21年の大河ドラマ「青天を衝け」(NHK)に渋沢栄一役で主演も発表された。大河ドラマの主役はかなりの大抜擢である。「キングダム」も続編制作が発表された。 これからの吉沢亮の動きは見逃せない。
(木俣冬)