6月18日(木)からNetflixでの独占配信が始まっている長編アニメーション『泣きたい私は猫をかぶる』。不思議なお面の力で猫に変身できるようになった中学2年生の女の子「ムゲ」こと笹木美代が主人公のオリジナルストーリーで、愛知県常滑市を舞台に、本当の思いに気づけず、伝えることもできない少年少女たちの変化や成長などが描かれていく。

エキレビ!の佐藤順一監督&柴山智隆監督のWインタビュー後編では、エンディングまでのストーリーのネタバレも含みながら、作品に込めた思いなどを語ってもらった。『泣きたい私は猫をかぶる』の本編を未見の人は、ぜひNetflixで鑑賞後、この記事の続きを読んでほしい。

(対談前編はこちら)

登場人物たちの生っぽいセリフがすごく岡田さんらしい


──「岡田麿里さんの今書きたい物語」というのがこの作品の最初のコンセプトということですが、完成した脚本の中で「ここは岡田さんらしいな」と特に感じたことを教えてください。

柴山 僕は、以前、『心が叫びたがってるんだ。』(岡田が脚本を担当)でパート演出として参加させていただいたんですけれど。その時から、等身大に描かれている登場人物たちの生っぽいセリフがすごく良いなと思っていまして。それは本作でもしっかりと感じられて、すごく岡田さんらしいなと感じました。

──たしかに、岡田さんの描く人物は、青春真っ盛りの若者だろうと親世代の大人だろうと、とても生々しい印象があります。佐藤監督はいかがですか? 岡田さんとは(2006年の)『ARIA The NATURAL』(佐藤が監督、岡田が各話脚本を担当)からの長い付き合いもあると思うのですが。

佐藤 とはいえ、実際に岡田さんと同じ作品を作った機会は、そんなに多くはないんですけどね。岡田さんの作品を観てきて思っていたのは、明け透けだったり歯に衣着せぬ物言いだったりで、むき出しの感情を吐き出すキャラはいるんだけれど、基本どの人もピュアなんですよね。裏表がある人もピュアゆえにそうなんだ、みたいな感じがあって。わりとドロドロしたものやゲスいものを見せられるのかなと思っていたら、みんなすごくピュアで嫌いになれなかった、みたいなことが多いんです(笑)。今回もそういうところは特徴的でした。

ただ今回は、主人公たちにかなりフォーカスが当たっているため、大人達に関しては少し外に置かれている感じもあって。どちらかと言えば、子供たちにとっては邪魔というか、振り回してくる存在みたいな描かれ方も強かったかなと思うんです。そこに関しては、コンテの段階で少しアレンジを加えていて。大人たちもピュアなんだよ、みたいなところも見えるようにしています。

──大人にも大人なりの事情があるんだぞ、ということも描きたかったわけですね。

佐藤 この人にも何かがあったんだよ、と感じられるくらいのちょっとした何かを入れるようにしました。

柴山監督のコンテで特に印象的だったのは、ムゲとお母さんの回想


──本作はW監督という形で、コンテもお二人で分担して描かれたそうですが、佐藤監督は柴山監督の担当パートで、柴山監督は佐藤監督の担当パートで、特に印象深いシーンなどを教えてください。

佐藤 当然、コンテ作業に入る前に軽く打ち合わせはしているんですけれど、打ち合わせしたこと以外でも、すごく考えてプランニングする人なんだなということは強く感じましたね。

特に印象的だったのは、ムゲと実のお母さんの(斎藤)美紀さんとの回想シーンです。二人でちょっと遊びながらムゲに煮っ転がしを食べさせるところがあって。美紀さんとムゲは、当時はそれなりに楽しく親子をやっていて、こういう微笑ましいやりとりもあったんだよ、というのがしっかりと入っていたんです。そのシーンを見た時「ああ、そうそう!」と思ったんですよね。そうしてほしいとは言っていないのですが、ちゃんとキャラクターが愛されるような描写を入れてあるところが良いなと思いました。


柴山 やっぱり、キャラクターを愛してほしいという思いが強くて。過去にいろいろあったから今があるみたいなことは考えて、積み上げながら自分の中でキャラを作っていったところはあります。そのあたりが伝わっていて良かったです(笑)。

佐藤 ははは(笑)。

柴山 僕は、先ほど(前編で)もお話ししましたが、冒頭の登校シーンのコンテを見た時にけっこう衝撃がありまして。短いシーンの中でもムゲの性格や行動みたいなところがしっかりと示されていて、すごいなと思いました。

佐藤監督のコンテは、キャラクターの存在している感じがすごくあるんですよね。段取りどおりに進めている芝居ではなくて、そこに生きている存在としての芝居みたいなものがコンテに入っていて、とても勉強になりました。あとは、猫世界へ行った後、日之出がムゲを追いかけて、ロープウェイから飛び降りるシーンがあるんですけれど。

──猫から人間に戻れなくなったムゲを助けるために、日之出が猫店主やムゲを追いかけるシーンですね。

柴山 あそこは、佐藤さんにチェックしていただいたところなのですが、佐藤さんから「日之出をカッコよくしないで。カッコ悪く飛んでます」みたいな指示が書いてあったんです。あそこも、もしその言葉がなかったら、僕は日之出をカッコよくしていたかもしれないなって思ったんですよ。

──ヒロインを助けるカッコいい男の子っぽく描いていたかもしれないのですね。

柴山 そうなんです。でも、日之出っぽさみたいなところは、こういうところに出るんだなと思って。そこも勉強になりました。


──日之出は、何でもできる万能な子ではないというのも見せたい要素だったのですね。

佐藤 等身大感というか。そういう(普通の)子がムゲのために頑張っているところを見せたかったんです。

ムゲと日之出の恋が始まるところまでを本編できっちり見せる形になった


──本作は、非常に爽やかで前向きな形のハッピーエンドで幕を閉じました。ただ、岡田さんの作品の傾向として、ハッピーエンドだとしても、どこかに切なさや苦みなどが残っていることも多い印象があります。本作の結末は、最初からこのような方向性だったのでしょうか? それとも制作が進む中で変化してきたのでしょうか?

佐藤 最初の主人公が小学生だったバージョンの結末はけっこう苦かったです(笑)。

柴山 そうでしたね(笑)。

佐藤 ムゲに該当する子が10年後に成仏して終わるみたいな話で。本読みの時も議論したのですが、ムゲに感情移入して観てくれた人にとって、この結末は幸福なんだろうか、みたいなことは感じる結末でした。

──では、そこから本読み(脚本打ち合わせ)を重ねる中で、今の結末というか、観終わった後の多幸感が強い物語へ変化していったのですね。

佐藤 岡田さんの本も変わっていきましたし、終わりの方についてはコンテの段階でもアレンジが入っています。最終的に(完成版)は、ムゲと日之出の恋が実ったよというところで本編が終わり、家族や他の人たちのその後はエンディングパートで点描していますよね。でもシナリオだと、大人達の関係の修復も本編内で描かれる構成だったんです。本編の中で、よりきっちりと着地する物語になっていました。

──どこまでを本編の中で描き、どこからをエンディングで観せるのかをどのように決めたのか気になっていたのですが、佐藤監督がコンテを描く中で固めていったのですね。

佐藤 はい。ムゲと日之出の恋……まだ幼い恋ですが、それが始まるところまでを本編できっちり見せようという形になりました。

5.1チャンネルの音響での臨場感も、いつか体験していただきたい



──エンディングの点描のラスト、日之出がムゲに(ヒップアタックの)「日之出サンライズアタック」をするところも大好きなのですが、あれも佐藤監督のアイデアですか?

佐藤 あそこは、岡田さんのシナリオの中にあった気がします。

柴山 ラストに関しては、佐藤さんから、コンテの段階でアレンジするかもしれないという話を聞いていたので、僕は少しお客さん的な目線で「佐藤さんどうするんだろう」と思って楽しみにしていたところはありました(笑)。もっと家族の話の方にフォーカスしていくのかなとも思っていたんですけれど、(本編は)ムゲと日之出の関係を見せる形で着地していて。非常に気持ち良く終わっているなと思いました。

──最後にこの作品を観てくれた人たちへのメッセージをお願いします。

柴山 それぞれに事情を抱えたムゲや日之出、それに周りの大人たちのヒリヒリするような人間関係や意外な展開など、映画的な見どころもたくさんある作品になっていると思うので、それらを楽しんでもらえていたら嬉しいです。ぜひ、何度も観てください。

佐藤 ムゲや日之出たちだけでなく、大人たちにも「あ、その気持ちはわかるな」と感じるようなものをそれぞれに持たせています。例えば、1回観ていただいた時には、この作品が(心に)届かない人もいるかもしれないのですが、また後で観てもらうと「あ、これか!」と感じることもたくさんあると思うんです。そういう描き方の映画もあって良いだろうし、それこそが後々まで残る作品を作る意味でもあるので。もちろん、最初から楽しんで頂けるのがいちばん良いんですけどね(笑)。機会があれば何度も観ていただけると嬉しいです。あと、いろいろと状況が変わったら、皆さんと一緒に劇場でも観たいなという気持ちもありますので、まずはお家の中でたくさん観ていただけるとありがたいなと思っています。

──クライマックスの猫世界でのアクションなどは、大きなスクリーンでも観たいなと思いました。

佐藤 猫世界や常滑の町の描写などにもこだわっていますし。その世界の中に入り込むような感覚は、大きなスクリーンならではの特別なものですから、ぜひ実現したいですね。

柴山 5.1チャンネルの環境で観ると、音響も本当にすごいんですよ。

──私はPC用のモニターと安価なスピーカーで視聴しましたが、それでも窪田ミナさんの劇伴とヨルシカさんの主題歌や挿入歌は素晴らしかったです。いつか、映画館でのイベント上映などが実現することも楽しみにしています。

佐藤 そうなってほしいですね。

柴山 あの臨場感はぜひいつか、皆さんにも体験していただきたいです。
(丸本大輔)

作品情報


『泣きたい私は猫をかぶる』
2020年6月18日(木)より、Netflixで世界独占配信
配信URL


≪スタッフ≫
監督:佐藤順一、柴山智隆
脚本:岡田麿里
キャラクターデザイン:池田由美
演出:清水勇司
作画監督:加藤ふみ、横田匡史、永江彰浩、村山正直、薮本和彦、石川準、藤巻裕一、植村淳、小峰正頼、橋本尚典、石舘波子、加藤万由子、小野田貴之、田澤潮
美術監督:竹田悠介、益城貴昌
色彩設計:田中美穂
CGディレクター:さいとうつかさ
撮影監督:松井伸哉
編集:西山茂
音楽:窪田ミナ
主題歌:「花に亡霊」ヨルシカ(ユニバーサルJ)
企画:ツインエンジン
制作:スタジオコロリド
製作:「泣きたい私は猫をかぶる」製作委員会

≪キャスト≫
笹木美代(ムゲ)、太郎: 志田未来
日之出賢人:花江夏樹
深瀬頼子:寿美菜子
伊佐美正道:小野賢章
笹木洋治:千葉進歩
水谷薫:川澄綾子
斎藤美紀:大原さやか
坂口智也:浪川大輔
楠木先生:小木博明
猫店主:山寺宏一


(C)2020 「泣きたい私は猫をかぶる」製作委員会