相続が開始される時、多くの相続人は「被相続人の口座からお金が引き出せない」と心配になります。相続財産を確定させるため、相続開始以降、遺産分割協議が完了するまで銀行口座が凍結され、その間は預金を引き出せません。
 
協議がスムーズに進まないと、葬儀費用や被相続人によって扶養されていた配偶者などの生活費を引き出すことが難しくなりますが、このような場合に活用できるのが遺言代用信託です。
 
信託とは、財産管理・継承方法の一つであり、委託者が、自身の財産を契約によって信頼できる相手(受託者)に移転し、受託者は、契約において指定した人(受益者)のために、その目的に沿って財産を管理・処分する仕組みです。
 
遺言代用信託は、被相続人が委託者兼第一受益者となって、信託銀行などを受託者、配偶者など相続人を第二受益者と指定し、信託銀行などに預金を信託財産として移転することで、委託者の死後、配偶者などが銀行口座からお金を引き出せるようにするものです。
 
大きな特徴となるのが、信託財産は遺産分割協議の対象外となること。つまりこの仕組みを使えば、遺産分割協議を待たずとも、受益者に指定された相続人が所定の手続きで被相続人の財産を引き出すことが可能になります。遺言代用信託を扱っている信託銀行などはこれを一時金受取りプランとしています。
 
また、定期定額プランもあり、相続人である子が、まとまった金額を相続したものの浪費してしまいそうなケース、あるいは障がいのある子が自分で財産管理をするのが難しく、親が亡くなった後も年金のように長期間、毎月生活費が振り込まれるようにしたいといった希望を実現する手段として活用できます。
 

遺言代用信託とその他の仕組みとの比較

相続財産の移転については、他にも遺言、遺言信託、生命保険などを使った仕組みがあります。遺言代用信託とこれらの仕組みを比較してみましょう。
 
1.遺言
被相続人は遺言書によって相続財産の分割内容を指定することができますが、あくまで死亡後にその効力を発すること、また相続人全員が同意すれば遺言書と異なる内容が執行されることもあります。
 
そして遺言代用信託と違い、一般的に遺言では長期間振り込むといったことは実現できません。
 
2.遺言信託
遺言代用信託と最も混同されやすいのがこの遺言信託です。これは信託銀行などが提供している商品ですが、主なサービスとして、被相続人が有効な遺言書を作成するために事前に相談に乗る、場合により公正証書遺言作成の際に必要な証人となる、作成した遺言書を保管するといった遺言書作成支援・保管業務や、相続開始の通知を受けた後に遺言執行者として就任し、遺言内容に必要な手続きを取り、財産を分配するといった遺言執行業務があります。
 
これも契約内容はあくまで上記の2業務に限られるので遺言書以上のサービスができるわけではありません。また遺言代用信託と違い、信託銀行などへの信託金の移転はありません。
 
3.生命保険
原則、遺産分割協議の対象外という点で遺言代用信託と似ているのが生命保険です。死亡保険金は遺産分割協議の対象外であり、指定した受取人の固有の財産になります。
 
加入年齢に制限がある、手数料にあたる付加保険料が徴収されるといったデメリットがある一方、相続税の非課税枠が使えるといった遺言代用信託には無いメリットもあります。
 

遺言代用信託活用の留意点とは

遺言代用信託の活用にあたっては、
 
(1)信託財産は現金のみであり、不動産や株式などの有価証券は含まれない。
(2)遺産分割協議の対象外とは言え、遺留分を侵すことはできない。
(3)契約している信託銀行などは、相続税の申告・納税までは関与しないので、別途、税理士などに相談する必要がある。
(4)申込手数料、信託期間中の信託報酬など、コストがある程度かかる。
(5)原則、途中解約はできない。
 
など、留意点も多くあります。また、最低信託金額、受益者の設定など信託銀行などにより条件も異なりますので、しっかりと情報収集を行ったうえで賢く選択したいものです。
 
Text:藤丸 史果(ふじまる あやか)
ファイナンシャルプランナー