児童養護施設等を退所する高校生の中には、経済的事情を理由に進学をあきらめざるを得ない人もいます。すべての高校等の卒業者の約76%が大学等に進学するのに対して、児童養護施設等に入所している子どもの大学等進学率は約33%にすぎません。   この記事では、高校生の進学を後押しする支援策を2回に分けて解説します。今回は国・地方自治体の支援策についてお伝えします。

受験費用の支援策

受験費用には受験料、交通費、宿泊費などがあります。共通テストの受験料は、3教科以上1.8万円、2教科以下1.2万円です。国立大学の個別試験の受験料は1.7万円です。私立大学の受験料は1大学1学科あたり3〜3.5万円が目安です。
 
一般的に、受験生は複数の大学を受験します。例えば、国立大学1校と私立大学3校を受験した場合の受験料は14万円程度になります。
 
児童養護施設や児童自立支援施設、里親などで育つ高校生らは、受験費用を用意するためアルバイトをしながら準備し、受験校数も絞らなければいけない現状があります。
 
アルバイトができない児童養護施設等の高校生の中には、受験料が出せず受験をあきらめたり、レベルを下げて受験料のかからない推薦入試にする人もいます。
 
国や都道府県から教育費として「特別育成費」(月2〜3万円)などが支給されますが、高校の教育に必要な諸経費であって、授業料などに使われるため、複数校を受ける受験料を捻出するのは難しい状況があります。
 
日本学生支援機構では、児童養護施設等に在籍する令和6年3月に高等学校等を卒業予定の生徒に対し、受験に要する諸費用の支援制度を新たに始めました。
 
支援人数は年間2000名程度です。支援額は1人当たり年間20万円です。使途は、受験料と、受験の際の交通費、宿泊費等が想定されています。
 
募集期間は、2023年5月8日〜2024年2月末日(必着)です。早めに申し込みましょう。
 

進学後の学費・生活費の支援

日本学生支援機構の奨学金には、返還不要の「給付型」と返還が必要な「貸与型」があります。
 
さらに「貸与型」には、毎月一定額が振り込まれる無利子の「第一種奨学金」と、有利子の「第二種奨学金」、および一時金の有利子の「入学時特別増額貸与奨学金」があります。
 
奨学金を受給するには「家計基準」と「学力基準」の両方を満たすことが必要です。申込方法には、高校で申し込む「予約採用」と進学後に申し込む「在学採用」があります。
 
なお、未成年者(17歳以下の方)が奨学金に申し込むときは、親権者の同意が必要となりますが、事情により親権者の同意を得られない場合は、追加書類の提出により申し込みを受け付けてくれます。該当する場合は、学校へ申し出て手続きに必要な書類を受け取ってください。
 
まずは、返還不要の給付奨学金を検討しましょう。
 

●給付奨学金(予約採用)

【家計基準】
児童養護施設等の入所者等は、本人の所得・資産のみで判定し、低所得であれば、支援対象となります。
 
【学力基準】
(1)「高等学校等における全履修科目の評定平均値が、5段階評価で3.5以上」であること、(2)将来、社会で自立し、および活躍する目標をもって、進学しようとする大学等における学修意欲を有すること(学修意欲の確認は、高等学校等において、面談の実施またはレポートの提出等により行う)、のいずれかに該当すれば学力基準の要件を満たすものと判定されます。
 
【支給金額】
児童養護施設等から通学し、「自宅通学」扱いの学生は、支給金額の上乗せがあります。例えば、私立大学等に自宅から通学する場合、住民税非課税世帯の学生の給付月額は3万8300円ですが、児童養護施設等から通学する場合は4万2500円です。
 
なお、給付奨学金の対象者は、進学後、進学先の学校が定める期日までに申し込んだ学生であれば、授業料の他に入学金の免除または減額を受けることができます(高等教育の修学支援新制度)。
※入学後に「入学金」の減免を申請する場合は、入学後3ヶ月以内に進学先の学校に減免申請を行い、認定を受けた学生が対象です。
 

●貸与奨学金(予約採用)

給付奨学金では不足する場合は、貸与奨学金の併用を検討しましょう。貸与奨学金を申し込む際、保証制度の選択が必要です。「機関保証」を選択した場合には、連帯保証人・保証人の選任が不要ですのでご安心ください。「機関保証」を受けるためには一定の保証料の支払いが必要となり、原則としてJASSOが毎月の奨学金の貸与額から保証料を差し引いた金額を振り込みます。
 
なお、給付奨学金と併せて第一種奨学金の貸与を受ける場合、給付奨学金の支援区分等に応じて、第一種奨学金の貸与月額は調整されますので注意してください。
 
【家計基準】
奨学金を借りるためには、生計維持者(父母等)の収入の基準がありますが、児童養護施設等の高校生など社会的養護を必要とする人等は、父母等の収入に関係なく家計基準の要件を満たすものと判定されます。
 
【学力基準】
第一種奨学金のみ借りる、あるいは第一種奨学金と第二種奨学金の両方を借りるためには、「高等学校等における全履修科目の評定平均値が、5段階評価で3.5以上」などの学力基準を満たす必要があります。
 
ただし、児童養護施設等の高校生等は、将来社会で自立し、および活躍する目標をもって進学しようとする大学等における学修意欲(※)がある者として学校から推薦されれば、学力基準の要件を満たすものと判定されます。
(※)学修意欲の確認は、高等学校等において、面談の実施またはレポートの提出等により行います。
 

地方自治体の支援策

地方自治体の支援策もあります。例えば千葉県は、令和5年度に児童養護施設等退所児童に対する奨学金制度を創設しました。公共職業訓練施設も対象です。給付額は1人年額30万円(前期15万円、後期15万円)です。
 

まとめ

児童養護施設等の高校生は、大学等への進学を後押しする国の制度を活用しましょう。奨学金については日本学生支援機構のホームページの動画を見るとよいでしょう。また、日本学生支援機構ではスカラシップアドバイザーが児童養護施設等に派遣され、説明会を開催しています。職員の方はご検討ください。
 
また、奨学金の情報に関し、日本学生支援機構のホームページでも、国内の大学、短期大学が行う学内奨学金、授業料等の減免・徴収猶予制度および地方公共団体等(都道府県・市区町村・その他、奨学金事業実施団体等)が行う国内向け奨学金制度の情報を掲載していますので活用しましょう。
 

出典

文部科学省 学校基本調査(令和4年度) 

厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課 社会的養育の推進に向けて(令和4年3月31日)

厚生労働省 社会的養護

日本学生支援機構

日本学生支援機構 寄附金による「児童養護施設等の生徒への受験料等支援」の実施について

厚生労働省 養護施設入所児童等の高等学校への進学の実施について

千葉県 児童養護施設等退所児童に対する奨学金制度について

 
執筆者:新美昌也
ファイナンシャル・プランナー。