老齢年金は原則として65歳から受給することができますが、年金を受給しながら働いている人もいるでしょう。会社員や公務員は、毎月の給与から所得税が源泉徴収されており、勤務先の年末調整で本来の税額を確定させて過不足を精算するので、自ら確定申告をするケースは限られています。   しかし、年金を受給すると給与以外の所得を得ることになるため、確定申告が必要な場合があります。   年金と給与の両方の収入がある場合の確定申告について説明します。

給与所得がある人で確定申告が必要なケース

まず、給与所得がある人のうち、次に該当する場合は確定申告が必要です。
 

(1)給与の収入金額が2000万円を超える

(2)給与を1カ所から受けており、かつ、その給与の全額が源泉徴収の対象となる場合で、給与所得、退職所得を除く各種の所得金額の合計額が20万円を超える

(3)給与を2カ所以上から受けており、かつ、その給与の全部が源泉徴収の対象となる場合で、年末調整がされなかった給与の収入金額と各種所得金額(給与所得、退職所得を除く)の合計額が20万円を超える

(4)同族会社の役員やその親族などで、同族会社からの給与のほかに貸付金の利子、店舗・工場などの賃貸料、機械・器具の使用料などの支払いを受けた

(5)給与について災害減免法により、所得税等の源泉徴収税額の徴収猶予や還付を受けた

(6)在日の外国公館に勤務する人や家事使用人などで、給与の支払いを受ける際に所得税等を源泉徴収されないこととなっている

 
給与を受けている人で該当するケースが多いのは、上記の(2)または(3)でしょう。
 
一方、年金収入は雑所得(公的年金等)に該当しますので、給与所得以外の所得として扱う必要がありますが、年金受給者が確定申告を毎年行うのは負担になるかもしれません。そこで、年金受給者については確定申告不要制度が設けられています。
 

年金受給者の確定申告不要制度

年金受給者は次の2つの要件に該当する場合、確定申告が不要になります。
 

(1)公的年金等の収入金額の合計額が400万円以下であり、かつ、その全部が源泉徴収の対象となる

(2)公的年金等に係る雑所得以外の所得金額が20万円以下である

 
公的年金等は雑所得として所得税・住民税の課税対象です。そのため、受給額が一定金額以上になる場合は基本的に所得税と住民税が源泉徴収され、年金を受け取る時点で納税されています。
 
給与所得は、公的年金等に係る雑所得以外の所得に含まれます。年金を受給しながら働いている人は、確定申告不要制度の利用を検討する際に、給与を含めた年金以外の所得の合計額が20万円以下になるか確認しましょう。
 

給与所得の計算方法と給与所得控除額

給与所得とは勤務先から受ける給料、賃金、賞与などの所得で、次の式で計算します。
 
給与所得の金額=収入金額(源泉徴収される前の金額)−給与所得控除額
 
給与所得控除額は、事業所得などのように必要経費を引くことができない代わりに、給与等の収入から引くことができる金額で、所得税法により定められています。給与等の収入に応じた給与所得控除額は図表1のとおりです。
 
【図表1】
 

給与等の収入金額 給与所得控除額
162万5000円以下 55万円
162万5000円超、180万円以下 収入金額×40%−10万円
180万円超、360万円以下 収入金額×30%+8万円
360万円超、660万円以下 収入金額×20%+44万円
660万円超、850万円以下 収入金額×10%+110万円
850万円超 195万円(上限額)

 
※国税庁 「No.1410 給与所得控除」より筆者作成
 
年金を受給しながら働く人で確定申告不要制度の対象となるのは、年金と給与以外に収入がなく、給与所得が20万円以下の場合です。前述の給与所得の計算方法から、給与収入としては75万円(給与所得20万円+給与所得控除55万円)が目安となります。
 
そのため、年金収入が400万円以下でも給与収入が75万円を超えると、確定申告不要制度を利用することはできません。
 

まとめ

今回は年金受給者の確定申告が不要になる制度を紹介しましたが、医療費控除や寄附金控除、雑損控除などを受けたい場合は確定申告が必要となります。また、住民税の申告については所得税と扱いが異なりますので、お住まいの市区町村にご確認ください。
 

出典

国税庁 確定申告が必要な方

政府広報オンライン ご存じですか? 年金受給者の確定申告不要制度

国税庁 No.1400 給与所得

国税庁 No.1410 給与所得控除

 
執筆者:伊達寿和
CFP(R)認定者、1級ファイナンシャルプランニング技能士、相続アドバイザー協議会認定会員