「年金は当てにならない」「年金なんてどうせそんなにもらえない」と考えている人もいるかもしれません。会社員などが受け取る厚生年金の受給額は、現役時代の収入によって変わるため、年収が多ければ年金も多く受給できます。   しかし、標準的な年収でも、年金の受給開始時期を遅らせる繰下げ受給により、もらえる額をかなり増やすことも可能です。本記事では、年収500万円の人が年金の受給開始時期を遅らせると、どれくらいもらえるのか、解説します。

令和5年度の標準的な年金額

厚生労働省によると、会社員が平均的な収入(賞与含む月額43万9000円)で40年間就業した際に、夫婦2人が65歳以降に受け取る年金の水準は月額で22万4482円です。
 
これは夫婦2人分ですので、仮に妻が専業主婦だと仮定すると、夫の老齢基礎年金と老齢厚生年金、妻の老齢基礎年金の合計です。22万4482円を細かく分けると次のとおりです。


・夫の老齢基礎年金:6万6250円
・妻の老齢基礎年金:6万6250円
・夫の老齢厚生年金:9万1982円

平均的な収入の月額43万9000円ともらえる年金額の22万4482円はともに月額ですので、1年分に換算すると、年収が526万8000円の人は、年金としては年間269万3784円受け取れます。
 

年金の繰下げ受給について

標準的な年収の人は、65歳以降夫婦で年間約269万円が年金受給額です。ただ、年金は65歳で受け取らず、66歳以降75歳まで1ヶ月単位で受給開始時期を繰り下げられます。そして、1ヶ月繰り下げる度に、65歳で受け取るはずだった年金額に0.7%が増額されます。
 
例えば、66歳では8.4%、70歳では42.0%、75歳では84.0%などです。また、繰下げは老齢基礎年金と老齢厚生年金で別々に選択が可能です。
 

繰り下げのシミュレーション

これまで見てきた夫婦の年金額が繰り下げによってどう変わるのかを見ていきましょう。夫の老齢基礎年金、妻の老齢基礎年金、夫の老齢厚生年金について、すべて65歳、70歳、75歳で受け取り始めた場合の年金額は図表1のとおりです。
 
図表1

65歳 70歳 75歳
夫の老齢基礎年金(月額) 6万6250円 9万4075円 12万1900円
妻の老齢基礎年金(月額) 6万6250円 9万4075円 12万1900円
夫の老齢厚生年金(月額) 9万1982円 13万614円 16万9247円
合計(月額) 22万4482円 31万8764円 41万3047円
合計(年額) 269万3784円 382万5173円 495万6563円

厚生労働省 令和5年度の年金額改定についてお知らせします
日本年金機構 年金の繰下げ受給を基に作成
 
65歳で受け取り始めると年間で300万円未満だったにもかかわらず、すべてを75歳で受け取ると500万円に届くほど増えることが分かりました。
 
しかし、受給時期を遅らせると、年金を受け取るまでの期間の生活費は貯蓄を切り崩すか、働くしかありません。働いても全額生活費をカバーできない場合は、夫の老齢基礎年金のみを受け取り、他は繰り下げるなどの対応を検討しましょう。
 
夫の老齢基礎年金のみを65歳から受け取り、他を繰り下げた場合の年金額は図表2のとおりです。
 
図表2

65歳 70歳 75歳
夫の老齢基礎年金(月額) 6万6250円 6万6250円 6万6250円
妻の老齢基礎年金(月額) 6万6250円 9万4075円 12万1900円
夫の老齢厚生年金(月額) 9万1982円 13万614円 16万9247円
合計(月額) 22万4482円 29万939円 35万7397円
合計(年額) 269万3784円 349万1273円 428万8763円

厚生労働省 令和5年度の年金額改定についてお知らせします
日本年金機構 年金の繰下げ受給を基に作成
 
こうすると、70歳、75歳から受け取れる年金額は確かに減ってしまいますが、65歳以降は6万6250円を生活費にあてられます。
 

まとめ

標準的な年収でも、繰下げ受給を活用すれば500万円程度の年金額を受け取ることは可能です。とはいえ、年金を受け取り始めるまでの生活費を工面する必要があり、また、年金を受け取り始めて、すぐに亡くなってしまうと、ほとんど受け取れなかったということになるかもしれません。
 
繰下げ受給は年金額を増やす有効な手段ですが、生活費や働き方、貯蓄、健康面などを踏まえ、どのようにするか、じゅうぶん検討しましょう。
 

出典

厚生労働省 令和5年度の年金額改定についてお知らせします
日本年金機構 年金の繰下げ受給
 
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部
ファイナンシャルプランナー