厚生年金と国民年金の老齢給付は、原則65歳から受給することが可能です。しかし、受給額は低くなるものの最短で60歳からの繰上げ受給をすることもできます。   60歳で定年退職を迎え、65歳まで定年後再雇用などで働き続ける会社員などの場合は定年退職を境に収入が大きく減少する傾向があるため、その減少額を年金で補いたくなりますが、そこに問題はないのでしょうか?

60歳以降は収入が大きく変化

会社員は定年退職を境に収入が減少に転じるのが一般的です。以前は、定年後再雇用などで収入が25%を超えて低下した場合は高年齢雇用継続給付による補助を受けることができましたが、高年齢雇用継続給付は将来的には廃止が決定しており、補助は2025年度から段階的に打ち切られていきます。
 
高年齢雇用継続給付の代わりに60歳から老齢給付を繰上げ受給するという方法もありますが、繰上げ受給を選んだ場合の特徴と注意点を把握しておきましょう。
 

繰上げ受給の特徴・注意点

繰上げ受給では、本来、65歳から受給される厚生年金・国民年金の老齢給付を、最大5年間(60ヶ月)前倒しすることができます。前倒し期間は1ヶ月単位で、減額率は0.4%(1962年4月2日以降誕生の場合)となり、60歳まで繰上げた場合は受給額の24%が一生涯にわたって減額されることになります。
 
繰上げ受給をする場合は厚生年金と国民年金の両方を同時に繰上げる必要があり、繰下げ受給のようにどちらか一方だけを遅らせることはできないため注意しましょう。
 
また、繰上げ受給している方が亡くなった場合の遺族厚生年金の算定ですが、遺族厚生年金の給付額の算定は「繰上げ受給が行われなかった場合の給付額」が基準になるので遺族には影響が及ばないようになっています。
 

60歳からの受給もアリだが長生きリスクに備えよう

例えば、厚生年金と国民年金の老齢給付が月額約15万8000円の場合、60歳に繰上げ受給したときには24%減の月額約12万円になります。
 
年間45万6000円の減額となるため、一見60歳からの繰上げ受給はデメリットが大きいと感じがちですが、5年間早く受給できるメリットは意外と大きく、65歳までで約722万円を受給することができるため、65歳から受給した場合との損益分岐は81歳時点となります。
 
つまり、60歳から繰上げ受給した場合、81歳までは繰上げ受給の方が総額的にはお得なため、男性の平均寿命までであれば繰り上げ受給を選ぶ方がメリットが大きいといえます。
 
しかし、81歳を過ぎるに従い赤字額が徐々に大きくなっていくため、長寿化により老後の資金が枯渇するという長生きリスクには意識を向けておく必要があります。
 

まとめ〜男性平均寿命までであれば繰上げ返済にメリットが〜

60歳から繰上げ受給した場合、65歳時から受け取る場合と比べ24%減額されますが、モデルケースの年金額の場合は、損益分岐が81歳なので男性の平均寿命までならば受取総額を大きくすることができます。
 
定年退職などで収入が大きく減少する場合は繰上げ受給の方がメリットが大きくなる可能性があります。
 
一方で81歳以降は徐々に赤字額が大きくなるデメリットがあるため、繰上げ受給を選ぶ場合は長生きリスクに備える必要があります。退職金を残しておいたり給与+老齢給付の一部を老後の貯蓄に回したりするなどしておくようにしましょう。
 
執筆者:菊原浩司
FPオフィス Conserve&Investment代表