パートで働く主婦にとって、年収の壁は気になるものです。「扶養内」を維持するために、年末近くになると収入を調整する方が増える一方で、繁忙期に貴重な働き手不足に苦慮する経営者が多いのも現実です。   働く側にとっての税負担と社会保険適用の概要とともに、こうした背景をもとに始まった国の対応策「年収の壁・支援強化パッケージ」について紹介します。

「年収の壁」とは。税金と社会保険では基準が異なる

さまざまな働き方があるなかで、配偶者の扶養範囲内で働くという選択肢があります。ここでは会社員の夫が扶養者(扶養する人)、パートで働く妻を被扶養者(扶養される人)と想定して記述しています。
 
妻は、被扶養者となることで健康保険や厚生年金保険料などの社会保険料が免除され、扶養する夫は、配偶者控除(もしくは配偶者特別控除)の所得控除適用により所得税や住民税の税負担が軽減されます。
 
扶養範囲内で妻が働くことで、少しでも家計収入がアップすれば余裕ができますし、とくに子育てなど時間に制限ある世代では、メリットの多い働き方と言えるでしょう。それだけに、働いても税や社会保険料の負担によってむしろ手取り収入が減少してしまうことは避けたいものです。
 

税金面と社会保険、それぞれの「年収の壁」

一般的に「年収の壁」と呼ばれ、働き方をコントロールする基準となるのが、税金面の「103万円」と社会保険での「106万円」や「130万円」です。まずは、税金面と社会保険は基準が異なることを理解しておく必要があります。
 
ちなみに、住民税については、基礎控除の金額が所得税と異なる点、税額控除が適用されるため、年収の壁は「100万円」となります。
 

パートタイム(短時間労働者)の社会保険への加入条件

また、それぞれの相違点として、税金面では、その年が終了した時点での収入金額をもとに課税されるのに対し、社会保険は、雇用契約の時点で加入の可否を判定します。パートなど短時間労働者は、以下の5つの項目すべてに該当する場合、社会保険への加入が義務付けられます。


(1)1週間の所定労働時間が20時間以上
(2)2ヶ月を超える雇用の見込みがある(フルタイムと同様)
(3)月額の賃金が8.8万円を超える
(4)学生ではない(夜間学生、通信制は除く)
(5)従業員101人以上の企業(特定適用事業所)に勤務している

※2024年10月以降は51人以上の企業に範囲拡大

上記(3)の月額賃金を年単位で計算すると、105万6000円(8万8000円×12)となり、これが「106万円の壁」の根拠です。
 
これまでは、月額賃金10万8000円(年額129万6000円)が基準であったため、「130万円の壁」が一般的でしたが、法改正とともに、適用される事業所の規模が順次拡大しており、勤務先により基準が異なるのが現状です。
 
なお、2024年10月以降もこれまで通り、年額130万円を超える働き方の場合には、小規模事業者を含め事業規模に関わらず社会保険への加入義務があることに変わりありません。つまり「130万円の壁」がなくなる訳ではありません。
 

例えば、1年間の収入が105万円であった場合

仮に、1月1日から12月31日まで1年間の収入が105万円であった場合、基礎控除のほかに生命保険料控除など他の所得控除が適用されなければ、非課税限度額を超えた2万円に対して所得税を納付することになりますが、いずれの事業規模であっても、社会保険はそのまま扶養内で継続します。
 

一時的であれば、収入が増えても、税負担は発生するものの扶養内のままでいられる

社会保険について、基準の範囲内であれば問題ないのですが、突発的な残業に対応し、翌月の給与が基準を超えることも考えられます。この場合、即座に社会保険上の扶養から外れる訳ではありません。会社の繁忙期で出勤日が増えたとしても同様です。
 
ただし、原則として、3ヶ月連続で基準を超えると、社会保険加入とともに、夫の扶養から外れる手続きを行う必要性が生じます。
 
社会保険に加入することで将来の老齢厚生年金が増えるという期待がもてる一方で、健康保険料と厚生年金保険料合わせて年間15万円近くの負担と考えると悩ましいですね。
 

妻の働き方は、夫の勤務先での手続きにも影響

被扶養者(妻)の働き方は、扶養者(夫)の会社での手続きにも影響します。妻が勤務先で社会保険に加入すると、夫の勤務先では脱退の手続きを行うことになります。
 
注意すべきは、継続的に収入が増えているにもかかわらず、社会保険加入の手続きを行わず、夫の会社にも連絡をしていない場合です。年末調整の提出書類などで配偶者の所得金額が基準を超えていることが判明した場合、過去数ヶ月分の給与明細の提出を求められ、さかのぼって扶養不適用の手続きが行われるケースもあります。
 
なお、「配偶者手当」など会社独自の制度がある場合には、前述の税金や社会保険だけでなく、あらかじめ支給要件などを確認しておくことをおすすめします。
 

国の対応策「年収の壁・支援強化パッケージ」

パートタイマーの働き方調整、雇用主の人手不足解消、配偶者の勤務先での判断基準といった課題の解決策として、国も動いています。2023年10月にスタートした「年収の壁・支援強化パッケージ」では、年収の壁を意識せずに働ける環境をめざし、助成と仕組みづくりの2本柱での支援が発表されています。
 
前述のとおり、繁忙期などで一時的に収入が増え、130万円(規模によっては106万円)の壁を超えた場合でも、扶養が認められますが、その判断は夫の勤務する会社に委ねられ、事務処理上、実際の働き方に沿った対応ができていないなど不明瞭な点や不公平があると指摘されてきました。


「年収の壁・支援強化パッケージ」概要(厚生労働省)

あらたに社会保険に加入したパート社員に対し、社会保険料負担分の手当支給や賃上げなど手取り収入を減らさない取り組みを実施する事業者への助成

パートなどで働く方が繁忙期などに収入が一時的に上がったとしても、事業者がその旨を証明することで、引き続き被扶養者認定が可能となる仕組みづくり

現時点で、事業規模100人以下の企業にお勤めで、一時的に収入が増加し、今年の年収が130万円を超えそうといった方の場合、収入の増加が一時的であることの証明がもらえるのか勤務先に問い合わせてみるとよいでしょう。受け取った証明書を夫の勤務先に提出することで、引き続き、被扶養者として認められるという仕組みです。
 
ただし、2025年度末までの時限措置であり、企業側がどこまで対応できるのか不明確であることは否めません。
 

まとめ

繁忙期などでシフトが増え、パート収入が枠を超えても、税負担は生じるものの、一時的であれば扶養内のままでいられます。ただし、継続的である場合には注意が必要です。
 
今後の働き方については、夫(扶養者)の会社規定や、収入基準引き下げの適用が今後拡大することをふまえ、さまざまな面から総合的に考えてみることをおすすめします。
 

出典

厚生労働省「年収の壁・支援強化パッケージ」
 
執筆者:大竹麻佐子
CFP🄬認定者・相続診断士