相続対策の依頼をいただくことが増えてきました。しかし、なぜかギリギリのご依頼が多く、ご希望に添えないこともあります。   確かに「親が納得しない」ということで、専門家への相談がギリギリになってしまうことは往々にしてあります。だからといって、対策をしないのはナンセンス。まずは財産の棚卸をして、親と対話してみてください。   もし、親の判断能力が低下していたら、せめて兄弟姉妹間で話し合い、相続発生後、もめないように「仮対策(準備)」をしてみてはいかがでしょうか?  

手始めに、保険の棚卸をしてみませんか?

今の70代〜80代の方は保険が大好きです。高度成長期に成人していたので「おつきあい」で保険に加入をしていた方も多く、無駄な保険を持っている場合もあるようです。まずは、終活・相続対策の手始めとして「保険の棚卸」をしてみませんか? これを機に、親・自分・家族分の棚卸をしてみるのも良いかと思います。
 
以下は、先日ご相談のあった案件です。母Aさんの相続対策でAさんの保険の見直しを行いました。親子といえども、保険についてしっかり話し合いをしていないもの。やはり今回、いくつかの問題点がみつかりました。
 
<Aさんについて>
ご本人  Aさん
配偶者  夫・2017年に死亡
相続人  長女・長男・次男
財産   自宅/アパート/保険/証券/預貯金
 

 
Aさんの保険の棚卸を行ったところ、見つかった問題点は下記のものです。
(1)保険受取人が長女に集中している。
(2)亡くなった夫が受取人の保険がまだある。
(3)アパートの建築時に、ローンをした次男名義の保険がまだあり、ローンが返済された今も保険料の支払いが継続されている。
 

保険受取人が長女に集中している

まず、相続における保険を利用した節税対策があります。相続人一人につき、500万円まで。Aさんのケースにおいては、500万円×3=1500万円までは、相続税が非課税となります。ですから、子どもにお金を残してあげたい場合、現金で遺すのではなく、保険を利用し非課税枠内で遺してあげたほうがお得なケースがあります。
 
相続の場面において保険金の「受取人」は、契約書に記名されている、個人固有の財産です。ですから、このままいくと、長女に保険金が集中します。Aさんに理由をたずねると「息子たちには不動産管理をしてもらいたいので、娘には現金を残したい」というご希望でした。
 
しかし、ここでも問題が3点。
 
■意思を遺してないとわからない
今回は保険の棚卸をしたことにより、Aさんのお気持ちはわかりましたが、その意思を形にしなければ相手には伝わりません。本意を直接伝えるか、遺言書・エンディングノートで想いを遺すことが重要です。
 
■不動産物件は、老朽化で修繕にお金がかかりそう
長男・次男に確認したら「修繕費に回す預貯金はない」とのこと。「それなら、不動産より現金をもらいたい」という意向でした。
 
■争族の火種に
今のままで相続が開始されると、長女には不動産権利もありますから、争族の種になるでしょう。万全にするには、遺言書を作成することです。
 

亡くなった夫が保険金の受取人のままである

保険Dは、夫が生前に夫婦それぞれの名義で加入したものの一部だそうです。なので、うっかり名義変更を忘れていたとのこと。今回は、長男と次男に半分ずつ分け「受取人」の変更の手続きをしました。仮に、このまま相続へ突入してしまった際はどうなるのでしょうか?
 
受取人「夫」が死亡している場合は、その相続人が「受取人」を引き継ぐことになります。Aさん一家の場合ですと、配偶者Aさん・長女・長男・次男の4人です。しかし、Aさんが死亡した時に発生する保険ですから、子ども3人で分けることになります。
 

不動産担保ローンの時にかけた保険

多くの方は、不動産担保ローンを組む際に、併せて借入者の死亡リスクのために、死亡保険に加入するものです。金融機関によっては「団体信用保険」の加入がついているようですが、そうでない場合もあります。Aさんのケースは後者でした。
 
保険Fは、現在55歳になる次男が、20代の時に加入した保険で、すでにローンの返済は終わっています。しかも、まだ保険を払い続けているとのこと。正直、無意味ではないでしょうか。この保険の死亡保障が支払われる際は以下の場合です。
 
■次男が死亡した際に、Aさんに2000万円が支払われます。
■もしAさんが亡くなったら、相続人である子どもへ。しかし、次男が死亡しないと支払われないので、長女か長男が「受取人」に。
■しかし、次男が最後まで生きていた場合は、代襲相続となります。長女には子どもがいないので、長男の子どもに支払われます。
 
Aさんは数年前に保険の見直しをした際に、利率の高いこの商品は解約しなかったそうです。しかし、問題はそこではありません。当初の目的(次男の死亡リスク)を達成したのですから、この保険は加入継続をする意味はありません。
 

保険は受取人が「本人」では非課税にならない

多くのケースにおいては、不動産担保でローンを組む場合は、掛け捨てタイプの保険に加入するようですが、今回のような保険に加入している場合もあります。またこの保険、相続シーンにおいては、まだ問題があります。
 
保険Fは受取人がAさん本人です。この場合は、生命保険の非課税枠の対象になりません。解約返戻金が相続の評価額となります。相続人の同意があれば解約はできます。その場合、「解約返戻金」が戻ります。その額が、現時点で約580万円です。その金額が、相続の対象となってしまうのです。
 
今回はこちらを解約し、解約返戻金でアパートの修繕を行い、残りで長男と次男が受取人となる保険に加入する予定です。
 
この棚卸を機に、Aさんご自身から「遺言書の作成」のお申し出がありました。FP(ファイナンシャルプランナー)であり、相続診断士、終活カウンセラーの私が介入させていただいたことにより、Aさんのお気持ちもほぐれ、財産管理に前向きになられました。相続対策が困難な場合は「保険の棚卸」から入るのは、案外オススメだと思います。
 
執筆者:寺門美和子
ファイナンシャルプランナー、相続診断士

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