老後2000万円問題を契機に、世の中で貯蓄熱が急速に高まっているようです。資産運用セミナーなども活況で、参加希望者が募集を大幅に上回るケースが増えているとの報道もあります。しかし、老後の問題は「お金が足りない」ということだけではありません。他にも考えておきたい多くの問題があるのです。  

G20でも取り上げられた、高齢者と金融の問題

6月末に大阪で開催されたG20は、空前の警備体制や交通規制などもあって、大きく注目を集めました。その中で、あまり報道はされませんでしたが、「G20福岡ポリシー・プライオリティ」(※)というものが承認されました。
 
これは、高齢者が金融の面で弱者とならないように、8つの取り組むべき優先項目を提言したものです。高齢化は世界的に進んでおり、高齢者のお金の問題は世界共通の課題となっていることが背景にあります。
 
この「プライオリティ」は、主に政策立案者や規制当局、金融機関などが取り組むべき項目となります。一方、自分自身が高齢になったときに抱える問題を想像するのに役立つ参考資料が、その中で提示されていました。世界各国の当局者が考える高齢者のお金の問題の原因を、順位化したものです。
 
「金融消費者保護当局によって高齢者の金融排除の原因とされた上位10項目」
【1】デジタル能力の低さ
【2】金融リテラシーの低さ
【3】認知能力の衰え
【4】身体能力の衰え
【5】社会的孤立
【6】年金や年金保険に依存した生活
【7】家族への依存
【8】お金に関する助言へのアクセスが困難
【9】高齢者のための金融商品の不足
【10】金融の専門家への依存
 

高齢者が直面するお金の問題

年を取ると、進化するネットサービスが使いづらくなり(【1】)、新しい商品も理解しづらくなるかもしれません(【2】)。キャッシュレス化になじめず近所のATMに行きたくても、歩いていくのを不便に感じたり、たどり着いても操作する画面が見えづらくなったりするかもしれません(【4】)。
 
さらに、認知能力の衰えが大きく進んだ場合には(【3】)、お金を管理すること自体が難しくなると考えられます。お金があったとしても使えないのです。
 
また、認知症の発症までには至らなくても、高齢化とともに、判断力や判断方法に変化が出るとする研究は多くあります。例えば、高齢者は選択肢が多いと判断しづらくなり、シンプルな選択肢を好む傾向があるとされます。
 
あるいは、過去の経験からくる直観に基づいて判断をしがちになるともいわれます。さらに、相手の説明の仕方によって判断が変わる度合いが、若いときよりも大きくなる傾向があるとされます。
 
こうした判断力の変化は自分では意識しがたく、そのため、【5】や【8】などの要素も加われば、金融詐欺の被害者となる可能性も高まります。
 
詐欺とはいえなくても、自分の不利益となりかねない商品を、金融機関の言いなりに購入してしまうこともありそうです(【10】?)。お金を持っていても、それを失いかねないということです。
 

老後に向けて、お金を貯めること以外に備えておくこと

こうした高齢化に伴うお金の問題を避けるには、どうすればよいのでしょうか? デジタル能力や金融リテラシーの向上に日々努めることは重要といえますが、「言うはやすし」で、実際には簡単なことではありません。認知能力の衰えにいたっては、現在の科学では完全な予防策はまだありません。
 
やはり現実的な備えとしては、自分一人ではうまくお金の管理ができなくなることも想定して、お金のことを頼める相手やサービスを決めておくことになると思います。信頼できる家族や友人がいる場合は、自分のお金に対する考え方や将来の希望を、あらかじめ伝えておくことが望ましいでしょう。
 
もしそうした適当な人がいない場合には、成年後見人制度というものもあります。ただし、成年後見人は自分で選ぶことができず、またこの制度を利用するのは認知能力が低下しているときになります。そのため、備えとしては、任意後見人制度のほうが適しているケースも多いでしょう。
 
ただ、後見人制度については、メリットだけでなく、費用や後見人による使い込み等といったデメリットもあるため、制度内容と自分のニーズを慎重に照らし合わせて吟味する必要はあります。
 
今回の「プライオリティ」を受けて、高齢者向けに、より使いやすい新たな金融サービスが増えていくことも期待されます。
 
実際、ある大手信託銀行が最近、認知症と診断されるまでは自由に払い出しや解約ができる一方、診断後は払い出し等に制限がかかる新商品を発売すると発表しました。今後も、自分により合った新しい商品やサービスがないか、アンテナを張っておくことも重要となりそうです。
 
お金を貯めることが一朝一夕にはできないように、お金のことを任せられる人やサービスを見つけることもすぐにはできません。老後に備えて、どちらもじっくり取り組む必要があると思います。
 
出典 
 
執筆者:北垣愛
マネー・マーケット・アドバイザー

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