認知症の発症者は、内閣府の推定値によると、2015年には517万人〜525万人(※1)になっているとされています。多くの認知症者には家族がおり、日常生活支援とともにお金(金融)の問題は大きな課題となっています。   ここでは、日常的な家族間での金銭管理の問題というよりは、制度と法律的な認知症者の金融問題にスポットを当ててみることにしましょう。  

認知症の人(判断が困難になった人)向けの制度

正常な判断ができなくなった認知症者が利用するのに適している制度は、成年後見制度です。
 
しかしながら、この成年後見制度の利用率は極めて低く、平成30年12月末時点の利用者は21万8142人(※2)にとどまっています。これは推定認知症者数約520万の約4.2%です。ほとんどの認知症者とその家族は、それ以外の方法で金融資産(預貯金)を保育・管理していることになります。
 

金融機関における取引の代行が可能な他の制度

軽度の認知症者を含め、自分で金融機関窓口やATMに行けない人向けのサービスとしては、以下の制度が考えられます。

委任状による代理

各金融機関は所定の委任状を準備しており、認知症が軽度であると判断され、受任者の本人確認ができれば、預金の引き出しなどが可能です。ただ、引き出しの許容額や認知症の進行度合いによる取り扱いは、金融機関ごとに異なっているのが実情と考えられます。
 
また、委任状による預金の引き出しや解約、通帳の再発行については、金融機関側は「預金の引き出しや解約が本人の意思によるものか」を確認することになります。中小の金融機関では、このような場合の規定が明確でないケースもあり、時間を要することにもなりかねません。
 
金額が大きくなれば、当然、金融機関も成年後見制度の利用を求めることになるはずです。委任状での代理には頻度の問題もあり、回数が多くなれば、金融機関は正式の制度である成年後見制度の利用を薦めることになると考えるべきでしょう。

日常生活自立支援事業

認知症者や、障害のため移動が困難な人向けには、各市町村にある社会福祉協議会が「日常生活自立支援事業」を行っています。金銭に関わることでは、「日常的金銭管理サービス」と「書類等預かりサービス」があります。
 
「日常的金銭管理サービス」は、預金引き出しなどが困難な人を対象に、週1〜2回の頻度で預金から現金を引き出してもらい、自宅で受け取るサービスです。さらに社協によっては、税金や公共料金・保険料などの支払いの手続きを代行するところもあります。
 
また、現金の届け時に会話をすることもでき、好評な制度として利用されています。費用は毎月0円〜1万円程度になりますが、利用者の所得状況によって設定されるのが通例です。
 
「書類等預かりサービス」は、年金証書、通帳、権利書、実印などを預けるサービスで、で、実際の保管は金融機関の貸金庫で行います。費用は毎月500円から1500円程度のようです。こちらは預かり品の種類によって、費用設定されるのが一般的です。
 

特殊詐欺や使い過ぎへの対応

認知症が軽度の段階における、特殊詐欺や高額品の重複購入などの事例が多く発生しています。特殊詐欺の防止策の一つとして、さまざまのメディアで紹介されておりますが、あえて付け加えるとしますと、ATM利用限度の引き下げという方法もあります。
 
コンビニATMは、一日当たり引き出し額は20万円程度ですが、預金元口座では100万円、200万円になっているケースも多く、必要に応じて見直し、減額することも一考でしょう。
 

健常者の立場での備え

70代以上高齢者の金融資産保有比率は非常に高く、将来の認知症発症の可能性を考えた場合は、大きな課題を抱えていると言えます。70歳代・80歳代と言っても個人差があり、一律に考えることはできませんが、80歳前には一応以下のことを考えることが必要ではないでしょうか。
 
 ・金融資産の区分け  生存中の取り崩し預金額とそれ以外
 ・任意後見制度の利用
 ・日常生活支援サービスの利用
 ・遺言書やエンディングノートの作成
 ・家族での約束ごとの取り決め
 

まとめ

認知症者の金銭問題について、認知症者と家族の間の日常的な対応の仕方は、多くの経験に基づいた対処法があります。制度や法律を、正しく受け止めた場合の選択肢をここでは整理してみました。家族と自身のための参考にしていただくのはいかがでしょうか?
 
出典


 
執筆者:植田英三郎
ファイナンシャルプランナー CFP

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