【ご相談内容】 45歳のB子さん。夫は3歳年上の48歳で、仕事は洋食屋の二代目。地元のお祭りの世話役をしており、年1回のお祭りなのに、しょっちゅう会合だといっては出掛けます。趣味はサーフィンとゴルフ。その後も飲み会です。   子どもは男の子が一人。大学生になり、寮で生活をしています。夫は「子どもの学費のめどもついたな、あとは気楽に生きよう」と言いますが、老後のお金が心配です。   B子さんは「老後は2000万円必要なのですよね? そんなに貯金がないのですが、大丈夫でしょうか。今のうちに離婚したほうが良いのでは?」と相談にきました。  

「老後2000万円問題」は全員共通ではない!

2019年6月、マスコミ等で大きな話題となった「老後2000万円問題」。この問題の本質がわかっていない方が多いと思います。マスコミはおもしろおかしく、情報の一部を切り取って公表していますから。
 
この問題の発端は、金融庁のワーキンググループがまとめた報告書です。このワーキンググループには、世界の金融事情にも詳しく、各界で活躍している方々が選ばれています。この報告書は、作成までにさまざまな情報が研さんされ、かつ一般の方にもわかりやすい言葉を使って書かれており、素晴らしい内容です。
 
約50ページ、30分もあれば読めます。しかし多くの方は、この報告書を読まずに、その中のわずか一部分を切り取って「2000万円も足りないとはどうゆうことだ」と大騒ぎしたのです。
 
しかし、この報告書の本来の目的はそうではないと思います。これから日本が抱える『高齢化社会』に対してのさまざまな注意喚起です。その中で、「老後2000万円問題」にあたるページは『収入・支出の情況』であり、小見出しは『平均的収入・支出』とあります。
 
そうなのです。あくまでも平均です。平均寿命は男性が81.25歳、女性は87.32歳ですが、誰しもがその年齢で亡くなるわけではありません。老後のお金も同じ。あくまでも現状のモデルケース(平均値より選出)で計算をした場合は、「2000万円ほど足りない」ということなのです。
 
ご参考までに、下記にそのモデルケースを記載します。
 
【2000万円問題のモデル夫妻の毎月の収支】
 
夫65歳、妻60歳(妻は専業主婦第3号)
収入:20万9198円(公的年金19万1880円)
支出:26万3768円
差額:5万4570円
 
上記の差額を1年間に落とし込むと約66万円です。30年で約1965万円になるので、「2000万円の不足」と表現されたのでしょう。
 
しかし、ここで問題があります。あらためてこのモデルケースの収入をご覧ください。ご夫婦で公的年金が約20万円あります。共働き家庭が全体の過半数を占める今、この数字を上回る家庭も下回る家庭もいるでしょう。
 
ご自身の家庭は、どちらに当てはまるかわかりますか?
 

老後の収入はいったいいくらあるのか?

Bさんの夫のようなケースを「自営業の二代目問題」と個人的に呼んでおり、実はご相談がとても多いのです。現在、50代前後の方は、自営業の親をみて安心しきっている感じがします。なぜなら、高度成長期からバブルにかけて、個人事業主の方も景気が良く、多くの方のご商売は繁盛しました。ですから預金も多くでき、またその預金が利息を生んでいたのです。
 
平成2年9月(1990年)時点、郵便局における3年以上の定額預金の金利は6.33%。100万円を10年間預けると、なんと、169万1893円になったのです。当時は、一生懸命働いて、お金を定期預金に預けていれば自然と増えていったのです。その親と同じようにしていれば大丈夫、という感覚でいると大変危険です。令和時代は、そうはいきません。
 
B子さんにお話を伺うと、売上も先代のときより良くないそうです。理由は「どっちつかず」であるとか。洋食屋として味はおいしいが、珍しいメニューがあるわけではない。加えて、特に若い人にとって金額が高い。どんな職業でも、「良き時代のまま」でいたら売上はあがりません。
 
また、現在は儲けたお金を単純に貯金しただけでは増えなくなりました。今のゆうちょ銀行の定額預金の金利は、3年以上で0.010%です。そう、今は100万円を10年間預けても100万796円(税引後)にしかならないのです。
 
時代は変わっていることを、よく考えたほうが良いでしょう。
 
自分が販売や提供している商品も金融商品(貯金)も、昭和や平成の初期とは様変わりしました。
 
さらに、B子さん夫婦の公的年金は国民年金ですが、夫は20代の頃に支払いをしていませんでした。B子さんは高校を卒業してから結婚するまでの間、約6年間は会社員で厚生年金に加入していましたが、そう大きな金額にはなりません。まるっと試算すると、下記のような年金額が予測されました。
 
【B子さん夫妻の年金予測金額】
 
夫:216ヶ月加入 このまま払い続けたとして→360ヶ月≠58万6000円
B子さん:厚生年金+国民年金 →480カ月≠85万2000円
夫婦合計 143万2000円(月11万9333円)
 
まず、夫婦合算で公的年金は143万2000円、月額にすると11万9333円にしかなりません。モデルケースの夫妻と比べるとその額は62%。そうなのです。会社員と自営業者の公的年金の受給額は、こんなにも開きがあるのです。
 
ちなみに、筆者のご相談者さまで同世代の方で、夫婦ともに厚生年金に加入しているご夫婦の年金受給見込額は、合算で月額25万円を超える方もいます。
このように、「老後の公的年金の受給額には個人差がある」ということを覚えておいてください。
 
その他の収入で加味しなくてはならないのは、下記のような項目です。
 
・事業収入以外の収入(権利・執筆etc)
・不動産収入
・投資の配当
・加入している個人年金や保険の金額
・相続で入る金額
 
など、把握はしておいたほうが良いでしょう。
 

老後の支出の予測を立てる

老後のお金の計算では「支出」も大事な要素です。モデルケースの夫妻は約27万円でしたが、B子さんご夫妻はどうなのでしょうか?
 
実はB子さんご夫妻、レストランの2階に親が住んでおり、本人たちは近くにアパートを借りていました。毎月12万円の出費です。食費は、まかないがあるので大きくかからないのですが、その分研究費という名の食べ歩き、会合という名の飲み会等、交際費が大きいようです。
 
夫婦2人とも趣味もあります。「いけないとはわかっていても、事業経費と家計費がごちゃごちゃ」とのことで、入った分はそのまま使っているような状況でした。もし、売上が大きく下がったらどうするのでしょうか? 夫は「そうなった時に考える」と楽観的です。
 
しかし、そんなことでは今の時代、生きていけないかもしれません。まずは、事業用と家庭用の収支を分けて、帳簿をつけていただくことにしました。結果は、やはりトントン。削れるところは少なく、家賃を削り同居を決意されました。「いずれは同居をしなくてはならないのだから」とB子さんも覚悟を決めたようです。
 

収入を増やす

自営業の方の良いところは、廃業リスクがある反面、定年退職がないところです。仕事が軌道にのっていれば、元気なうちは働けます。まずは「からだが資本」。健康の維持増進が大切です。
 
次に、B子さん夫婦の事業の収入は、リサーチや長年通ってくださっているお客さまへのアプローチ等で、最低でも現状は維持する努力をすること、別途パーティメニューを考えることにしました。
 
さらに行うことは、年金の繰下げです。あくまでも現況ですが、年金の受取時期を繰下げ(先延ばし)すれば、65歳で受け取るよりも繰下げ上限の70歳で受け取れば、受給額の142%で受け取ることができるのです。
 
B子さんご夫妻のケースでは、仮で
143万2000円×142%=203万3440円(月額:16万9453円)
 
となります。
 
B子さんは「こんな制度があることを知らなかった」と。「義両親も75歳まではお店で働いていたので、今の夫の健康状態などから見ると可能だと思う」とのことでした。
 

お金に働いてもらう

B子さんは、仕事の現役を“70歳になるまで”と定めました。「年金を142%もらうまでは働きます」とのこと。しかし、夫婦2人で月額16万円では足りなそうです。
 
そこで、引っ越し後、賃貸料として使用していた12万円を投資することにしました。全額投資にまわすのは不安そうでしたが、息子さんの大学費用の支払いが終わったら、その分は普通預金にまわすことに。学費で準備した残りも、貯金口座に入れることにしました。
 
さて、月々12万円の積立資金、今から約25年間という時間があります。そうすると、このご夫妻の場合は下記のような投資結果となりました。
 
【積立投資シミュレーション】
月々の積立金額:12万円
期間:25年
金利:3%
金額:5352万939円(元金360万円)
 
金融庁のデータによると、20年間の長期投資のリターン実績は平均4%です。現状では、3%での見積もりは決して大げさな数字ではないでしょう。またここに、税制優遇のある、「iDeCo」や「つみたてNISA」を上手に取り入れて、投資シミュレーションを行っていく予定です。
 

ご相談後のアドバイス

B子さんは「投資に対して恐怖心がありました」とおっしゃっていました。また、「こんなにも大きな違いがあるなんて」と驚かれていました。ご相談の結果、B子さんは離婚をせずに、将来の資産形成について夫と真剣に向き合う決意をされました。
 
上記シミュレーションのように「長期・積立・分散」で資産形成をしていけば、お金は増えます。老後のお金も足りますし、例えば自宅のリフォーム費用等も、この資産運用で捻出できそうです。
 
資産運用は、欧米では当たり前のこと。資産運用の恩恵を受けている人といない人とでは、個人の金融資産残高に大きな差がでています。老後が心配だからと安易に離婚を考えたり、お金のことを考えるばかりで何も行動を起こさなかったり……それではいけません。個人ではどうすることもできない場合は、ファイナンシャルプランナー等の専門家に相談してみるのも良いでしょう。きっと、明るい未来があるかと思います。
 
執筆者:寺門美和子
ファイナンシャルプランナー、相続診断士

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