「人生100年時代」と言われるようになって久しい昨今。資産形成等で老後資金の準備をしつつも、少しでも長く働いて、長生きリスクに備えたいと考える人は多いでしょう。

そうは言っても、年功序列・終身雇用が当たり前に機能していた時代に社会人になり、経験を積んできた「中高年男性」にとっては、定年後はどうやって働けばいいか、むしろ今からどうキャリアに向き合えばいいのか分からないと悩んでいる人も多いようです。さらに、コロナ禍によって、急速に働き方改革が進められることも悩みを深くしているかもしれません。

今回は特別に、日本総合研究所 スペシャリスト・小島明子氏が多様なデータで「中高年の働き方」の現状を明らかにしつつ、悩める中高年男性、ひいては共に働く多くの人に前向きな提言を送る、書籍『』より第2章『中高年男性をめぐる働き方の課題』の一部を公開。

役職定年が“志気”にもたらす影響、シニア社員と若手社員の認識のギャップなど「中高年の働き方」に潜む課題が明らかに(全4回)。

※本稿は『中高年男性の働き方の未来』(小島明子著・きんざい)の一部を再編集したものです。

シニア社員と若手の「共存共栄」のむずかしさ

これからの中高年社員のあるべき理想の姿は、「若手社員と共存共栄できるシニア社員」である。しかし、現実はむずかしいようである。むずかしくさせている原因は何か。中高年社員自身だけの問題なのだろうか。

朝日新聞デジタルの記事※1では、職場にいる働く意欲の低い中高年社員を「妖精さん」と表現をしている。職場でみかけることが少ないため、「妖精さん」という表現が用いられているが、再雇用等で出社はしているものの、朝早く出社し、夕方は早く帰ってしまうため、職場でみかける機会が少ないという。しかし、「妖精さん」と揶揄している若い人でも、歳をとり、体力、精神力が落ちる時期がくる。問題なのは、「妖精さん」の存在ではなく、「妖精さん」をつくりだしてしまった職場や働き方ではないだろうか。

企業活力研究所※2の調査によれば、シニアと若手・ミドルの間のコミュニケーションや協力関係について、「うまくいっている」と回答したシニア層は男性41.7%、女性50.0%であるのに対して、若手・ミドル層では、男性27.6%、女性35.2%とその意識に大きなズレが生じていることが明らかになっている。地位が逆転することへの抵抗感は、シニア層では2〜3割であるのに対して、若手・ミドル層では6割にのぼっている。若手・ミドル層における抵抗感は、元上司であるシニアを部下にすることへの抵抗感(58.3%)と、年上であるシニアを部下とすることへの抵抗感(56.1%)と大きな差はない。同調査では、ミドルは若手と一緒にくくられているため、シニア・ミドルとくくると出てくるデータは少し異なると想像するが、シニア側よりも若手側により抵抗感があることがわかる。

コミュニケーションが良好な状態と一言でいっても、そこにはいろいろな要素があると考える。役職や年齢差を超えて、多様な価値観をお互い認め合いながら個々人が良好なコミュニケーションを築いていける組織風土の存在はもちろんのこと、会社として、若手とシニアの双方が不平不満をもつことがないよう、コミュニケーションの悪化を回避するための工夫も必要である。働き方をテーマにメンバーを変えながら、定期的に意見交換を実施する取組みも一案である。

パーソル総合研究所※3が行ったシニア従業員に対する不公平感に関する年代ごとの調査によると、「私の会社では、シニア社員が給料を貰いすぎていると思う」と感じるかという質問に対して、20代では30.0%、30代では27.6%、40代では20.1%、50代では15.9%、60代では12.8%という結果だった。また、「私の会社では、シニア社員が成果以上に評価されていると思う」と感じるかという質問に対しては、20代では29.7%、30代では26.5%、40代では18.3%、50代では15.9%、60代では11.9%となっている。若い世代ほど、シニア従業員に対して不公平感をもっているのである。同調査では、シニア従業員の疎外状況(組織内での孤立)や、仕事の不透明さが、若手の転職意向を高める影響もあると指摘している。シニアの働き方に課題がある職場は、そのシニアを日頃みている若手の不平不満が生じやすい。将来、自分がシニアになったときの不安を感じ、若手が転職するケースもゼロではないだろう。

さらに、西村直哉・江波戸赳夫氏※4は、世界80カ国以上を対象に、さまざまな価値観を調査した「世界価値調査」(2015年)の結果において、日本人の権威や権力への尊重の意識は他国よりも低く、日本人が権威や権力を圧倒的に嫌っている状況をふまえて、「面従腹背」のような状況の発生や、管理職というだけでは指示を聞いてもらえない状況を生んでいることなどによるマネジメントのむずかしさを指摘している。シニア社員と若手の「共存共栄」がうまくいきづらいのは、コミュニケーションの問題や人事評価制度等の職場環境に加えて、それらの調整役としての役割を担うべき管理職のマネジメント能力不足にも原因があるといえる。

若手とシニア社員の分断のような状況を解消しなければ、「共存共栄」を実現させるのはむずかしい。まずは若手社員がもつ不公平感のもとになっている評価制度を透明化し、もし、評価制度に問題がないと考えるのであれば、若手社員からの不満が解消するように制度を理解してもらう努力が必要である。そしてシニアの仕事の不透明さは、周りの人が何をやっているかわからない組織体質や、コミュニケーションの不足などにも原因があるため、管理職のマネジメントのあり方にも目を向けなければならない。多様な人材が働くこれからの時代では、管理職に調整役としての高い能力が求められ、企業もそのような管理職を教育支援していくことが必要だといえる。

●高学歴中高年男性の働くモチベーションの実態は…? 

※1 朝日新聞デジタル「」(2019年11月11日付)
※2 企業活力研究所「」
※3 パーソル総合研究所「」(2021年6月2日)
※4 西村直哉・江波戸赳夫『世代間ギャップに勝つ ゆとり社員&シニア人材マネジメント』(幻冬舎)

 

『中高年男性の働き方の未来』

 

小島明子著
発行所:きんざい
定価:1,980円(税込)