これからの暮らしに備え、支出の見直し

老後の暮らしに備えて、支出を見直すことはとても大切です。何しろこれからは、「稼いで収入を得る」ことが難しくなるからです。

公的年金は受給額がほぼ固定です。“ほぼ”というのは、現役世代の賃金や物価が変動したりすると、年金額はそれに伴い変動します。これにより年金制度そのものを維持しているからです。とはいえ、コロナ禍でも分かるように店じまいをする飲食店が相次いでも、高齢者の年金が著しく減額されたり支給が止まったりすることはありません。やはり年金生活者の暮らしは守られているのだと理解できます。

いずれにしろ、入ってくるお金は一生涯ほぼ一定ですから、多少なりとも余裕のある暮らしがしたいとなれば支出を減らすのが現実的です。そしてその場合、固定費から見直すのが王道です。行かなくなってしまったジムの会員費、なんとなく続いているスマホのサブスク、年払いやクレジット払いなどの検討余地がある毎月の支払い、夫婦2人の暮らしには不釣り合いな大型車などは真っ先に、断捨離していきたい項目です。

ただし生命保険の断捨離は慎重に行いましょう。なぜならば、生命保険の本来の目的を理解せずさっさと断捨離してしまい、後から悔やむ方も少なくないからです。

ご存じの通り、生命保険は被保険者が亡くなった際に保険金がおりるものです。目的としては、1)子どもの将来を守るため、2)配偶者の暮らしを維持するため、3)相続対策としての3つがあります。

国からの生命保険にも注目

まずお子さんが小さい場合の保険の役割をおさらいしましょう。生活費を稼いでいる父親が亡くなると、母親1人で子供達を育てていかなければなりません。日々の生活費の他にも、子供達の教育費も必要です。特に子供が小さいと思うように働きに出ることが難しいかもしれないので、その分の経済的備えが必要となります。もちろん母親が亡くなった場合も同様に備えが必要です。

18歳までの子どもがいる方が亡くなると、国は遺族基礎年金を支給します。もちろん年金保険料を適切に支払っていることが条件ですが、対象となる子どもが1人だと年額約100万円、2人だと約120万円といった金額が継続して受けられます。また亡くなった人が厚生年金被保険者であれば、遺族厚生年金が遺された配偶者に支払われます。

従って、民間の生命保険は国から支払われる遺族年金だけでは不足すると判断した場合に上乗せとして必要な額だけ別途加入します。これが生命保険の目的の1つ目、子供の将来を守るための保険です。

一方、子供がいない、あるいはすでに成長して親としての役割は果たしたという年代になると、生命保険は配偶者の暮らしを維持するために目的が変わります。

配偶者に対しては、遺族厚生年金が支払われます。遺族厚生年金は、亡くなった方が受け取る予定だった老齢厚生年金の75%です。これは、会社員として働いている時も、定年後に亡くなったとしても年金加入期間が25年以上であれば支給されます。

この遺族厚生年金は配偶者自身が老齢厚生年金を受け取るタイミングで調整されます。細かいルールは割愛しますが、基本的な考え方として遺族厚生年金と老齢厚生年金とどちらか金額が大きい方が優先されます。調整後の年金額が配偶者の老後の生活資金となります。

従って、生命保険を断捨離するべきかどうかは、この配偶者の老後の年金をベースに考えます。もし十分な貯蓄ができていないなど問題があれば、生命保険が配偶者の老後の生活を守る資金となります。

相続の非課税枠を有効活用する

生命保険の3つ目の役割は相続対策です。生命保険には相続税の対象とならない「枠」があり、それを上手に使うことで税金の支払いを少なくしたり、納税資金を用意してあげたい方に適切に現金を渡すことができます。

例えば夫婦に子ども2人という4人家族をイメージしてください。父親が亡くなると「法定相続人」は母親と子供2人となります。父親の財産は法定相続人が法律で定められた割合で財産を引き継ぐものとして相続税が計算されます。

父親が遺した財産が、自宅と現預金合わせて8800万円だとしましょう。するとここから「基礎控除」として、「3000万円+法定相続人の数×600万円」が差し引かれます。このケースだと4800万円が基礎控除です。すると課税対象となる相続財産は4000万円となります。

この場合の法定相続割合は、母親が2分の1、子供がそれぞれ4分の1ずつですから、相続財産2000万円と1000万円、1000万円にそれぞれ税率をかけていきます。すると支払うべき税金は450万円となります。その後それぞれの持ち分で按分して税金を納める、これが相続税のざっくりとした流れです。

では相続財産のうち一部が生命保険であればどうなるのでしょうか? 生命保険には「500万円×法定相続人の数」の公式で求められる非課税の枠が設定されています。ここで母親と子供2人ですから枠は1500万円です。

父親が遺した相続財産8800万円のうち銀行にあった1500万円が生命保険に充てられてらどうなるでしょう。4800万円の基礎控除の他1500万円が別途非課税となります。

この場合、現金が保険に変わるだけで、納税額を450万円から262.5万円に圧縮することができます。また生命保険であれば実際に支払った保険料は1500万円より少ないはずですから、その分資金を有効に使うことができるのです。

生命保険は受取人が現金で受取りますから、その他の相続財産が不動産など分割しにくい場合にスムーズに財産を分けることもできますし、納税資金としての使い勝手も良いのです。

データ集めは専門家に依頼

固定費のうちでも特に金額が大きい保険は、断捨離をすることで支出を大幅に減らすことができます。しかし生命保険の断捨離は素人判断が難しい代表例でもあります。遺族年金の情報しかり、保険の活用法しかりです。

ムダを省くことはとても大事ですが、データが少ないなかで判断すると後悔につながることもあり得ます。ぜひお金のアドバイザーと相談しながら、失敗のない断捨離を進めてください。