意外と知られていないJ-REIT投資の優位性
ニッセイ基礎研究所が8月31日に公表した基礎研レポートで、金融研究部上席研究員の岩佐浩人氏による「株式としてみたJ-REIT投資。その資産特性を考える」と題したレポートが掲載されています。
個人の間で、個別株投資をしている人は大勢いますが、J-REITに積極投資をしている人は、少数です。同レポートでも指摘していますが、延べ数で言うと株式を保有する個人の数は約6460万人。これに対してJ-REITの個人保有者数は約85万人に過ぎず、しかも2021年2月時点の約88万人に対して、約3万人の減少となっています。さらに金額ベースの保有比率で見ても、2015年2月時点の9.7%から徐々に低下傾向をたどり、2022年2月時点のそれは7.2%まで低下しました。
ちなみに上記の数字は、東京証券取引所に上場されているJ-REITに直接投資している個人のものであり、J-REITを組み入れたファンド・オブ・ファンズ形式の投資信託や、東証REIT指数への連動を目標にして運用されるETFを通じて、間接的にJ-REITに投資している個人は含まれていません。あくまでもJ-REITに直接投資している個人の話です。
同レポートでは、J-REITの魅力について、「高配当利回り」、「安定配当」、「低β」の3つを挙げています。
過去19年間の平均配当利回りは4.2%で、TOPIX33業種のなかで最も高い「石油・石炭製品」の2.9%を大きく上回り、かつ配当変動率が年率8.3%で、TOPIX33業種のなかでは「倉庫・運輸」、「小売」について3番目に低いことを指摘しています。これは、配当が高いだけでなく、その配当が安定していることを示しています。
さらに株式市場に対する感応度を測るβ値が低いのも特徴として指摘しています。つまり株価が大きく下げるような局面でも、J-REITの取引価格は比較的安定性を保てるということです。
J-REITが持つこれらの特性は、株式に比べてディフェンシブであり、株式のポートフォリオを保有する個人が、その一部にJ-REITを組み入れることによって、ポートフォリオ全体のリスク度の高さを是正する余地が高まります。
「証券会社が儲けにくい」J-REITのプロモーションは消極的
では、なぜ個人の間でJ-REIT投資に対する人気が高まらないのでしょうか。理由は、証券会社によるJ-REITのプロモーション不足が考えられます。
J-REITは「不動産投資信託」といって投資信託の一種とされていますが、正確には「投資法人」に分類されます。投資法人は投資を行う法人のことであり、その法人が発行する投資主証券を証券取引所に上場するという仕組みは、まさに株式と同じです。そのため、J-REITの売買を仲介できるのは証券会社のみで、銀行などその他の金融機関は扱うことができません。
したがって、J-REITへの投資が個人の間に広まるかどうかは、ひとえに証券会社のプロモーションにかかっているのですが、残念ながら証券会社はJ-REITのプロモーションには消極的です。
理由はJ-REITをそのまま個人に買ってもらうよりも、J-REITをパッケージにしたJ-REITファンドを買ってもらった方が、証券会社としては実入りが良いからです。
J-REITの売買を仲介した時に証券会社が受け取れる収益は、売買委託手数料のみです。その売買委託手数料も、現在に至るまでの手数料引き下げ競争によって、極めて低率になっています。ちなみに国内最大のネット証券であるSBI証券の場合、約定代金が100万円に対して取られる売買委託手数料は535円です。率にして0.0535%です。売買委託手数料は買いと売りの双方で取られますが、それでも0.107%に過ぎません。
つまり、どれだけ売買を繰り返してもらったとしても、証券会社が受け取れる収益は非常に少ないのです。
しかも、株式のようにデイトレーダーのような短期売買を行う投資家がJ-REIT市場に大勢いるならば、証券会社としてもJ-REITのプロモーションに力を入れるのかも知れませんが、J-REITは値動きが比較的安定しているため、値幅取りを狙って頻繁に売買を繰り返すような投資方法には不向きです。つまりJ-REITは、証券会社にとってうまみの少ない商品なのです。
J-REIT「ファンド」は手数料が高めに設定
では、J-REITを組み入れて運用する投資信託はどうでしょうか。これは個別ファンドや販売金融機関によって違ってくるのですが、まずJ-REITファンドの場合、購入時手数料を購入者から徴収できます。これは販売金融機関によって料率が異なり、かつなかには購入時手数料を取らないノーロード型のファンドもありますが、いくつかのJ-REITファンドの購入時手数料を調べると、なかには上限として購入代金の3.3%としているようなものもあります。J-REITの売買にかかる売買委託手数料に比べて、はるかに高い料率を設定することが出来るのです。
さらにJ-REITファンドの場合、購入時手数料に加えて、信託報酬に含まれる販売金融機関の「代行手数料」も収益にすることができます。
これはファンドによって料率が異なるのですが、たとえば年率にして0.4%程度が、販売金融機関の受け取る分として設定されていたりします。つまり購入時手数料と信託報酬の代行手数料分を合わせると、J-REITの売買委託手数料と比較して、効率的に稼げることになるのです。そのため、証券会社はJ-REITよりもJ-REITファンドの販売に力を入れる傾向が見られます。結果、J-REITのプロモーションが疎かになり、個人の間になかなか広まらない、ということになるのです。
ただ、これは昔から言われているのですが、証券会社が積極的にプロモーションしない商品は、実は個人にとってメリットが大きいというケースが結構あるのです。なぜなら証券会社は、自分たちが儲かる商品で無ければ積極的に販売しようとしないからです。これは一昔前のETFやインデックスファンドがそうでした。
J-REITもご多分に漏れず同じです。証券会社が手数料などで儲からないということは、それを用いて運用する側からすれば、それだけローコストで運用できることになります。
もちろん、J-REITの場合、営業収益から差し引かれる営業費用がコストであると考えられなくもありませんが、営業費用に含まれる資産運用報酬の額は、たとえばJ-REITのなかでも最も歴史のある「日本ビルファンド投資法人」の2022年6月期で19億1700万円です。
同ファンドは6カ月間で1期なので、年間にするとその倍の38億3400万円。これに対して、バランスシート上の総資産額は、2022年6月期で1兆3677億1900万円ですから、総資産額に占めるコストは0.28%に過ぎません。
もちろんJ-REITの方が、J-REITファンドに比べて最低投資金額は大きくなりがちですし、J-REITファンドのような分散投資をしようとするならば、かなり多額の資金を必要としますが、コストの低さ、安定していて、かつ相対的に高いキャッシュフローが期待できるという点で、個人ベースでもJ-REITへの直接投資を積極的に検討する価値はあると考えられます。